Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

下野竜也/N響

2023年05月15日 | 音楽
 下野竜也が指揮するN響のAプロ定期は、グバイドゥーリナの「オッフェルトリウム」が演奏されるので、注目の公演だった。

 まず1曲目はラフマニノフの歌曲集作品34から「ラザロのよみがえり」と「ヴォカリーズ」。「ラザロのよみがえり」は下野竜也の編曲だ。トロンボーンが朗々と歌い、さらにはトランペットが朗々と歌う。N響のトロンボーン奏者、トランペット奏者の優秀さに聴き惚れた。一方、「ヴォカリーズ」はラフマニノフ自身の編曲。こちらは弦楽器主体だ。なるほど、下野竜也は「ヴォカリーズ」とのコントラストをつけるために、「ラザロのよみがえり」を金管楽器主体にしたのか、と。

 2曲目はグバイドゥーリナの「オッフェルトリウム」。実質的にグバイドゥーリナのヴァイオリン協奏曲第1番だが、通常のヴァイオリン協奏曲とはまったく異なる音楽だ。冒頭にバッハの「音楽の捧げもの」のテーマが現れる。ちょうどウェーベルンの編曲のような楽器法だ。そのテーマが解体される(らしい)。荒涼とした音の世界になり、テーマの断片が時おり浮かぶ。やがてテーマを見失い、殺伐とした音の世界が広がる。そこから音楽が再生する。感動が胸に染みる。

 グバイドゥーリナの出世作だが、1981年のウィーンでの世界初演(ギドン・クレーメルのヴァイオリン独奏、レイフ・セーゲルスタム指揮ウィーン放送交響楽団)から40年以上たった今でも、その衝撃力と再生の感動は色褪せない。

 今回のヴァイオリン独奏はバイバ・スクリデ。クレーメルと同じラトヴィア生まれだ。この曲は2021年11月にグバイドゥーリナの90歳を祝してライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団と共演したそうだ(プロフィールによる)。そのせいなのか、クレーメルよりもこなれていて、さらに先に行っているように感じる。張り詰めた繊細極まる演奏だ。

 オーケストラの演奏も緊張感あふれる演奏だった。下野竜也とN響の本領発揮だ。スクリデの独奏ヴァイオリンともども、この曲の隅々までを描きだす、正攻法の、究極の名演だったと思う。付言すれば、後半に出てくるチェロ独奏(辻本玲が弾いた)が豊かな音だった。

 3曲目はドヴォルザークの交響曲第7番。これも立派な演奏だった。どのパートもしっかり弾き(または吹き)、いい加減さがない。下野竜也の壮年期の演奏スタイルと、郷古廉がコンサートマスターを務めるN響の若返りとが、相乗効果をあげているような演奏だ。がっしりと構築され、緩みのないアンサンブル。ずっしりした重量感。ボヘミア的な気楽さには欠けるが、手ごたえ十分の演奏だった。
(2023.5.14.NHKホール)

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