エチオピア在住の起業家、鮫島弘子さんから学ぶエシカルな消費
今、世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。2020年からスタートした連載では、CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考える機会を作っています!
今回は、〝アフリカから見た、本当にエシカルな消費〟について、エチオピア在住の起業家、『andu amet』代表の鮫島弘子さんに聞きました。
食肉の副産物である革を適切に使い環境を守る
トラ 先ほどお店で実際に鮫島さんが手がけているシープスキンのバッグを拝見したのですが、すごくやわらかく伸びやかで、肌触りも気持ちいいですね!
鮫島 元々エチオピアの羊革は、世界最高峰のレザーと言われるくらいクオリティが高いんです。そういう素晴らしい素材がありながら、途上国で活かす技術がなくて原皮のまま輸出されていました。
トラ 外資の高級ブランドにも選ばれているとか。
鮫島 イタリアやフランスでなめされたり縫製されたりすると、〝イタリア産〟〝フランス産〟の革として何十万、何百万円のバッグになるんです。でも、輸出国のエチオピアにはお金が落ちていかないし、技術も育まれないという課題がありました。そこで、調達から製造までを産地で一貫してできるようにしたいと考え、現地に工房を作って職人さんを育てるところから取り組んだのが、ブランドのスタートですね。
トラ 今、世界的には、ファッションブランドのSDGs施策やアニマルウェルフェアの観点で、「動物性素材を使わない」という流れがありますよね。でも、『andu amet』で使っている革は、また視点が違うんですよね。
鮫島 そうなんです。私たちが使用するのは、すべて食肉の副産物。エチオピアでは伝統的に羊が食べられています。牛やヤギなども同様ですが、食肉の副産物である革は、なめされないとただの産業廃棄物になってしまう。廃棄するとなると、焼却処分によって温室効果ガスが出ますよね。余すことなく使うことこそが、環境を守り、真に命を大切にすることだと考えています。
トラ たしかに、世界の食肉消費量は50年間で5倍増とも言われていますが、一方でトレンドとしては、ヴィーガンファッションも登場していますよね。
鮫島 ファッションには素敵な力があるけれど、時々、本筋ではないところで流行が生まれることがあります。肉食を減らす対策をとっていない状況で、ただ合皮を身につける人が増えれば何が起こるか? ミンクやラクーンなどの毛皮を素材にするために捕殺している問題とは、本来は分けて考えないといけないんですよね。
ビジネスを現地に根づかせて寄付では実現できない支援を
鮫島 エチオピアは鉱物資源に乏しく、他国に優位性があるシープスキンも経済的な理由から国内では消費しきれません。輸出で経済成長していくことが、エチオピアに残された道であり、あるべき理想の姿だと思われています。政府は革産業をプライオリティ産業に指定。実際に年々拡大していて、中でも、『andu amet』は付加価値の高さを評価していただいていますね。
トラ 現地の職人さんにイチから技術指導してハイブランド基準のクオリティに仕上げる…そのご苦労は、きっとたくさんありましたよね。
鮫島 元々は、レザージャケットなんて裏返すと油性ペンで仕立ての指示が〝right〟、〝left〟とか書いてあって、買う人も売る人も気にしないお国柄なんですよ(笑)。10年やってきて、先輩の職人さんが新人の子たちに、「これは日本のお客さんに届けるんだから、見えない裏側もキレイにしないと! 」って得意げに教えるようになってくれて。万一私が明日死んでしまったとしても、彼らはエチオピアのトップクラスの職人さんとして、今後困ることはないんじゃないかなと思っています。
トラ ビジネスを現地に根づかせることこそが、経済的自立。その場しのぎのサポートでは実現できない、まさに持続可能な支援活動ですね。
鮫島 これまで、ODAのプロジェクトなどで多額の費用をかけて開発を援助しても、数年の任期後に導入された機械が壊れてしまうと、現地の人は手に職もなくもう何も作れなくなってしまう…といった事態を実際に見聞きしていました。だからこそ、現地にある素材と道具だけで作れるようにという点にこだわっています。
トラ あるもので余さず、いかにいいものができるか。日本の伝統産業にも通じる、ものづくりの美学!
何かを付け足す前に、大量生産・大量消費を見直そう
鮫島 最高級の素材を贅沢に使い、ハンドメイドで本当に時間をかけて丁寧に美しく仕上げてくれるから、高い値段で買っていただくことができて、高いお給料を払える。大企業みたいな売り上げがなくても、きちんと事業を継続できるだけの利益を確保しながら、よいと思ってくださるお客さまにお届けする。それがこれからの時代に必要な産業のあり方だと私は思うんですね。
トラ まさに! 「どんどん経済成長せよ」と言い続けて環境に影響を及ぼしている、その原因は、先進国にあるわけで。それを軌道修正するために途上国の人たちが不利益を被ったり、成長の妨げになったりしている。途上国で暮らす鮫島さんから見て、先進国が直さなきゃいけないと思うのはどんな部分でしょう?
鮫島 変えるべきは、やはり大量生産・大量消費のライフスタイル。最近は、「アップサイクリングの素材を使用」とか「売り上げの何%を寄付します」とか色んなプロジェクトがあって、もちろんそれ自体は悪いことではないけれど、大量生産のビジネスモデルのままでは本当に意味がないんですよね。
トラ すごく共感します…!
鮫島 10万円のバッグ1個と、1000円のバッグ100個、額面は同じでもその裏の資源や環境負荷、働き方などは全然違う。こういったことの積み重ねで、ファッション業界は石油産業の次にCO2を排出していると言われますが、エチオピアのような国では温度が1℃上がると、何万人もの人が食糧難になってしまいます。
トラ 資源を消費する側の日本は冷房の設定温度を1℃下げれば快適なままだけど、資源を提供するアフリカでは命が危険にさらされてしまうんですね。
鮫島 さらに、アフリカへ寄付される大量の廃棄服が地元産業の発展を阻害、場合によっては使われずに埋め立てられて地元環境を圧迫している事実もあります。だからといって、我慢を強いるのは現実的ではないですよね。ファッションは本来私たちの気持ちを明るくしてくれるパワーの源。CanCam読者の方にも、ひとつ持っているだけで心が満たされる「自分にとって特別なもの」をぜひ見つけていただけたらと思います。
トラ 衝動的に買っては捨てる…をくり返すのではなく、しっかり選んで長く大切に使っていきたいです。鮫島さんが今後のアフリカで注目されていることは?
鮫島 戦争で食べ物や住む場所がない人たちには引き続きサポートが必要ですが、この先は支援を受けるだけでなく世界のビジネスパートナーになりたいという意志が出てきています。寄付だけでは彼らの働く意欲を削いでしまう。現地の人たちと一緒に、アフリカならではの挑戦をする若い世代が増えてくれたらいいなと思います。
“andu amet”のエシカルな取り組み
■使用するシープスキンは食用羊の副産物で資源活用
■エチオピア現地の職人を直接雇用して自立を支援
製造過程でも環境に配慮。高付加価値の創出や、産業育成の実現が高く評価され、エチオピア政府から『LIDI the highest value products』を受賞。
工房の職人は20代~30代が中心。現地では希少な高水準の給与で雇用し、生活と誇りを守る。子育て中のスタッフは子供同伴で出勤できる
ただ寄付をして満足するのではなく、本質をたどって考えたい
「自分の罪悪感を軽減するために表面的な寄付をしても、一過性のものになってしまうと痛感。日本も上から目線で〝支援する側〟にいられる立場ではないですよね。『ビジネスを通して現地の人がこの先も生きていけるように』という鮫島さんの姿勢が素敵でした」
目指せ「SDGs」!トラちゃんの今月の一歩
■着なくなった服をセルフリユース!
クローゼットの整理をしていて、きっとお出かけにはもう着ないけど、人に譲るには着古してしまっているロンTを発見! 裾を切ってクロップド丈のジム用ウェアにすることに。切れ端は雑巾として、絶賛活躍中です♪
■今月の1冊は…『大量廃棄社会アパレルとコンビニの不都合な真実』
前半が「衣」、後半が「食」にまつわる大量廃棄のお話。便利な私たちの生活の裏側には実はゾッとする現実があって、服を見せるお仕事をしているからこそ知るべきだなと実感。
今月のSDGsブランド「YanYan」
香港生まれの女性デザイナー、PhyllisとSuzzieが立ち上げたニットウェアブランド。デッドストックや生産過程で余った上質なヤーンを活用し、地球に優しいだけでなく、着る人が自身を解放して楽しめるようなプレイフルなものづくりを体現。