イラン政府報道官・バハードリー・ジャフロミー氏が、「アメリカ は善悪を逆さに見せることにおいて先端を走っている」と語り、「アメリカが見せるやり口のうち、最も得意とする強力なもののひとつに、虚言がある。この国は、嘘を真実に、真実を嘘に見せかけるのである」というようなことを言ったといいます。そして、「言動・行動の両方において善悪を逆さに見せることはアメリカのお家芸である」とし、「アメリカは、様々な時代において真実を実際とは間逆に見せて、直接・間接的に戦争の中心的存在となってきた」と述べたということです。(https://parstoday.ir/ja/news/iran)
こうした主張を、日本の主要メディアは取り上げませんが、アメリカの戦争を中心とした対外政策や外交政策をふり返れば、私は間違っていないことがわかると思います。ベトナム戦争でも、湾岸戦争でも、イラク戦争でも、アメリカによるでっち上げがありました。
でも、アメリカは、巧みにそうした主張や自らの犯罪的過去を抑え込み、消し去るようにしているのだろうと思います。
「ウクライナ戦争と世界のゆくえ」(東京大学出版会)に、東京大学公共政策大学院・鈴木一人教授が、「戦争と相互依存」と題し、経済制裁について論じているのですが、その中に、下記のような見逃すことのできない記述がありました。
”ロシアに対する制裁で、まず特筆すべきはその決定が迅速に行われたこと、また、利害が異なるG7の国々が共同歩調を取り、足並みをそろえることを徹底した点であろう。すでに述べたように高度な依存関係にある国を制裁の対象国とする場合、対象国に損害を与える制裁は、「返り血」を浴びることになる。そのため、各国は自らの産業への「返り血」を可能な限り少なくした上で制裁を実施しようと試みる。また、強い制裁措置を取るにしても、多くの利害関係者に納得してもらうために説得の時間が必要となる。しかし、今回は、ロシアが2月24日にウクライナ侵攻を始める前から列度の高い経済制裁を行うことを宣言していたこと、また、ロシアの軍事的な侵攻が明らかに国際法を無視し、さらにはブチャの虐殺のように、非人道的な戦争を行ったことで、西側諸国の多くの国では列度の高い経済制裁を取ることの支持が高まり、多くの調整を必要とせず経済制裁のメニューを設定ですることができた。・・・”
そして、経済制裁についてあれこれ論じた後、結論として下記のように書いているのです。
”ロシアのウクライナ侵攻は、国際法に反する、看過してはならない事象である。ブチャの虐殺を見るまでもなく、ロシアによる武力行使は暴力的で非人道的なものであり、こうした行為を継続させてはならない。西側諸国はウクライナに派兵して、ロシア軍と直接戦火を交えることはないが、それでもウクライナ軍の戦いを容易にするためにも、経済制裁を継続して、ロシアの継戦能力を奪い続けることが重要である。しかし、西側諸国が「返り血」によって経済制裁を継続することを止めてしまえば、ロシアにとって有利な状況が生まれ、さらにウクライナへの攻撃を激しくしていくかもしれない。この戦争を終わらせるためには、一層の経済制裁の強化と、「制裁疲れ」に陥らないよう、各国政府が国民に向けて経済制裁の意義を説き続け、なぜ、なんのために経済制裁をしているのかを常に意識させる必要がある。”
私は、学界もすっかりアメリカの影響下に入ってしまったような気がしました。
鈴木教授は、 知ってか知らずか、イラン政府報道官が語ったような、虚言によって”善悪を逆さに見せる”というアメリカの戦略をまったく考慮しておられないと思います。
また、停戦ではなく、ウクライナ戦争を、ウクライナ側に立って支え、戦争の継続を主張されています。人の命が日々失われていくことを、どのように考えておられるのか、と驚きます。
まず、ウクライナ戦争が2022年2月24日に始まったととらえることに問題があると思います。
2014年のマイダン革命は、アメリカの関与なしにはあり得なかったと思います。アメリカは、マイダン革命に端を発するクーデターによって、ヤヌコビッチ社会主義政権を顚覆し、長い時間と莫大な費用を投じて、ウクライナに親米政権を樹立した後、NATO軍の動きを活発にし、戦争を準備したことを見逃してはならないと思います。アメリカは、中南米をはじめ、さまざまなところで、同じようなことをやり、戦争をくり返してもきたと思います。だから、アメリカの表向きの主張をもとに、制裁を論じることに問題がある、と私は思います。
また、鈴木教授が、あたかも西側諸国が、自主的に経済制裁に加わったかのように論じられておられることも気になります。現実には、圧倒的な経済力や軍事力を背景としたアメリカの圧力があったと思います。ウィキペディア(Wikipedia)によると、米軍基地は、国防総省が公表しているだけで、170か国以上、内大規模基地を置くのは約60か国であるといいます。名目は地域の安全かも知れませんが、現実にはそれは、基地を提供している国に対する逆らうことのできない軍事的圧力として機能している側面があると思います。だから、米軍が大規模基地を置き、常駐している国が、アメリカの覇権や利益に反するような政策を取ったことはほとんどないと思います。
ウクライナ戦争前、ロシアからドイツに直接天然ガスを送るパイプライン「ノルドストリーム2」をめぐり、西側諸国内には深刻な対立があったといわれています。でも、計画を進めていたドイツも、結局「ノルドストリーム2」の利用をあきらめました。その方針転換が、ヨーロッパ最大のラムシュタイン米軍基地の存在するアメリカの圧力なしに行われたとは思えません。
イラン政府報道官が語ったことは、日本や朝鮮の戦後をふり返っても、間違いでないことがわかると思います。例えば、米軍の日本駐留は憲法違反であるという伊達判決が、どのような経緯で、最高裁で覆されることになったのか、また、日本人自身による民主化運動が高まりつつあったときに、レッド・パージや戦犯の公職追放解除があり、それを正当化し、民主化運動の息の根を止めるようなかたちで発生した数々の事件は、いったい何であったのか。
さらに、戦後の朝鮮で、建国準備委員会が、南北朝鮮の合意に基づいて建国を発表し、閣僚も決めていたという「朝鮮人民共和国」が姿を消して、なぜ、南朝鮮単独の李承晩政権が生まれたのか、などをさまざまな資料を基に調べれば、それらが、日本や朝鮮を反共の砦とするためのアメリカの戦略であったことがわかると思います。
以前に取り上げましたが、先日 下記のような報道がありました。
”岸田首相は、2023年度から5年間の防衛費の総額を43兆円とするよう指示した。首相官邸で浜田靖一防衛相、鈴木俊一財務相に伝えた。現行の中期防衛力整備計画の5年総額27兆4700億円から5割以上増える。相手のミサイル発射拠点をたたく反撃能力の整備などにあてる。岸田文雄首相は、総合的な防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)の2%程度に増額するよう鈴木俊一財務相と浜田靖一防衛相に指示した。 鈴木・浜田両氏が会談後記者団に明らかにした。”
ということは、この増額が、自衛隊や防衛省の要求に基づくものではないということです。国会はもちろん、閣議でも全く議論されていない増額です。なぜこのような独裁的決定が、民主国家であるという日本でなされたのか、なぜその手続きが議論の対象にならないのか、なぜ財源だけが問題にされるのか、を考えれば、その背景に、アメリカの戦略があることは疑う余地がないのではないかと思います。
また、鈴木教授は、”ロシアが2月24日にウクライナ侵攻を始める前から列度の高い経済制裁を行うことを宣言していたこと”と書いていますが、それは裏を返せば、アメリカを中心とする西側諸国が、ロシアとの戦争を準備していたということであり、何とかして、ロシアを説得し、戦争になるのを防ごうとはしていなかったということだと思います。
イラン政府報道官は、その他、下記のようなことも語ったと伝えられています。
「アメリカは家庭を守ると主張しながら、その崩壊を追求しており、女性や子供についても、倫理的・性的に逸脱した教育を行ってきた。同国の経歴は、世界の隅々まで知られている」
また、イラン国民が誰よりもアメリカによる人権侵害の犠牲になってきたとし、「基本的人権、健康的に生きる権利、また先端科学やナノ、宇宙といった分野の平和的目的の教育を受ける権利は、制裁により奪われていいことがあるだろうか?」と強調したといいます。
さらに、「600万人のシリア市民を難民にし、(原爆投下の)ボタンひとつで22万人の日本人を虐殺したのは誰だったか」とした上で、ボスニアでの虐殺や、90万人のアフガニスタン市民の殺害などにも触れ、「歴史上何度もあったアメリカによる侵略行為は、説明が行われなければならない」と述べたということです。
イランでは、毎年6月27日から7月3日までを「アメリカ式人権状況開示週間」と定め、特にイラン国民に対してアメリカが行ってきた犯罪を振り返っているということにも、考えさせられます。
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