インバウンドコラム
世界的に新型コロナウイルスが蔓延する一方で、現在主流となっているオミクロン株が感染者を重症化させるリスクが低いとの観点から、国境規制を緩和する動きが加速している。東南アジアでも、ワクチン接種済みの外国人観光客を隔離なしで受け入れるなど、観光業の回復に向けた措置が段階的に導入されているほか、新型コロナウイルスを今年からエンデミック(風土病)として扱う動きも出ているようだ。今回は、ベトナム、マレーシア、インドネシア、タイの状況をお伝えする。
ベトナム、約2年ぶりに外国人観光客の受け入れを再開
ベトナムは3月15日から入国制限の大半を解除し、外国人観光客の受け入れを再開した。ベトナムが観光客の受け入れを再開するのは2020年3月以来の約2年ぶりとなる。ワクチン接種完了証明書と、出発前72時間以内に実施したPCR検査の陰性証明書などを提示すれば、入国後の隔離が不要となる。また、一時停止中となっていた日本や韓国などへのビザ免除措置も再開した。
入国規制の緩和に伴い、ベトナム航空は3月より、日本発着の「中部=ホーチミン」「関西=ホーチミン」「福岡=ハノイ」「福岡=ホーチミン」線を再開。さらに、7月からは「成田=ダナン」「羽田=ハノイ」線の運航を再開する。
ベトナムの1日当たりの新規感染者は現在、右肩上がりで増加しており、3月14日には16万人以上の市中感染者が確認された。しかしワクチン接種を完了した人は人口の約8割で、3回目の接種を終えた人は4割を超えている。ベトナムは当初、「ゼロコロナ」政策で成果を上げていたが、経済への打撃が大きく、企業や国民からの不満が高まっていた。そのため、政府は新型コロナウイルス対策の規制を見直し、段階的に緩和している。
マレーシア、4月1日以降はワクチン接種完了で入国後の隔離が不要に
マレーシアのイスマイル・サブリ首相は3月8日、新型コロナウイルス対策として実施している入国後の隔離措置を4月1日から撤廃し、国境を開放すると発表した。4月1日以降は、ワクチン接種を2回完了していれば、入国後の隔離が不要となる。ただし、出発48時間以内のPCR検査とマレーシア入国後24時間以内の抗原検査は引き続き義務付けられる。サブリ首相は同日の会見で、「4月1日から、この国はエンデミックへの移行段階に入る」と宣言している。
マレーシアでは、オミクロン株の流行に伴い、新型コロナウイルスの新規感染者数がピークに達しているが、重症者の割合は少なく、全人口の半数近くがブースター接種を終えていることもあり、この緩和措置によって病床がひっ迫する事態には陥らないと判断した。同首相は入国規制の緩和に伴い、「観光業が息を吹き返す」と語っている。
インドネシア、3月8日からバリ島含む3島で外国人の隔離なし入国を開始
インドネシアのバリ島、ビンタン島、バタム島では、3月8日より、新型コロナウイルスワクチンを2回接種済みの外国人観光客を隔離なしで受け入れる措置を、試験的に開始した。滞在ホテルの最低3泊4日分の事前支払いと、出発48時間以内および入国後のPCR検査で陰性であることが条件となる。入国後は、到着時と到着3日目にPCR検査を受け、陰性であればインドネシア国内の別地域への訪問も可能だ。また、新型コロナウイルス感染症の治療費を2万米ドル(約235万円)以上カバーできる医療保険への加入が必要。インドネシア政府は、この試験運用がうまくいった場合、4月1日から全土で隔離なしの入国を認める意向を示している。
インドネシアの1日当たりの新規感染者は減少傾向にあり、2月中旬には6万人を超えた日もあったが、現在は2万人を下回っている。
タイ、テスト・アンド・ゴー制度3月よりさらに規制緩和
タイ政府は、ワクチン接種済みの外国人観光客を対象に入国後2回のPCR検査(検査時の1日目と5日目は指定ホテル滞在が必要)を条件に入国時の隔離を免除する「テスト・アンド・ゴー」制度を2月1日に再開したが、3月1日にはこの制度をさらに緩和し、2回目のPCR検査を抗原検査に変更した。入国者は5日目の検査を各自で実施できるようになり、指定ホテルでの滞在が不要となった。また、医療保険の最低補償額も5万米ドル(約587万円)から2万米ドル(約235万円)に引き下げられている。タイの新規感染者は今年2月末に過去最多を記録したが、オミクロン株は従来株に比べて重症化しにくいという点が、緩和に踏み切った理由だという。
タイ保健省は、今年7月1日から季節性インフルエンザなどと同様に、新型コロナウイルス感染症をエンデミックとして扱う計画を進めている。タイ国政府観光庁(TAT)はこの動きに伴い、ワクチン接種の有無にかかわらず、入国前後の検査を完全に撤廃する方針で動いている。
ロシアのウクライナ侵攻で帰国便キャンセル、タイリゾートで観光客足止め
なお、ロシアのウクライナ侵攻により、航空会社による帰国便がキャンセルとなり、何千人ものロシア人観光客がタイのビーチリゾートなどで立ち往生していることがわかった。VISAやMastercardなどのクレジットカードの利用停止により、支払いも移動もできない状態だ。タイ政府観光庁長官の話では、現在ロシア人6500人とウクライナ人1000人ほどが、人気ビーチリゾートであるプーケット、サムイ、クラビ、パタヤの4カ所で足止めをくらっているという。
入国規制が緩和されて以来、タイのビーチリゾートを訪れる外国人観光客は増えたが、そのなかでもロシア人は存在感を増していた。今年1月には2万3000人、2月は1万7600人ほどがタイを訪れている。
タイ政府観光庁によれば、ロシアからの直行便はほとんどが運休しているが、中東を拠点とする航空会社を利用すれば接続が可能であるため、帰国希望者への支援を行っているとのこと。とりあえず現金や、銀聯クレジットカードを持っている人は支払いが可能だという。タイ政府は長期滞在を余儀なくされている人に対して、30日間のビザ延長を無料とし、低料金で滞在できる宿泊施設を探している。
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