賃貸併用住宅のメリットとデメリット 後悔しないための方法を解説
所有する土地を活用する方法の一つに賃貸併用住宅があります。家賃収入で自宅のローンも返済できる魅力的な活用方法です。一方で、設計上の制約があったり相続が難しかったりする注意点があります。賃貸併用住宅で後悔しないためには、デメリットも踏まえたうえで収支プランや間取りを検討することが大切です。土地活用を得意とする不動産鑑定士が解説します。
所有する土地を活用する方法の一つに賃貸併用住宅があります。家賃収入で自宅のローンも返済できる魅力的な活用方法です。一方で、設計上の制約があったり相続が難しかったりする注意点があります。賃貸併用住宅で後悔しないためには、デメリットも踏まえたうえで収支プランや間取りを検討することが大切です。土地活用を得意とする不動産鑑定士が解説します。
目次
賃貸併用住宅とは、自宅とアパートを併用した建物になります。正確な定義はありませんが、一般的には自宅部分を50%、アパート部分を50%の面積で建てる物件を賃貸併用住宅と呼ぶことが多いです。
なかには、一棟のマンションの一室を自宅にするような物件もあり、マンションタイプとも呼ばれます。マンションタイプの場合、自宅スペースの割合が小さく、最上階をオーナー邸とする物件が多いです。
どちらのタイプにせよ、マイホームとして自ら暮らしながら家賃を得ることができるのが特徴です。
自宅部分の面積を50%以上にする「一般タイプ」の賃貸併用住宅には、以下のメリットがあります。
詳しく見ていきましょう。
所有する土地が自宅を建てるには広すぎる場合、賃貸併用住宅にすることで、適切なサイズの自宅とすることができます。
また子どもが巣立って、夫婦2人の生活となり、今の家が広すぎると感じている方もいるでしょう。そんなときには今ある家を賃貸併用住宅に建て替えることで、適切なサイズの住環境を得ながら、収入を得ることができます。
自宅部分を50%以上とする賃貸併用住宅は、住宅ローンによって建てられるため、アパートのような収益物件よりも有利な金利でローンを組むことができます。
自宅の割合は法律で決まっているわけではありませんが、多くの銀行が住宅ローンで融資する際の要件を自宅部分が50%以上としています。そのため、自宅部分が50%以上の賃貸併用住宅を経営することが一般的とされています。
通常、家賃を得る収益物件の建築費の融資はアパートローンとなります。
この違いは大きいです。住宅ローンは、アパートローンよりも金利が2~3%ほど安く、また35年の長期に渡ってローンを組むこともできるので、月々のローン返済額を抑えられます。
このように住宅ローンの方がアパートローンよりも融資条件が有利なため、住宅ローンで建てられる賃貸併用住宅には経済的な優位性があります。
賃貸併用住宅は、アパート部分の家賃収入によって自宅部分の住宅ローンの返済を軽くすることができます。また、安定した収入が期待できるので、自己資金が少ない状態でも無理のない返済計画が立てやすくなるのもメリットです。
賃貸併用住宅は相続税の負担が小さくなるメリットがあります。アパート部分の相続税評価額は、建物については自宅部分よりも30%低くなります。土地についても借地権割合にもよりますが、仮に借地権割合を60%とした場合、自宅部分よりも18%低くなります。
また、賃貸併用住宅の自宅部分を配偶者や同居親族など一定の親族が相続した場合、相続税評価額が減額される「小規模宅地等の特例」が適用されます。自宅部分に対応する土地は特定居住用宅地等として、評価額を80%減額できます。また、賃貸部分に対応する土地は貸付事業用宅地等として一定の要件を満たせば評価額を50%減額できます。
土地の面積が200平方㍍を超える場合、住宅を建てるより、賃貸併用住宅を建てた方が固定資産税は安くなります。
200平方㍍以内の土地は「小規模住宅用地」と呼ばれ、固定資産税は評価額の6分の1になります。一方、200平方㍍を超えると「一般住宅用地」となり、評価額の3分の1です。つまり、小規模住宅用地のほうが固定資産税は安くなります。
300平方㍍の土地に自宅を建てた場合、小規模住宅用地と一般住宅用地の両方が適用されることになります。一方、小規模住宅用地は「住戸1戸につき200平方㍍以内」に適用されるため、複数戸ある賃貸併用住宅を建てると、固定資産税が安くなる「小規模住宅地用地」の適用範囲を広げることができ、減税効果があります。
賃貸併用住宅にはデメリットもあります。自宅部分が50%以上の物件を前提に説明します。
賃貸併用住宅は、設計上の制約が大きいというのがデメリットとなります。
自宅部分を50%以上とすることから、「縦配列」または「横配列」で自宅とアパート部分を分けることが一般的です。
いずれの場合であっても、アパート部分を大きくしようとすると自宅まで大きくなってしまい、逆に自宅部分を狭くしようとするとアパート部分まで狭くなってしまうというジレンマを抱えます。賃貸併用住宅は自宅の住み心地とアパート部分の収益性が連動しているので、一方を優先すると他方が犠牲になるというデメリットがあります。
住宅ローン控除が利用できるのは自宅部分のみで、アパート部分については適用対象外となります。
住宅ローン控除とは、住宅ローンを組んで自宅を購入すると所得税を節税できる制度です。賃貸併用住宅は、一般住宅よりも建物規模が大きくなるため、借りる住宅ローンの額も大きくなります。住宅ローン控除の仕組みとしては、年末の借入金残高が大きいと節税できる金額も増えます。よって、住宅ローンの金額が大きい賃貸併用住宅では、節税額も大きくなることを期待する人は多いようです。
しかしながら、住宅ローン控除を利用できるのは、自宅部分のみであり、借入金残高は自宅とアパートの面積案分で割り振った額のみが適用対象となります。
例えば、年末の借入金残高が全体で4,000万円あったとしても、自宅部分の面積が50%であれば住宅ローン控除の対象となる借入金残高は2,000万円になるということです。借入金の額のわりに住宅ローン控除による節税効果が低くなるので、賃貸併用住宅を検討する際は注意しましょう。
将来的に売却や相続がしにくいのも賃貸併用住宅のデメリットです。
賃貸併用住宅は、売買市場に出されるとかなり特殊な部類の物件となります。アパートを購入したい投資家にとっては収益を生まない自宅部分が邪魔ですし、広い自宅を持ちたい人にとってはアパート部分が邪魔です。賃貸併用住宅は、アパートとしても自宅としても「どっちつかず」の面があります。
売買市場で賃貸併用住宅を購入する人は、売り主と同じく賃貸併用住宅を所有したいと思う人です。賃貸併用住宅を購入する人は、「アパートだけ欲しい」または「自宅だけ欲しい」という人よりも数としては少なく、買い主を見つけることが難しくなります。
また、子どもがすでに自宅を持っているケースでは、賃貸併用住宅は相続しにくくなります。アパートだけなら欲しいと思っても、自宅部分は不要と感じる子どもが多いからです。
また、賃貸併用住宅の自宅部分は賃貸物件としては面積が広いため、貸そうと思っても賃料総額が高くなってしまい、借り主は見つかりづらいです。
このように賃貸併用住宅は、中途半端な不動産と映ってしまうため、一般的な不動産と比べると売却や相続はしにくくなる傾向があります。
賃貸併用住宅の一坪あたりの価格相場は、以下の通りです。
延床面積が60坪の賃貸併用住宅を木造で建てた場合、建築費は4,800~6,600万円となります。賃貸併用住宅の建設費は、自宅部分の仕様がアパートよりも高くなりがちであることから、単純にアパートだけを建設するよりも割高となる傾向があります。
その他、賃貸併用住宅の初期費用としては、設計料や現況測量費、水道分担金、不動産取得税、登録免許税、火災保険料などがかかります。
ランニングコストとしては、固定資産税や修繕費がかかることになり、賃貸収入の30%前後 (借入金の返済額を除く)を見込んでおく必要があります。
賃貸併用住宅でよくある失敗事例を紹介します。他山の石としましょう。
賃貸併用住宅は、見方を変えれば自分もアパートの一室に住んでいることと同じです。そのため、共同住宅ならではのトラブルが発生することもあります。日中のテレビの音がうるさい、夜中に騒がれる、無断でペットを飼う、孤独死が起きるなどのトラブルが発生する可能性はあります。
また、入居者との距離が近いため、オーナーとしての対応も求められることもあります。管理を管理会社に委託していたとしても、何かあった際には直接オーナーに相談したり、苦情を言ってきたりする人もいるためです。
トラブルを防ぐには、適切な入居審査を行うだけでなく、賃貸借契約書で禁止事項をしっかりと設け、必要があれば契約を解除できる対策を備えておくことが望ましいです。
賃貸併用住宅を建てたものの思うように入居者が集まらないこともあります。こうなると、住宅部分だけでなく、アパート部分まで含めて、自分の収入や貯金などからローンを返済することになってしまいます。
賃貸需要がない立地だと、こうした事態に陥ってしまいます。事前に、所有する土地の賃貸需要をしっかりと把握することが大切です。
賃貸併用住宅では、建物オーナーが単身者を入居させたくないという理由で間取りをファミリータイプとしてしまうケースがよくあります。
しかし、ファミリータイプは家賃の総額が高くなるため、入居者を獲得するのが難しいです。また、戸数も例えば2戸のように極端に少なくなってしまうこともあり、空室時の悪影響も大きくなってしまいます。
アパート部分が2戸しかなければ、1戸の空室が発生しただけで50%もの空室が生じてしまいます。貯金等で住宅ローンを返済せざるを得ない状況に陥ることも考えられます。アパート部分の空室リスクを減らすには、単身者向けのワンルームを中心に考え、戸数も極力増やすことが望ましいです。
住宅の狭さは、住み心地の悪さに直結する要因です。せっかく広い土地を持っていたとしても、賃貸併用住宅にすることで自宅が狭くなってしまうこともあります。また、狭さを回避するために自宅部分を3階建てにしたことで、老後に住みにくさを感じてしまう人もいるようです。
土地が広い場合には、例えば平屋で自宅だけを建てるといった考え方もあります。平屋は広い土地がないと住居で十分な面積を確保できないため、昔から贅沢な建て方とされています。階段もなく住みやすく、天井高を高くして屋根から直接光を取り入れられるといったメリットもあります。広い土地は必ずしも賃貸併用住宅だけが正解ではないため、他のプランも検討してみることをおすすめします。
賃貸併用住宅で後悔しないためには、適切な準備とポイントを押さえておくことが大切です。
賃貸併用住宅で後悔しないためには、思い切って「住宅ローンを利用しないマンションタイプ」で検討するのもよいでしょう。
マンションタイプにしてしまえば、設計の自由度は一気に上がり、収益性も向上させることができます。マンションタイプでも、「自宅部分だけ」を対象に住宅ローンを貸してくれる銀行もあります。自宅部分だけを区分登記(マンションの一室のような登記のこと)することで、自宅部分だけの住宅ローン控除を利用することも可能です。
ほぼマンションあるいはアパートに近い建物とすれば一般的な賃貸物件と変わらないため、将来的に売却や相続もしやすくなります。
賃貸併用住宅は住宅ローンに固執さえしなければ、いろいろなデメリットを解消することができます。
賃貸併用住宅は、融資の条件としてサブリースが前提となることが多くなっています。ここでいうサブリースとは、家賃保証型のサブリースのことを指します。
家賃保証型サブリースは、サブリース会社がアパート部分全体を借り上げ、各入居者とはサブリース会社が転貸する形式の管理方式のことです。アパートに空室が発生してもサブリース会社から所有者に支払われる賃料は固定であるため、安定した収益を得ることができるというメリットがあります。サブリースであれば、毎月固定の賃料が入ってくるため、銀行も安心して融資をしてくれます。
しかし、サブリースは、自主管理に比べると、収益性が低いというデメリットがあります。自主管理とは、管理会社を利用せず自分で管理を行う管理方式のことです。賃貸併用住宅ではアパート部分が自宅のすぐ隣にあり、トラブルにもすぐに対応できることから、自主管理がしやすい物件といえます。
自主管理でアパート部分の収益性を高めたいのであれば、金融機関を選ぶ際は、融資条件にサブリース契約を前提としていないかを確認することがポイントとなります。
賃貸併用住宅は、アパートのような収益物件と同様に、事前の収支シミュレーションが欠かせません。
収支シミュレーションの際はローン返済額だけでなく、固定資産税や修繕費などのランニングコストもあわせて計算することが大切です。実際にかかる金額は、物件種別や設備によって異なるので、賃貸併用住宅を契約する前に正確なシミュレーションをしておきましょう。
一般住宅の仲介や販売を主に取り扱っている不動産会社は、賃貸併用住宅の経営や売買に関するノウハウがない場合が考えられます。そのような不動産会社を選んでしまうと、正確な収支シミュレーションができず、最悪の場合はキャッシュフローが赤字となってしまいます。
従って、賃貸併用住宅で失敗しないためにも、ノウハウをもった不動産会社を選ぶことが大切です。そのためにも複数の業者に相談し、建設費や間取りなどを比較することが大切です。インターネットの土地活用の一括請求サービスを活用すれば、複数の業者から提案を受けられるため便利です。
賃貸併用住宅の経営を始める流れは以下の通りです。
所有する土地が、賃貸併用住宅に適している土地かどうか確認します。最寄り駅より10分以内、スーパーや商店街に近いなどの条件であれば、向いていると言えるでしょう。
業者が決まった後、土地に古い家が残っている場合は解体します。賃貸併用住宅の建設は着工から3~4カ月ほどかかります。
入居者の募集は、完成前から始めます。募集を行ってくれる管理会社と、事前に契約します。建物が完成したら、賃貸併用住宅の経営がスタートします。
賃貸併用住宅によって不動産所得を得られたら、確定申告を行います。不動産所得とは、家賃収入から必要経費を差し引いた利益のことです。
自宅部分が住宅ローンを組んで建てられている場合、原則として自宅部分は住宅ローンを完済していないと賃貸に供することはできません。例外的に、転勤などの一時的な引っ越しであれば、住宅ローンを返済中でも貸すことはできます。
一方で、賃貸部分を永続的に賃貸に供する場合には、完全なアパートとなるため、住宅ローンからアパートローンへと借り換えることが必要です。アパートローンに借り換えると、金利が高くなるというデメリットがあります。
住宅ローンを組んで自宅だけを建てる場合、年収倍率は8倍までが一般的です。ただし、実際には返済負担率が重視されるため、近年は年収倍率があまり考慮されていない傾向があります。
一方、アパートローンを組んでアパートだけを建てる場合、年収倍率は10~30倍となり、かなりの幅があります。アパートローンは、そもそも返済原資がアパートの家賃収入であることから、本人の年収はあまり重視されません。そのため、アパートローンの方が年収倍率の許容度は高く、本人の年収の30倍程度を借りられる場合もあります。
賃貸併用住宅はアパート部分と自宅部分があり、本質的に返済原資の異なる建物が混在します。賃貸併用住宅は、アパート部分があったとしても銀行が保守的にすべて自宅とみなせば、一般的な住宅ローンと同様に年収倍率は8倍程度となる可能性はあります。ただし、近年の傾向からすると、実際には年収倍率はほとんど考慮されず、借入額は返済負担率で決まる可能性が高いです。
賃貸併用住宅には、住宅ローンが利用できたり節税効果があったりと、様々なメリットがあります。一方で設計上の制約が大きく、売却や相続がしにくいといった注意点があります。
賃貸併用住宅で後悔しないためには、賃貸併用住宅のノウハウをもった不動産会社に相談のうえ、様々なケースに備えたシミュレーションをしておくことが大切です。相続会議の一括プラン一括請求サービスを使って、色々なパターンを比較、検証していただければと思います。
(この記事は2023年12月1日現在の情報に基づいています)