2009年08月21日

2×2×2-2=6種類

0f7dabf0.jpgスピーカーシステムはユニット(とネットワーク)と箱(と吸音材)から構成されるが、よく観察していると音を大きく決定する要素は3つあることに気がつく。

1)箱の大きさ
ユニットの性質にもよるが基本的に箱の内容積が大きければ大きい程Dレンジ(特に上側)が広くなり、鳴り方にストレスがなくなる。
振動板の前面が部屋の空気と接しているのと同じように、後面には箱の空気が接しており、ユニットからみればどちらも同じ部屋であることに違いはなく、箱が大きいスピーカーは広い部屋と同じように伸び伸びとした音になる。
同じ10cmユニットでも小型バスレフよりバックロードの方がDレンジが広い。これは比較すれば直ぐにわかる。
後面開放のプレナー型スピーカーは箱がないし、長岡バックロードや共鳴管は箱が底抜けになっていて非常に有利、現代スピーカーではオリジナルノーチラスやタンノイが有利である。
JBLのハイエンドスピーカーは逆に小さく、K2(9500)は38cmウーハーに70リッター程度しか容積がない。DD66000は知らないが。

2)箱の作り
板振動が少なく共振の少ない箱は下のDレンジが広い(静か)。「強靭な作りで、しかも定在波が立たず抜けがいい」と言うのが理想、これも部屋と全く同じである。箱が大きくなると板鳴りが増加するので、2)は1)と背反するところがある。概して、長岡スピーカーは共鳴音が多く、最新のJBLやB&Wは非常によく対策されている。YGやクレルも凄いが、僕にはバランスを欠くように見える。 プレナー型は箱の共鳴音がないのは良いが、逆相の音が全面と同レベルで放出されるのが果たして良いのか判断しかねる。

3)ユニットのサスペンション
現実の製品の制約の範囲内ではマグネットが大きい、小さいということは音の性質をあまり左右しない(208E瑤208ESの違いはマグネットの大きさだけに因るわけではない)。
音の性格を決めるのはユニットのサスペンション(エッジとダンパー、広く言えば振動板まで含む)だ。
同じフォステクスでも208SSと208ESの違い、FF165KとFW168HPの音の違いを考えれば納得がいく。
リボン型やコンデンサー型、昔のフルレンジユニットは大抵フラフラのハイコンプライアンスタイプであるのに対し、カーステ用ユニットや168HPは耐入力重視のタイトなサスペンションになっている。
サスペンションがタイトになると大入力時の崩れが少なくなり、硬くなった振動系(バネ)によって音にバネがつき、「ガン、ドン、ビシッ」とメリハリのあるカッコイイ音が出る反面、音量をぶちこまないと動かないのでついつい大音量になってしまう。
サスペンションを固くしたスピーカーは至近距離では耳にきつい。簡単に言えばデッドで輪郭強調型で質量感(量感ではなく重量感のこと)のある音になるようだ。ヘッドフォンのサスペンションが極めて柔らかいのも同じ理屈だろう。
僕が経験した中で、最もタイトなのはB&W N801とTAD(TD-4001など)で、これらは音量を上げれば上げるほどカッコいい音になる。
一部で絶賛されたピュアシステムは強靭で内容積が極小の箱にタイトな168HPを入れた(耐えられるユニットがこれしかなかった?)という変わったスピーカーである。
反対にコンデンサー型やリボン型に箱がないのは、サスペンション(と振動板)が背圧の影響を受けてしまうからで、「箱小×サス緩め」という組み合わせはまともな設計のスピーカーではありえない。なので1)と3)の組み合わせは3種類になり、これに2)の条件を加えれば全てのスピーカーは6種類に分類できることになる。
例えば、B&W M801は「箱大×構造しっかり×サス緩め」だし、タンノイは「箱大×構造共鳴多い×サス硬め」、ウィルソンは「箱小×構造しっかり×サス緩め」に分類される。
この分類をすれば、そのスピーカーの音調と適した音量が気象予報士なみには推測できてしまうというわけだ。

貴兄のスピーカーはどのタイプ?



hinumachan at 23:24コメント(6) 
コンポ 

コメント一覧

1. Posted by LSR   2009年08月28日 01:41
久しぶりの更新、お疲れ様です。
相変わらず、独自の視点から鋭い分析、脱帽です。

個人的にも、ウーハーを押したりしていて、サスペンション&エッジを含めた振動系の動きが硬いスピーカーは小音量時に音痩せするし、量感が足りない感じがしていました。

B&WはM801からN801に移行する段階で、箱容積を減らし、その分キツくなる内圧に抗するため箱強度をUP、そして振動系のバネ係数は硬めに‥‥と、かなり低域の性格を変えたんですね。そりゃあ、N801が好みに合わないM801ユーザが続出するわけだ。

ちなみに当方が聴いた古いスピーカーだと
TRIO LS-1000=「箱小×構造(そこそこ)しっかり×サス緩め」
TRIO LS-202=「箱小×構造ゆるゆる×サス緩め」
KENWOOD LSF-555=「箱小×構造しっかり×サス硬め」
TRIO LS-606=「箱小×構造(そこそこ)しっかり×サス硬め」
KENWOOD LS-M7=「箱中×構造ゆるゆる×サス硬め」

てなトコです。
はっきりしているのは、僕はサス硬い音が全然好みに合わないみたいです。笑
2. Posted by OZ   2009年08月30日 19:13
相変わらず、独自の視点から鋭い分析、脱帽です。

→いや、内容的には特にバネと重石のところがスカスカで、専門家の方から指導が入ったのですが、まあ経験的にマグネットの大きさや種類よりはこれらのファクターの方が大きいと感じているということでした。
径180×20mmと径140×15mmのユニットでは激変まではしませんし、トータルでは後者の方が製品として優れている場合がしばしばです。


個人的にも、ウーハーを押したりしていて、サスペンション&エッジを含めた振動系の動きが硬いスピーカーは小音量時に音痩せするし、量感が足りない感じがしていました。

→カーステ用などの高耐入力ユニットはカッコよく締まった音を聴かせますが、どこかローレベルを切り捨てたような感じがしますね。音が漂ってくれないのです。


3. Posted by OZ   2009年08月30日 19:25
B&WはM801からN801に移行する段階で、箱容積を減らし、その分キツくなる内圧に抗するため箱強度をUP、そして振動系のバネ係数は硬めに‥‥と、
→耐入力アップが最重要課題だったそうで、N801のウーハーは1000Wに耐えるとレポートされていました。

かなり低域の性格を変えたんですね。そりゃあ、N801が好みに合わないM801ユーザが続出するわけだ。
→どちらも非常によく知っていますが、低音の鳴り方は正反対、ツイーターもN801は鮮やかです。変換機に近いのは後者のように思えますが、最新のMFBスピーカーを体験してしまった私にはどちらも「楽器」以外のなにものでもないです。

KENWOOD LS-M7=「箱中×構造ゆるゆる×サス硬め」
→あの箱は構造的には弱いんですね。
一度機会がありましたら、ハーベスやスペンドールの箱を叩いてみてください。ダンプはされていますが、驚くほどボソボソで音を出すと壮大に振動しています。でも、最新のガチガチ金属箱よりも良い点があるから不思議です。
現在のスピーカーはユニットに大変な欠陥があるので楽器と考えて作らないとバランスの良い音は出ないようです。どこかを固めたり締めたりしても弱点が顔を出すだけです。
4. Posted by LSR   2009年08月31日 10:43
ご返信ありがとうございます。

マグネットが大きいとお金が掛かっていそうで良さげに感じますよね。

自宅で体験した国産スピーカーでは、小さな磁器回路のウーハーのモデル(エントリー機)の方が立派なマグネットのウーハーを採用したモデル(高級機)よりも全体のバランスが取れている‥‥なんて事はよく体験しました。

厳密に同じ素材・口径の振動板で、マグネット径の違うユニットを比べたことはないのでハッキリ言えませんが。

MFBウーハーはそれ程凄いんですか。
機会があれば是非聴いてみたいのですが、、
なんせ珍しい&手間がかかるものだからか、身の回りで実行に移している人がいなくて‥
機会がないのが現状です(涙

5. Posted by LSR   2009年08月31日 11:19
→あの箱は構造的には弱いんですね。

あの手のラウンドバッフル3WAYの箱は、作りやすくて見栄えもよかったですが、普及期に限って言えば音は悪かったですね。
(高級機は弄ったことがないので知りませんw)

特にリアバッフルはめ込み式ボルト固定式のエンクロージャー場合、フロントバッフルにも平面で接着されているのみだからか、サイドボードが、どこからも圧縮・テンションを掛けられていないため良く鳴きます。

それでもシステム総体として、心地よい鳴きを追求するような姿勢で纏められていれば悪くないのですが、箱素材は高域に濁りが出る密度の低いパーティクルボード、ユニットは高剛性で固有音のキツイ難しい振動板採用モノ。

M7はそういった矛盾を非常によく表しているスピーカーです。トータルの問題は箱だけではなく、箱の鳴きとユニットの性格との不一致だったりします。
緩く膨らむ箱に、エッジ含め硬いものの振動板をダンプしすぎてヌケの悪いユニットの組み合わせは、ボンボン言うだけの分かり辛い音になっています。

6. Posted by ARX-7   2009年10月06日 10:33
MFBが唯一の突破口とお考えになっているところに不要な情報かもしれませんが、DDDとJPL研究所の20cmバスレフを組み合わせている方がおります。JPL方式の評価は様々で、癖があるという評価もある一方、バスレフ特有の癖がないとの評価もあります。(好みの問題?)
ただし、バスレフで出来るだけ低音(F特)を引き出そうと考えについては成功しているようです。

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