海上自衛隊に25年以上前から配備されているホバークラフト、LCAC。2024年に、持ち前の実力を改めて発揮し、注目を集めた。
この年の元日に能登半島を襲った地震は海底を隆起させたため、多くの港に艦艇が入れなくなってしまい、さらに土砂崩れなどで陸路もふさがれて、救助隊が被災地に入れないという事態がおきた。
そこで、空気の力で船体を浮かせて、深度の浅い海でも高速で航行でき、そのまま砂浜へ上陸できるLCACが、多くの救難物資や救助隊員を運び、能登を救ったのだ。
われらがヒーローLCAC、その実力を今一度紹介する。
元日に大地震発生。LCACで被災地を救う
2024年1月1日16時10分ごろ、石川県能登地方を震源とする、最大震度7の地震が発生。建物の倒壊、津波による浸水、土砂崩れ、道路の寸断、海底の隆起など、甚大な被害が襲った。
自衛隊は石川県知事からの要請に基づき、災害派遣を開始。陸・海・空各自衛隊による人命救助活動や被災者支援活動を開始した。
発災翌日の2日15時、急きょ広島県呉基地から出港したのは、海上自衛隊第1輸送隊に所属する輸送艦『おおすみ』。
同艦には、水陸両用のエアクッション艇「LCAC」2隻が搭載されていた。翌3日、京都府舞鶴基地で『おおすみ』に重機などを搭載。4日には『おおすみ』から発進したLCACで石川県輪島市にある、長さ約1500メートル、奥行き約400メートルほどの奥能登最大の自然砂丘である「大川浜」へ重機や救援物資の輸送を行うなど、現地での活動を開始した。
水上でも陸上でも素早く移動できる優秀な乗り物
このエアクッション艇・LCACは、分かりやすくいうと「ホバークラフト」のこと。空気の力で船体を浮かせ、水上でも陸上でも素早く移動できる乗り物だ。
海自はこのホバークラフトを6隻保有しており、さらにこれを『おおすみ』型輸送艦『おおすみ』、『しもきた』、『くにさき』に搭載して洋上から発進させるなど、柔軟に活用できる体制を整えている。
今回の能登半島地震では、各所で交通網が寸断され、孤立する地域が続出した。そのため、陸路での物資輸送や重機搬入が難しい場所も多く、東日本大震災よりもさらに救援が困難だったという。そこで白羽の矢が立ったのが、LCAC。
ホバークラフトなら、地震で港が使えなくても、上陸可能な浜があれば、物資や車両を陸揚げできる。しかも1度に最大50トンもの輸送ができるのだ。
その後も、6日には通信状況改善のため電気通信会社の移動基地局車2両を同じく大川浜に陸揚げ。14日には、国道249号線の復旧作業のため、輪島市深見町の海岸へ国土交通省TEC−FORCE(注)の要員と重機を揚陸。LCACの持てる力を存分に発揮した。
LCACは、例えば硫黄島など、大型艦艇が入れる港湾施設がない離島において、人員や物資を輸送艦と陸上との間で運ぶ輸送任務を中心に、島しょ部などへの上陸作戦を行う「水陸両用作戦」、さらには先に紹介したような災害派遣、国際緊急援助活動など、幅広い任務を果たしている。
(注)国土交通省の緊急災害対策派遣隊のこと。大規模災害発生時に、応急対応などで自治体を支援するために派遣される
(MAMOR2024年8月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです
<文/臼井総理 写真提供/防衛省>