メインコンテンツにスキップ

古代ローマ時代の彫像の多くに頭部がない理由、単なる破損だけではなかった

記事の本文にスキップ

12件のコメントを見る

著者

公開:更新:

この画像を大きなサイズで見る
Photo by:iStock

 博物館が芸術作品を展示する場合、そのほとんどは完全な状態である。だが、古代ローマの彫像となると話は別だ。

 鼻がそぎ落とされ、指が欠損し、首のない像がいかに多いかがわかるだろう。年代的にも古いため、単なる破損で欠けてしまったものもあるが、頭部がない理由はそれだけではない。

 意図的に斬首されているものがあるという。

古代ローマの彫像に頭部がない理由

ローマの彫像には、なぜ、首のない(頭のない)像が多いのだろうか?

 アメリカ、ニューヨーク市立大学ブルックリン校の古典学・美術史教授レイチェル・クーサー氏は、彫像が頭部を失った経緯については確実な理由を知るのは難しいが、いくつか共通の原因はあると説明する。

この画像を大きなサイズで見る
Photo by:iStock

単なる破損以外に意図的な斬首が行われていた

 もっともありふれた理由は単なる破損だ。

 頭部は人体の中でも比較的脆い部分なので、展示のための貸出や譲渡に伴う運搬の際に破損してしまうケースは思いのほか多いという。

 しかし、首が折れてしまうのは必ずしも偶然とは限らない。ローマ人は故意に彫像を”斬首”することがあったのだという。

 「ダムナティオ・メモリアエ」つまり「記憶の破壊」とは、悪名高い皇帝の死後、その存在を歴史から抹消するために、その名前をあらゆる場所から消し去る行為だ。

 記録から消し、財産を差し押さえるだけでなく、肖像画の顔を塗りつぶし、彫像を破壊した。

 つまり、意図的に彫像の首を破壊したというわけだ。あの悪帝ネロも肖像画の多くが破壊されたり、描き直されたりしたという。

この画像を大きなサイズで見る
Photo by:iStock

 さらに、最初から彫像の首部分を取り外しすることができるように作られたものもあった。

 これは頭部と胴体に異なる素材を使ったり、同じ彫像を異なる彫刻家に制作させたり、後で頭部を取り替えたりするためだったという。

 こうした彫像は、胴体側に頭部を差し込むための穴があいていて、頭部側の首の端はギザギザではなく滑らかになっているため、はっきりわかるという。

この画像を大きなサイズで見る
差し替え可能な頭部(左)と自然に破損した頭部(右) image credit:Public Domain

頭部を切り落とし2つのパーツにして高く売る現代の手口

 現代では、古代ローマの彫像は骨董市場で高値で取引される。

 悪徳美術商は彫像ひとつ売るよりも、ふたつ売るほうが儲かるとわかっていて、わざと彫像の頭部を切り落とすケースがあるのだという。

 ロサンゼルスにあるJ・ポール・ゲティ美術館に所蔵されている「ドレープをまとった女性の像」はその一例だ。

 1972年に同美術館が高さ2.1mのこの像を入手したが、最初胴体だけしかなかった。

 ところが1930年代まではちゃんと頭部があったことが確認され、元の頭部と非常によく似た頭部を売りに出していた古美術商がいることが判明した。

 誰かが20世紀になってから彫像の首と胴を意図的に分離したことは明らかだった。

この画像を大きなサイズで見る
ドレープをまとった女性の像 image credit:Public Domain

詳細はわからないが、首のない像と胴のない首を別々に売ったほうが儲かると考えた者がいたことは疑いようがない。

 最終的にはこの彫像の首は無事回収・修復され、再び首と胴がきちんとつなぎ合わされた。

 発見された頭部には、意図的に雑に切断された跡がはっきり残っていたという。人間の強欲によって、太古の芸術作品である彫像の首が失われるケースもあるということだ。

References: Why are so many Roman statues headless? | Live Science / Arkeo Blog > | Arkeoloji ve Sanat - Arkeolojinin Yayınevi

同じカテゴリーの記事一覧

この記事へのコメント、12件

コメントを書く

  1. サモトラのニケなんて顔のない方が美しい芸術もあるから
    過去の歴史や曰くも含めて、欠けた美しさが芸術になるのですね!

  2. 私がとあるローマ遺跡に行ったときに ガイドさんが「施政者が変わると頭部もすげ替える」と言ってました。

  3. 古代の仏教美術とかも、イスラム教徒が侵入したときに像や絵画が損壊させられていて、とくに目を執拗に潰そうとする傾向が見られる。「見られる」ことになにか呪術的な恐怖を感じるのは人類に共通の意識なのだろう

    商売のために美術品を意図して損壊するなんて言語道断だと思うが、それはそれとして、壊れたり失われたりしているからこその美があるのは分かる。古代ギリシア・ローマの美術もただの石の造形だからこんだけ神秘的で美しいんだけど、もともと塗られていた色合いを再現したら現代人の目ではかなりガッカリすると思う。単純に技術的な部分でも、そして塗料の材質でも2千年間にだいぶ進歩しているからね

    1. それは単純に神はアッラーのみであり、しかもそのものを形で表すなど有ってはならない(神道の御神体も偶像崇拝)レベルの偶像崇拝禁止だからでは
      しかもキリスト教のイエスや福音書を書いた聖人と同じような立ち位置にいる開祖ムハンマドさえ『言葉を聞いた人間であって祈る対象ではない』くらいにアッラー以外は無い宗教なんだから
      畏れ多くも神を僭称する邪霊の姿なんて真っ先に消すでしょ
      目に関しては分からないけど

      1. いや、そんならガンダーラの巨大な石仏が20世紀末期のタリバンに爆破されるまで残されていた理由が分からないけど

        実際にはイスラーム勢力だって現地人の支配に関しては相当な気を使ってるのよ。イスラム教徒自身が偶像を崇拝するのはご法度だけど、支配下で自分たちの信仰を保つことが許されていた集団は無数に存在しているし、地域によってはイスラム教の寺院に巨大な図像を描かせる権力者だってでてきたくらい。ただ、戦乱の渦中に置いて最前線の兵士たちが彫像や絵画の目を潰そうとしていた事実は考古学的に明らかになっている

        他の例だと、たとえばイースター島において対立勢力が敵のモアイ像を引き倒したときに、やはり目の付近をとくに損壊させようとしていたりする

    2. 目という象徴に関しては、昆虫含むいろいろな動物でもわりと目の模様があることから捕食者対策の淘汰などを考えて本能に刻まれたものがあると思いますね。

      ただイスラム教まで含めたアブラハムの宗教の最も初期のころの戒律であるモーゼスの十戒にも偶像崇拝を禁ずる文言があるように、ヒトが頼りたい何か象徴を求めるのもわかるような気がします。日本の鰯の頭も信心からってのは極端な例かなともね。

  4. 頭部と胴体泣き別れ事件は、ばらすと高く売れると言うよりばらして素性を隠してるのでは。絵画でも盗んだ絵を小さい木枠に張り直すとか、酷いときには切り取ったりして模写に見せかけるという手口を聞いたことがある。

  5. 子供の頃、年寄が言うとった「お金が無いのは、首が無いのと一緒や」

コメントを書く

0/400文字

書き込む前にコメントポリシーをご一読ください。

リニューアルについてのご意見はこちらのページで募集中!

サブカル・アート

サブカル・アートについての記事をすべて見る

歴史・文化

歴史・文化についての記事をすべて見る

最新記事

最新記事をすべて見る

  翻译: