「ピチュー」と「ピカチュウ」ではどちらを強いと感じるか…世界中で研究が進む「ポケモン言語学」の最前線 なぜポケモンは進化するほど濁音が増えるのか
「ポケモン言語学」という研究分野がある。慶應義塾大学言語文化研究所の川原繁人教授は「ポケモンを遊ぶ人たちには『進化するほど濁音が増える』という連想が働く。これは、日本語話者だけでなく、英語・ポルトガル語・ロシア語でも成り立つことがわかっている。ポケモンの名前を分析することで、言語起源の謎が解き明かせるかもしれない」という――。<中略>
ポケモン世代の学生が目をつけた「進化前後」の名前の変化
ある大学で集中講義を受け持った時のこと。時は2016年。PokémonGOのリリースもあり、世の中はポケモン一色であった。1日目の授業は、上記の理由でずっと音象徴。「ガンダム」って「カンタム」より大きいイメージじゃない? 「ゴジラ」って「コシラ」にすると、急に弱くならない? 濁音って、なんか「大きくて強い」イメージがしない? といった感じである。
すると、その授業に参加していた学生が2日目にスライドを用意してきた。彼曰く、「ポケモンは強くなると進化して名前が変わります。そして、進化とともに『名前に含まれる濁音の数』が増加する傾向にありそうです。例えば、『イワーク』は『ハガネール』に、『ゴースト』は『ゲンガー』に進化します」。
この発表には「素晴らしい」のひと言である。観察としても面白いが、何より、ポケモンの世界には800体近い個体がいる(※)。であれば、統計的な分析も可能ではないか。 <中略>
世界各国でポケモンの名前分析が始まった
「濁音=口の中が広がる」という現象は、物理法則に基づく生理現象だ。「口が閉じて空気が流れ込めば、その口の中は膨張する」という現象は、この地球上で人間が濁音を発音する場合、必ず起こる。であるならば、「濁音=大きい」という連想は、どんな言語の話者でも成り立つはず。幸い、我々が執筆した最初のポケモンに関する論文は、すでに海外研究者の目を引いていて「別の言語での分析を一緒にやりたい」というオファーが殺到していた。
というわけで、複数の研究者チームが組織され、世界各国で、日本語以外の言語でのポケモンの名前の分析や、実験による研究が始まった。そう、知らぬ間に、私は家族タイプの研究チームを作り上げていた。しかも、それぞれが大人の研究者をリーダーとして持つ独立したチームでもあるから、私が全員分の研究費を捻出する必要もないし、学生に細かい仕事を押しつけなくてもよい。知らぬ間に大家族のリーダーとなってしまった私は、2018年に各リーダーを慶應に召喚……招待し、国際ポケモン言語学会を開催した。
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