若き竜の大砲候補への試練は、ルーキーイヤーに待ち受けていた。ちょうど1年前。6月11日の日本ハム戦で、中日・鵜飼航丞は9打席連続三振を喫し、2006年に楽天・鉄平が記録した、野手ワーストに並んだ。豪快で、当たればどこまでも飛んでいく打撃とあっけないほどの三振はまさに紙一重。そのまま調子を崩すと、ケガもあって復帰はシーズン最終盤となった9月末となり、不本意なままプロ1年目を終えてしまった。

 立浪政権2年目は1軍キャンプスタート。2月1日から和田一浩打撃コーチのもと、DeNAから現役ドラフトで新加入した細川成也、福元悠真とともに、連日居残りでバットを振った。北谷の室内練習場では、各部門のコーチが集結し、つきっきりで日が暮れるまで練習を続けた。午後8時を超えて球場を出ることもしばしば。キャンプ中に「今年と去年、どっちがしんどい?」と聞くと、間髪入れずに「今年です。肉体的にも精神的にも、絶対今年です。去年は何も分からなかったんでそのまま突っ走れた」と答えてくれた。

 しかし、充実した質量の練習をクリアしても表情はなかなか晴れない。「打球が飛ばないんですよ」。不安は的中。キャンプ後半に2軍行きを告げられると、そのまま2軍で開幕を迎えた。

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 それでもウエスタンでは徐々に打撃を復調させ、「スカパー!ファーム月間MVP賞」を獲得。3、4月は全試合に出場し、打率3割1分4厘、5本塁打、21打点。キャラじゃない、と言ったら怒られるかもしれないが、1番打者に抜てきされ、超攻撃的な先頭打者としてチームを引っ張ってきた。「クールに颯爽と」というより、「がむしゃらに必死に」。やや不器用だけど、野生的なプレーが鵜飼の真骨頂である。少しずつ、輝きを取り戻し始めた。

鵜飼航丞 ©時事通信社

遺伝子検査で分かった“スーパーカー”鵜飼航丞

 今年1月、鵜飼は知人の紹介で「遺伝子検査」を受けていた。診断後、1時間以上のフィードバックを受けて分かったことは、野球という競技が必要とする一瞬の爆発力を持つ「スプリントタイプ」に向いていたということ。短距離走や短時間のスピード勝負にはめっぽう強いが、長距離走などの持久力系は苦手。野球以外なら、陸上競技の100メートルや110メートルハードル、投てき競技や、テニスのダブルスの前衛、サッカーならFWで点取り屋としてもトップレベルのアスリートになれるとおすすめされた。

 食事面での気づきもあった。鵜飼は、糖質の分解能力が非常に優れており、一般的な人より1日あたり300キロカロリーほど余分に分解できる力を持っているという。そのため寝て起きた段階でマイナス300キロカロリーからスタート。1日3食に加え、意識的にバナナやゼリー、プロテインなどを練習中から常に補食している。また、糖質の代謝スピードが速く、高性能のタンクやエンジン(体の大きさ、筋力の強さ)を兼ね備えていても、それを動かすガソリン(栄養素)を欠いてしまえば、本来のパフォーマンスを発揮することができないだけでなく、ケガにもつながってしまうことが分かった。

「この検査をしたことで直接的に野球がうまくなるわけじゃないですけど、野球への取り組み方が分かってきました。どうすればケガを予防できるとか、得意不得意ジャンルを理解すれば、短所を潰して、長所を伸ばすことができますから。僕はスーパーカータイプ。実際に、スーパーカーも大好きなんで、僕らしいですよね」

 昨季は6月に自打球を足に当て、約3か月離脱。野球ができないもどかしさは痛いほど分かるから、必要な情報はどんどん取り入れていく。