インバウンドコラム

少数精鋭で収益をあげるDMCのビジネス戦略、ターゲットを欧州FITに絞る理由とは?

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インバウンド向けビジネスを展開する事業者の方に、現場で経験したリアルなお話をきくシリーズ。第5回目は、 国内DMCとして訪日旅行手配を手掛ける株式会社ソロ 代表取締役の山田隆氏に、旅行手配の実態や市場ニーズを伺った。

山田氏は2010年に観光分野に特化したコンサルタントを行う株式会社ソロを設立。海外の政府観光局や外資系ホテルの日本でのセールス・プロモーションを行う観光レップとして15年取り組んできた。2020年4月には、「Essential Japan Travel」というブランドの元、インバウンド客の訪日旅行の手配を手掛けるDMC事業を立ち上げた。

コロナ禍を経て訪日旅行が本格的に回復し始めた2023年は、従業員わずか7人で年間1500人以上の旅行手配を手掛け、売上5億円、粗利1億4千万円超を獲得している。世界を舞台に長年、旅行マーケットを見てきた経験から、DMCの必要性と面白さを感じ、事業を始めた山田氏に、同社が手掛ける欧州からのFIT客の特徴やニーズの他、DMCビジネスを成立させるためのコツやポイントなどトークライブでお話しいただいた内容の一部をお届けする。

 

1人当たり旅行予算は37万円、年間1500人手配で売上5億円超えのDMC

DMCとは、Destination Management Companyの略称で、海外の旅行会社から依頼を受け、ランドオペレーターとして、日本国内のホテル予約、ガイド手配、空港送迎やジャパン・レール・パスなど交通手配、体験アクティビティなどの予約手配を専門に行う会社のことです。

私たちは、インバウンド旅行者から直接予約を受けるのではなく、海外の旅行会社からの依頼を受けて見積を出し、成約したら旅行予約・手配を行うという流れです。

Essential Japan Travelでは現在、英語、フランス語、イタリア語、スペイン語を話すスタッフがおり、日々海外の旅行会社からのリクエスト対応と国内のサプライヤーへ予約手配業務を行なっています。ガイドに関しては慢性的な人手不足もあり、全国通訳案内士の資格を持っていなくても、一定のレベルであれば、依頼しています。

海外の旅行会社から見た場合、日本の旅行事業に精通した現地のDMCを通すことで、スムーズな予約手配ができ、各サプライヤーへの個別予約や支払いなどといった手間を省けるというメリットがあります。また、時差が大きい国の旅行会社から見ると、旅行中の急な変更やお客様がトラブルにあったときに迅速に対応してもらえるのも現地DMCに依頼するメリットです。アジア圏に関しては、時差も小さいため、仮に1回目はDMCに手配を依頼したとしても、日本語ができるスタッフを確保すれば、それ以降は直接予約手配ができるケースが多いです。そのような観点から、私は遠距離で時差のある国との間こそ、DMCの存在意義があると感じています。

2020年に設立したEssential Japan Travelはヨーロッパからの個人客(FIT)が9割を占めています。95%が欧州からのお客様で、国別では、1位はデンマーク、2位ベルギー、3位オランダ、4位イギリス、5位フランスとなっています。

現在、約30社の旅行会社と取引があり、そのうち半数の15社は定期的に取引がある会社です。私も含めて従業員数総勢7人ですが、2023年1月から12月の1年間で、約1500人分を受注し、10月末時点で売上5億7200万円が確定、粗利は約1億4200万円です。旅行者1人当たりの予算は平均37万362円で、旅行者1人当たりの粗利は9万2000円です。

 

ヨーロッパ個人旅行の構図から読み解く、1人当たりの日本旅行予算

観光分野のセールス・コンサルタントとして長年、海外マーケットに携わってきた経験と、Essential Japan Travelの実際の顧客データなどを分析した結果、ヨーロッパ市場の傾向や構図がみえてくると同時に、DMCの存在意義、ビジネスチャンスがあることがわかってきました。

旅行者1人当たりの消費単価からは、イギリス、フランスなど国ごとにインバウンド客の特徴はあるものの、ヨーロッパ全体に共通していることとして、富裕層と呼ばれるハイエンド層は上位10%程度で、その下にミッドハイエンド層が20%、ミッドエンド層が30%、一般(ロウエンド)層が40%というピラミッド構図がみえてきました。

我々が一番得意としているのはミッドエンド層とロウエンド層です。これで全体の70%を占めますので、ここを獲得できれば、十分にDMCビジネスとして成立します。

 

訪日旅行スタイルとニーズ、4つの層にみられる特徴とは

4つの層の旅行の特徴をみてみましょう。なお、ヨーロッパからのインバウンド客全体にいえるのが、旅行期間は平均して14~16日間となっていることです。また、ここでの平均旅行単価に日本渡航にかかる往復の航空券は含みません。

まず旅行者全体の10~15%を占めるハイエンド層(A)は、1人当たりの旅行単価が100万円以上。旅行中は主に5スターホテルに滞在し、ガイドによるフルエスコートが求められることが多いです。他の層との大きな違いは、ジャパン・レール・パスを使わないケースが多く、旅程にあわせた新幹線(グリーン車)の手配や、全日程を通したガイドの手配が必要となります。また、アクティビティは少し凝った内容のプライベートツアーを希望することが多く、例えば、器の金継ぎ体験や芸者とディナーのような体験が好まれています。

旅行者の20~25%を占めるミッドハイエンド層(B)は、1人当たりの旅行単価が60万円前後です。旅行中、4スターホテルに滞在し、空港送迎のみ手配や、東京、京都など主要都市でのガイドを希望し、各滞在都市で1回はアクティビティを希望するケースが多いです。ほとんどの人がジャパン・レール・パスを利用し、王道ルート以外に木曽・高山や直島などへも足を延ばします。

旅行者の30%程度を占めるミッドエンド層(C)は、1人当たりの旅行単価が45万円程度です。3スターホテルに滞在します。一般的にガイドの手配は必要なく、空港送迎の依頼を受けることもありますが、多くは複数グループの混載でもかまいません。ジャパン・レール・パスの手配を希望するケースが多く、ほぼ全員が普通車を利用します。アクティビティに関しては、日本旅行中1回程度求められ、高山でのサイクリングツアーや大阪でフードツアーを手配するケースが多いです。

全体の40%程度を占める一般層(D)は、1人当たりの旅行単価が35万円程度です。旅行中、2~3スターホテルに滞在し、空港送迎やガイド、アクティビティの手配は必要ないパターンが多いです。ジャパン・レール・パスを希望する場合、ほぼ全員が普通車を利用します。旅行予算のうち、宿泊費が9割を占めます。

前掲のピラミッド構図を見てわかる通り、Cのミッドエンド層、Dの一般層が旅行者マーケットの7割程度を占めるため、私たちは、この層をいかに獲得できるかを重要視しています。4つの層を見渡した時、Aのハイエンド層以外はジャパン・レール・パスを使うという点、Dの一般層を除けば、期間や回数に違いはあってもガイドへのニーズがある点は、私たち訪日旅行手配を行うDMCとして抑えておきたいポイントです。

 

欧州からのアクティブ・トラベラー層にお勧めしやすいスポット

先述の通り、Essential Japan Travelの顧客の95%がヨーロッパからのFIT客で、普通とは少し違う場所に行ってみたい、体験したいというアクティブ・トラベラー層です。彼らのニーズに応えられる場所として、私たちがおすすめをしているのが、木曽、しまなみ海道などです。

木曽は東京から京都への移動ルート上にあり、箱根と比較すると宿泊予約が取りやすく、温泉旅館で一泊するのに最適な立地です。アクティブ・トラベラー層からは、旅館に泊まりたいというリクエストも多いので、木曽の旅館をおすすめしています。古い宿場町の景観が残る馬籠から妻籠へのハイキングも人気のコンテンツです。

四国しまなみ海道は、海の景色を楽しみながら長時間のサイクリングができ、今治から尾道の間に宿泊施設も確保できます。宿泊施設とアクティビティなど必要なものすべてがセットアップされパッケージ商品となっているので、DMCとしては非常に売りやすいです。

また、ジャパン・レール・パスを使えば、世界遺産がある広島へも、フードツアーが充実している大阪へも移動が容易なのもおすすめできるポイントです。

木曽、しまなみ海道に共通するのは、訪日客の定番ルートの周辺にあり、アクティビティと宿泊が揃っているという点です。

なお、アクティブ・トラベラー向けに、今後チャンスが見込まれる場所として、九州地方、特に屋久島にも注目しています。屋久島の魅力は大自然の中でハイキングができ、宿泊とレンタカーの手配も可能です。屋久島滞在の後は、温泉旅館が豊富にある九州各地へ新幹線で足が延ばせるのもおすすめしやすいと感じています。

 

インバウンド客に選ばれる宿、飲食店、アクティビティのポイント

お客様からの要望を聞いて宿泊施設を手配する中で特に感じているのは、清潔さが重要であること。特に水回りやロビーなどのパブリックスペースが清潔かどうかを気にするインバウンド客は多いです。

また、ヨーロッパからの旅行客からよく言われるのが、アクティビティの体験時間が短いということです。例えば、45分のお茶席体験をご案内した際、「短すぎる。なぜ60分ではないのか?」といった反応がありました。お茶席や寿司教室のように1カ所で完結するような体験は最低でも1時間以上、可能であれば、1時間半程度あることが望ましいです。

一方、サイクリングやハイキングのような移動を伴う体験は最低でも2時間以上、できれば3時間程度が理想的です。Essential Japan Travelの顧客はオランダ、ベルギーからのFITが多く、サイクリングも非常に人気のあるアクティビティですが、やはりなら3時間くらいはないと納得してもらえません。体験時間が長ければ長いほどいいというわけではありませんが、時間が短すぎるアクティビティは売りにくいです。国、地域によって求める時間は異なりますが、ヨーロッパのお客様を受け入れたいと考えるサプライヤーさんにはぜひ、検討してもらいたいです。

なお、飲食店や旅館においては、一番のハードルは食の多様性への対応です。弊社で受け入れるヨーロッパからのFIT客のうち、1~2割はアレルギーや食べられないものなど食に関するリクエストが必ずあります。特にグルテンフリーやヴィーガンに対応するのは非常に大変なことだと思いますが、実際に木曽では食の多様性に対応できる旅館が選ばれています。

 

DMCビジネス成功のカギはスピード! 具体的な依頼ほど成約率が高い

DMCとしてまだ日の浅い我々が、順調に顧客を獲得できている最大の要因はスピードだと思います。海外の旅行会社から見積依頼が届くと、翌日には返すようにしています。10人規模の会社ですから、見積書を作成するのに多くの時間や手間を割くことはできません。効率的かつスピーディーに見積書を返すために必要なことは、海外の旅行会社からの問い合わせ時の旅行計画の具体性です。旅行する時期や日数、予算、滞在場所、やりたいアクティビティなどが明確である方が成約率は高く、不確定要素が多いと成約につながりません。ただ、DMCの我々は直接、旅行者に希望を聞けないので、パートナーである海外の旅行会社と旅行者の間でどれだけ具体的に詰められたかにかかっています。


▲同社がHPで訴求する強み(出典:Essential Japan Travel HPより)

現在の成約率は45%ですが、目下の目標である50%に高めるために取り組んでいることが2つあります。

1つ目は、曖昧な打診は受け付けないこと。見積依頼は、必要最小限の旅行条件を確定させているもののみ受け付けるよう、フォームを統一しています。

2つ目は、日本の旅行情報を知ってもらうために、パートナーである海外の旅行会社に定期的にオンライン・トレーニングを実施しています。日本に旅行するなら、どの季節がおすすめか、どんな場所で、どのような体験ができるのか、またトレンドスポットなど、最新情報を提供しています。日本旅行に関する知識を深めてもらうことで、FIT客からのニーズの聞き取りに役立ちますし、見積依頼もより具体的になります。

 

サプライヤーのビジネス拡大のポイント、予約の簡素化・システム化

一方、様々なアクティビティを提供する国内のサプライヤーに対しても、ビジネスを円滑に進めるためにぜひ実践してもらいたいことがあります。

最も優先度が高いのは予約方法の簡素化・システム化です。FAXや電話、メールなど従来の方法ではなく、極力人の手を介さず、迅速かつ簡単に予約ができるシステムを導入すれば、ビジネスチャンスはさらに広がると思います。コロナ禍を経験し、人手の確保は最重要でありながら難しいと実感した人も多いと思います。

また新型コロナウイルス感染症の状況により、旅行のキャンセルや延期も多々発生しました。こうした状況を踏まえ、リスクヘッジのためにも、旅行の手配にあたっては、現地DMCに依頼しようと考える海外の旅行会社が増えることが見込まれます。

少ない人数でも柔軟に対応できる旅行予約システムを整え、より多くのインバウンド客を受け入れできるように、共に頑張っていきましょう。

(資料提供:株式会社ソロ)

プロフィール:

株式会社ソロ 代表取締役 山田 隆

オーストラリアのビクトリア⼤学でツーリズム・マネジメントのビジネス学⼠号を取得。以降、観光とホスピタリティ産業の両⽅で20年以上の豊富な経験を持つ。インドやアジア太平洋地域でユニークなシティホテルやリゾートを運営するカペラホテルグループ及び、パプアニューギニア政府観光局・ニューヨーク市観光局では局長として、日本市場のセールス&マーケティングを統括。⽊曽おんたけ観光局では、オセアニア、全ヨーロッパ、アジアマーケットの海外マーケティングディレクターとして従事。これらの経験から、⽇本のDMCや旅⾏代理店との契約や、全国的な共同プロモーションなど⼤規模なマーケティングプログラムに豊富な経験を持つ。英語とイタリア語にも堪能。

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