米有力紙「バイデン氏は大統領選 撤退を」 本人は巻き返し誓う

秋のアメリカ大統領選挙に向けた初のテレビ討論会を受けて、有力紙ニューヨーク・タイムズは、再選を目指すバイデン大統領(81)の不安定さを指摘し、バイデン氏に選挙戦から撤退するよう求める社説を掲載しました。バイデン氏は一夜明けたあとの演説で巻き返しを誓いましたが、撤退圧力が強まるきっかけとなるのか、関心を集めています。
解説していきます。
(ワシントン支局長 高木優)

Q.バイデン氏への撤退圧力はどれくらい強まっているのか?

A.リベラルな論調で知られるニューヨーク・タイムズが、アメリカのバイデン大統領にいわば引導を渡す内容の社説を掲載したことを速報で伝えたテレビ局もありました。

社説は、テレビ討論を見た民主党の支持者の多くが抱いた「危機感」をはっきりと言葉にしたものと言えます。

Q.27日のテレビ討論会のどんな場面に「危機感」を?

A.バイデン氏は27日に行われたトランプ前大統領(78)とのテレビ討論会で声がかすれ、数秒間ことばに詰まる場面がありました。

また、トランプ氏による批判に切り返せない場面が目立ち、民主党の一部からもバイデン氏を党の候補者に指名することを疑問視する声が出ていると伝えられています。

討論会から一夜明けても、バイデン氏がことばに詰まったシーンは、全米のネットワークで繰り返し流されています。

Q.ニューヨーク・タイムズ社説 具体的には? 民主党内からは?

A.前回の大統領選挙でバイデン氏を支持した有力紙ニューヨーク・タイムズは28日、「バイデン氏は選挙戦から撤退すべきだ」とする社説を掲載しました。

社説では「トランプ氏の危険性、この国の将来、そしてバイデン氏の不安定さを考えれば、アメリカは共和党候補に対抗できる、より強力な人物を必要としている」と指摘しています。

そのうえで、「選挙戦のこの時期になって新しい民主党の候補者を立てることは容易ではない」としながらも、「民主党にとって極めて明確な道筋とは、バイデン氏では選挙戦を続けられないことを認め、11月にトランプ氏を負かすことが可能な人物を選ぶプロセスを始めることだ」と指摘し、バイデン氏に撤退を求めました。

主要メディアは、仮にバイデン氏が撤退したら、誰が代わりとして有力となりうるのかをこぞって予想しています。

とはいえ、民主党内からは、公然とバイデン氏の撤退を求めるような動きは今のところ見られません。民主党の重鎮のオバマ元大統領は、バイデン氏への支持は揺るがないと強調しています。

Q.バイデン氏本人は?

A.バイデン氏は討論会から一夜明けた28日、南部ノースカロライナ州で演説し「打ちのめされても立ち上がるのだ」と述べて、巻き返しを誓いました。

ただ、民主党支持層の読者を多く抱えるニューヨーク・タイムズが社説で撤退を求めたことで、バイデン氏への撤退圧力が強まるきっかけとなるのか、関心を集めています。

Q.ずばりバイデン氏の撤退はあり得ますか?

A.バイデン氏の判断次第ですが、現時点では撤退の可能性はさほど高くないと見られています。

理由の1つに、バイデン氏の心を動かすことができる唯一の存在とも言われるジル夫人が、夫の選挙戦を支える姿勢を変えていないとみられることがあります。

さらに民主党内に、バイデン氏に代わる、知名度の高い人物がなかなか見当たらないこと、この時期から巨額の選挙資金を集めるのは難しいということもあります。

ただ、仮にバイデン氏が撤退するのであれば、代わりとなる候補者の立ち上げの時間を考えた場合、判断に残された時間は非常に限られています。

当面、バイデン氏やその周辺、民主党有力者の動向に最大の注目が集まることになりそうです。