インバウンドコラム
日本では6月から1日あたりの入国者数上限が1万人から2万人に引き上げられ、6月10日からはついに外国人観光客の受け入れが始まる。日本国内について、2022年は新型コロナウイルス感染症拡大後、初めて緊急事態宣言もまん延防止等重点措置もないGWで、最大10連休となる大型連休だったことから、国内旅行にいく人が2021年の1.7倍ほどにもなったという(JTB調べ)。しかし、海外への旅行については未だ躊躇する人も多いのではないだろうか。家族がアメリカに居住しているため、コロナ禍も年に数度、日米往来をしてきた筆者の実感値も含めて、アメリカでの国内外の旅行需要回復についてレポートする。
▲シアトルにあるアメックスのセンチュリオン・ラウンジにできた入場待ちの列
2022年の春休み、多くの人出で大混雑となった米国の空港
「アメリカの旅行需要の戻りはすごい!」と最初に驚いたのは、ロセンゼルス国際空港(LAX)にオープンしたデルタ航空のセントラル・ヘッドハウスのプレス発表会のために2022年3月28日にLAXに降り立った時だ。ターミナル2のデルタ航空のゲートは、満員電車さながらの人の波。ゲート前の椅子はすべて埋まっていて、ゲートのレストランなども大にぎわいだった。(時間はすべて現地日付)
▲左:2022年3月28日、すでに大混雑のLAXターミナル2のゲート。右:新しくオープンしたデルタ航空のヘッドハウス内には新しいチェックイン機がずらり並び、需要増に備えていた。
CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が2022年2月25日、国内の感染状況が落ち着いている州や地域を対象に、屋内でのマスク着用を不要とする方針を発表。取材した3月28日は、CDCの発表後に始まった春休みが明けた日で、帰宅する家族連れの旅行客、職場に戻る人などで空港は「ごった返す」という表現がぴったりの様子。この時点では、航空機や空港内、公共交通機関はまだマスク着用必須だったが、そのほかの場面では、飲食店内も含めほとんどの人がマスクをしない状況にすでになっていた。
米国の航空利用旅客、2019年比7割まで回復、米大陸や欧州が人気
アメリカ合衆国国際貿易局(International Trade Administration、ITA)の発表しているデータによると、2022年4月のアメリカ国際線の航空利用旅客(出発+到着合計)は1,545万人で前年に比べて167%増加。これは、パンデミック前の2019年4月の73%に達する。また2021年11月まで閉ざされていた(つまりほぼゼロだったので)、米国と欧州間の旅客については1,003%の増加となった。
航空利用旅客の往来上位国は、メキシコ309万人、カナダ168万人、英国119万人、ドミニカ共和国79万3千人、ドイツ65万3千人となる。アジアは、まだまだ少ない。
なお、2022年4月の航空利用旅客のうち、米国市民権を持つ航空旅客は合計834万人で、2021年4月と比較して+149%、2019年4月と比較すると-13.6%まで来ている。
観光往来も復活を見せるポートランド、MICE需要も徐々に回復
筆者のアメリカでの拠点であるアメリカ北西部に位置するオレゴン州ポートランドの観光局Travel Portlandの古川陽子氏にポートランドの観光需要の現状を伺った。オレゴン州の州都はセーラムにあるが、ポートランドはオレゴン州最大の都市で、アメリカ北西部においてシアトルに次ぐ経済と観光の中心。ストリートカーなど公共交通システムも発達しており、グリーンシティとして評価も高く、全米で一番住みたい都市に選ばれることも多い場所だ。
「2021年11月に欧州からの往来がオープンになり、2022年5月には4つの航空会社が欧州からポートランドへダイレクトに乗り入れており、観光往来も復活した感じです。ナイキやインテルといったポートランド近隣の大企業のビジネス需要は限定的ですが、大規模な集会ができるようになったことで、MICE需要は戻ってきており、この春からポートランドでのコンベンションも開催されています」と語る。
▲ポートランド名物のローズフェスティバル。2022年はマーチングバンドが盛り上がった。©Travel Portland
今後のさらなる需要喚起については「イベントは大事な要素だと思っています。ポートランドでは5月下旬のローズフェスティバル、7月の独立記念日あたりのブルースフェスティバル、7月下旬に2年ぶりの開催となるクラフトビールの祭典ビールフェスティバルと目白押し。観光客を呼び込む契機として、PRにも力を入れています」と語る。単にイベントの集客だけでなく、こうした需要が、コロナで活気を失ったダウンタウン中心部の活性化に貢献するという目論見もある。
さらなる円滑な入国に向けた取り組みも加速する米国
アメリカで、いま規制の基準として見られているのは、オミクロンによる感染者数ではなく、医療のひっ迫度。そこが問題なければ、マスク着用などの規制は設けないという姿勢だ。
ブランドUSAをはじめ、米国の様々な地域の観光局日本事務所を請け負っているAVIAREPSの高久渉氏は「アメリカに来る観光客を増やすという点では、全米旅行産業協会(U.S. Travel Association )が、ワクチン接種証明を条件に、渡米時に必要なフライトから1日以内のCovid19検査陰性証明書の航空会社への提出をなくすためのロビー活動をしています」という。
日本入国の場合、現在は出国72時間以内に取得の必要があるCovid-19検査の陰性証明書について、日本政府の書式に合わせ、検査機関のサインをもらわなければならない。検査をしてもらえる施設に予約をするのも、費用もかなりたいへんである。入国時については、ファストトラックによって、アプリ上で事前の手続きをすれば、かなりスムーズにはなってきているように思うし、6月1日からは、ワクチン接種を条件に一部の国・地域からの入国時のPCR検査は免除になった。問題は、日本への便に乗る際の陰性証明書である。
またアメリカで印象的なのは、3月に訪れたロサンゼルスや、5月下旬の米国渡航の際の入り口となったシアトル、また地元のポートランドの空港がコロナ禍にもかかわらず、インフラ投資がされていて空港の整備など格段に整っていたことだ。シアトルでは、税関申請書のペーパーレス化に取り組むなどして、感染リスクを軽減するとともに、イミグレーションや税関業務の効率化を図っている。
米国から向けられる訪日への期待やニーズ
このように、コロナ前への復帰からさらなる活性化に向かっているアメリカの観光需要は、まずは入国しやすいカナダや南米、欧州、その次にはアジアに目が向くのは間違いない。Travel Portland 古川氏は「日本は桜や紅葉など自然の美しさ、文化、食などへの人気は高く、需要は間違いなくあると思います」と語り、円安が追い風になるだろうとも言う。
燃油サーチャージなど航空運賃の値上がりについて、AVIAREPSの高久渉氏は「ロングホールの旅程では、米国ー欧州も米国ーアジアも燃油の負担増は同じ」という。やはり、日本の観光の魅力がどれくらい高いかということがポイントになりそうだ。
まず一番は、6月以降の規制緩和でどれくらい日本への入国が容易になるか。そこが改善されれば間違いなくアメリカから日本への観光需要が増えるだろう。実際、自由度が高い大学生など、筆者の周りでも「2022年中に日本に行く予定だ」といっているアメリカ人が増えている。
▲まだまだ寂しい羽田国際空港の第3ターミナル
国内でしばらく海外からの観光客を迎えていなかったエリアもあると思うが、今こそ準備時であり、ここでアピールを上手くすることでかなりの活性化が図れるように思う。
筆者プロフィール:
小野アムスデン道子
世界有数のトラベルガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経て、フリーランスに。東京と米国オレゴン州ポートランドの2拠点生活を送りながら、旅・観光を中心に食・文化・アートなどについて執筆、編集、プロデュース多数。国内外での観光マーケティングのアドバイザーなども務め、やまなし大使、チェコ親善アンバサダーに就任。また、ウェブメディア『W LIFE』の運営を通して、40代+に旅を軸に上質な生き方を提案。日本旅行作家協会会員。
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