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2016年12月16日 (金)

「北海道・トラピスト修道院の調理場の思い出③」

「北海道・トラピスト修道院の調理場の思い出③」
 
さて、トラピスト修道院は、ヨーロッパ修道院生活の基礎を築いた聖ベネディクトの作ったベネディクト戒律を生活の指針として生活します。聖ベネディクトの精神に従う修道会の中心的な標語は、「祈り、かつ働け」(Ora et Labora)です。祈りと労働を中心にしたシンプルな生活の中で、日々、神を賛美して歌い、神に造られた人間本来の喜びに満ちた生活を志すのです。トラピスト修道院は、特にこの精神に忠実であろうとした特別な修道院です。
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毎日、一日に7回の礼拝の時間があり、皆で祈り、讃美歌を歌います。また、午前と午後に労働時間があります。朝食の後、8時ごろから午前中の労働があります。皆、それぞれの持ち場に向かいます。牧場、畜舎、畑、果樹園、クッキーやバター・ジャムの工場、そして調理場、事務所など。工場では修道士と一緒に地域の方々も働きます。修道士さんたちは、労働をしながら一日七回の礼拝にすべて参加することは難しい場合もありますから、できる範囲で礼拝に参加しながら午前、午後の労働を過ごします。私も滞在中はできるかぎり礼拝に参加しました。そして私は滞在した2年の間に、調理場だけではなく、農園や果樹園、牧場などの仕事の体験をさせていただく機会も何度かありました。
 
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午前中の労働と昼の祈りが終わると、昼食になります。昼食、夕食は普通のご飯を食べる日本食だと言えます。しばらく前から、北海道の男子トラピスト修道院の共同体は日本人だけになりましたから、外国人に配慮した食事の用意は必要ありません。しかし、フランスの母院であるブリュックベック修道院やローマにいるトラピストの総長など、トラピスト修道院の関係者などが海外からも訪れますので、外国人の滞在は頻繁にあります。ゲストハウスにも外国の方が訪れることがあります。その場合は、配慮した献立となります。
 
日々の食事は、焼き魚とか、海藻類とか、カレーライスとか、納豆とか、豆腐ステーキとか、チーズを使ったメニューなど、いろいろと和洋中の日本的な、そして健康的な野菜中心のメニューが登場します。皆、労働者ですから、それなりにちゃんと食べます。食事の量が少なくてふらふらしてしまうようなことはありません。(笑)そして昼の食事でも、夜の食事でも、必ず、取れたての温めた牛乳がデキャンタで置かれます。
 
肉食を控えた極めて健康的な食事と健全な労働の生活のせいか、修道士さんたちは比較的長寿が多く、今は亡くなられましたが、私の滞在した頃には、100歳を超える修道士さんもおられました。まさに、「沈黙の聖人」という感じで、トラピストの生き字引であり、世間の人が誰も気づかない静かな目立たない礼拝と労働の生活を、ずっと続けておられました。いつも静かに微笑んでおられたのが印象的です。

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午後の労働が終わり、夕食が終わると、(祝祭日以外、あまり酒を飲むことはありません。)修道士さんたちは晩の祈りと寝る前の祈りのために聖堂に集まり、最後に聖母賛歌「サルヴェ・レジナ」を皆で歌って20時には消灯して就寝します。朝が早いですからね。
 
夜は修道院の部屋から、津軽海峡のイカ釣り漁船の灯りがたくさん輝いて見えました。
 
修道院と言うと閉じこもるイメージがあるかもしれませんが、むしろ、心が開かれて、神の創造された世界への愛が広がっていくように感じました。世界は愛であり、創造された美なのだと。不思議なことです。
 
今、振り返って思うことは、「配慮された健康的な食事、健全な労働、そして、いつも、毎日、毎時間、創造主である神を賛美して歌いながら喜んで暮らすこと」の素晴らしさ、美しさです。
 
世界中にあるトラピスト修道院は、地球の中できわめて特別な場所だと思いますが、しかし、その伝えている精神は決して古びることなく、常に新しく、次の時代の扉を開くカギのひとつを示しているのではないか、とも感じます。
 
私にとって大自然の中のトラピストの調理場で過ごした喜びの時間は、ひとつの夢の実現であり、今、家族と共に地域で暮らしながら老人ホームの調理場の仕事で生活している人生の旅の、力と希望と喜びの源です。
 
※現在は絶版ですが、トラピスト修道院100周年を記念して北海道新聞社から出版された「四季のトラピスト」という写真集がありました。アマゾンなどで中古品で手に入ります。普段は見ることのできない修道院の内部の写真や当時の修道者たちの素顔を見ることができます。調理場やパンを焼くオーブンもちらっと写っていますよ。
 
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※誤解されると困るのでお伝えしますが、私は現在、肉類は普通に食べています。私の仕事は体力が必要で、体が資本でもありますから。(笑)しかし、トラピストで学んだことを忘れないように、乳製品や発酵食品、魚類、豆腐や納豆などの植物性たんぱく、そして海藻類と野菜を積極的に摂り、肉の摂取量を減らすようにもしています。

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