104: ◆kBqQfBrAQE 2017/02/08(水) 00:57:45.60 ID:bDZGAkjq0

前回:【モバマス】肇「畳返しの天気予報」

和久井留美「あら、文香ちゃん。その本って…」

留美「懐かしいわね、私も学生のころ読んだわ。そう、図書館で借りたのね?」

留美「あらっ。そのページ、所々に線が引かれてる。…そうそう、図書館で借りた本って、時たまそういう風に線引きされてたり文字書いてたりするのよねぇ」

留美「…」

留美「あっ、ごめんなさい。つい昔のことを思い出してね」

留美「何の話かって?」

留美「うーん…あんまり気持ちのいい話でもないけど、いいかしら?」




「図書の落書き」

アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(3) (電撃コミックスEX)
105: 2017/02/08(水) 00:59:29.16 ID:bDZGAkjq0

あれは私が高校生の時だったかしら。そうそう、私が広島にいたときの話ね。
当時の私は、街の図書館で本をよく借りていたの。

それである日、シリーズものの小説を借りて読んでいたわ。
『△△』って。知ってる?流石、文香ちゃんなら知ってたか。
最終巻でいよいよ佳境ってときに、ページに書き込みがあったの。
せっかく集中して読んでいたのに、って腹が立ったわ。

…一体、何が書いていたのか、って?
ふふっ、それがこのお話の始まりよ。

「悔恨」って二文字と、数字とカタカナの羅列だったわ。
熟語はともかく、後の方の意味、文香ちゃんなら分かるんじゃない?
…そう、正解。図書館に入ってる本の請求記号ね。
図書館で本の検索した時に、「ここにありますよ」って教えてくれる本の住所みたいなもの。


106: 2017/02/08(水) 01:01:44.00 ID:bDZGAkjq0

最初は、私の前にこの本を借りた人が、他に借りたい本をリストアップした落書きなのかなって思ったわ。
でも、その書き込みが私の頭の中に焼き付いたように残ったのよね。落書きを無視してその本を読み終えたけど、本の内容以上に落書きのことが気になったの。
次の日の放課後、私は図書館に行ったわ。物好きかもしれないけど、請求記号に書かれた本の正体を知りたくて。
私もおそらく同じようにしていた?…ふふっ、文香ちゃんありがと。

話を戻さないとね。
その番号のところを探したら、意外と簡単に見つかったわ。何の本だったと思う?
哲学よ。誰だったか忘れたけど、ニーチェかヘーゲルか、ヨーロッパの哲学者の著作集。
でも、全く「悔恨」とは関係のないタイトルだったわね。
手に取って最初の数ページ読むけどチンプンカンプン!
そのまま棚に戻そうかと思ったけど、何かまた書いているかもしれないと思ったから、ページをめくり続けたわ。


107: 2017/02/08(水) 01:04:18.23 ID:bDZGAkjq0

そうしたらね、また落書きを見つけたわ。
思わず心の中で「よしっ」って叫んで...。
次は「贖罪」って文字と、これまた請求記号。
「贖罪」って文字にかなり興味を持ったわ。何の罪なんだ、何を償いたいんだ、って。

それから、その本に書かれた本を探して、ページをめくって次の本の手掛かりを探すっていう、奇妙な遊びが始まったの。


108: 2017/02/08(水) 01:08:24.32 ID:bDZGAkjq0

二冊目以降、探すの本当に苦労したわ。
請求記号の番号からして、私は一度も行ったことのない分野の本ばかりだったし。経済や物理の専門書とか。
それにようやく見つけたと思ったら本棚の一番上や下にあったりあるのよ?面倒ったらありゃしない。
中には書庫に保存している本もあって、司書さんにお願いして取り出してもらったこともあって…
戦中に書かれた本だったみたいで、「何で女子高生がこんな本を?」ってすごい怪訝な顔されたわ。

私だって、何のためにこんなことしてるのかしらって思ったわ。
でも、無性に気になってたからやめられなかった。


109: 2017/02/08(水) 01:10:04.49 ID:bDZGAkjq0

確か7、8冊目だったかしら?一種の作業のようになり始めたときに、また書き込みがあったわ。
でも、今回は少し具合が違った。
これまで熟語だった文字が、今回は「本当にすまないと思ってる」って文章になっていた。

そして、本の請求番号じゃなくて、「広毎新聞、197X年10月4日」って書かれてたわ。
分かると思うけど、次は新聞記事を見なさいってこと。


110: 2017/02/08(水) 01:12:21.76 ID:bDZGAkjq0

新聞の縮刷版でその日の新聞を開いたら、すぐに分かったわ。
一面の大見出しの記事に大きく鉛筆で丸を書いてるもの。
どうやら、広島市内で殺人事件があったらしいのよ。殺されたのは40代の男性。
年の割に、かなりのお金持ちだったそうよ。

仕事だったか金銭だったかトラブルがあったみたいで、包丁で滅多刺し。
でも、おかしなところがあって、市内の河川敷で見つかったのだけど、相当に刺されたのにほとんど血痕が無かったらしいのね。
だから、この人の亡くなった場所は違う場所かもしれない。
そして、亡骸を遺棄するには一人じゃ無理な体形だって。
地元で起きた事件だし、当時かなり話題だったみたいで、しばらくの間、新聞の一面には事件のことが取り上げられていたわ。
でも、時間が経っても犯人は見つからなかったみたいよ。

…ん?ええ、そうね。これまでの流れで、当時の私も察したわ。
本に落書きしてたのは、この事件のことを知っている人なのではないかってね。
そして、その記事があったページの上の方に、また請求記号が書かれていたわ。
ええ、請求記号だけ。


111: 2017/02/08(水) 01:15:12.54 ID:bDZGAkjq0

あの頃の私は、かなり興奮してたわね。次で、いよいよ何か真実が分かるんじゃないかって。
すぐに書かれていた記号の本を見つけたの。
誰も見なさそうな、分厚くて古い百科事典。
どかりと置いて、一心不乱にページをめくったわ。
そうしたらね、一枚の紙がはさまってた。読んでみたら驚いたわよ。
だって、遺書だったもの。

「この紙を読んでいるということは、私が書いた本の落書きをたどったからでしょう」って書かれてたり、
「あの記事を読んで察していることでしょう。あの事件で、彼を頃したのは私です」とか…。
事件のことのあらまし、殺された彼とは長年の友人だったこと、一時の過ちで頃してしまったことの後悔、…事細かに書かれていたわ。
そして、「あの日から25年が経ち、時効となったが、今でも後悔が絶えない。もう限界なのです。馬鹿々々しいかもしれないが、今日僕は、彼をうち捨てた場所で氏ぬことに決めたのです。」って。
逃げ切ったら逃げ切ったで、さらに自責の念が強くなったみたいね。


112: 2017/02/08(水) 01:20:57.27 ID:bDZGAkjq0

「最後に、一番始めに落書きした本である『〇〇』は、彼が好きだった作家の本です。もしあなたが良ければ、供養代わりに読んでください。199Y年10月6日」って書いて、締めくくっていたの。
もしかしたらと思って、9Y年10月の新聞記事を探したわ。
そうしたら、河川敷で60代の男性が亡くなっていたっていう小さな記事が、10月8日の新聞で見つけた。自殺だったそうよ。

…ふふっ、気が付いた?そう、私が最初にその落書きに気づいた本は『△△』。違ったの。
あまり聞いたことのない作家だったけど、『〇〇』って本を探したらすぐに見つかったわ。
「懺悔」って二文字と請求番号が書かれてたわ。その次の本が、『△△』だった。


113: 2017/02/08(水) 01:23:12.71 ID:bDZGAkjq0

その本を棚にしまって、この話はおしまい。
…ってならなかったのよね。
本をしまう前に、何気なく一番最後のページに書いてる発行日を見てみたの。
そうしたら、『〇〇』の発行日は199Y年10月15日。

彼は遅くとも8日に亡くなっているのに、どうして15日に印刷された本に落書きできるのかしらね?

警察に行って、話したわ。70年代の殺人事件のこと、百科事典にはさまってた遺書のこと、そして、日付のズレも。
でも、あまりに証拠が少ないこと、そして199Y年に、10年以上も前に亡くなった男性について残念だけど調べようがないということを伝えられた。



…私も、これ以上深く考えるのはよそうって、そう思ったわ。


114: 2017/02/08(水) 01:25:13.55 ID:bDZGAkjq0

おわり

1990年代までは、時効って15年だったね。つい間違えて25年って書いてしまいました。

116: 2017/02/08(水) 01:37:58.60 ID:zDGmPCBxO
ゾッとした


引用: 世にも奇妙な346プロ