家族信託は危険!? 失敗・後悔の9パターン トラブル回避の方法を解説
認知症対策として「家族信託」という言葉が広まりつつあります。一方、「家族信託を契約しておけば大丈夫」という意識でいると、思わぬことで失敗する可能性もあります。家族信託は、契約書の内容や家族間での認識に相違があると十分に機能しないことがあるため注意が必要です。本記事では失敗例や、トラブルを防ぐための方法を司法書士が解説します。
認知症対策として「家族信託」という言葉が広まりつつあります。一方、「家族信託を契約しておけば大丈夫」という意識でいると、思わぬことで失敗する可能性もあります。家族信託は、契約書の内容や家族間での認識に相違があると十分に機能しないことがあるため注意が必要です。本記事では失敗例や、トラブルを防ぐための方法を司法書士が解説します。
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家族信託とは、老後に備え、不動産や預貯金などの財産の管理・処分を託す方法です。認知症になった時は受託者となる家族が代わりに財産を預かり管理するようになります。
しかし、進め方や運用方法を間違えると、家族仲が悪化したり、高額な税金がかかったりする危険性があります。家族信託が失敗する代表的なパターンとして下記の9つがあります。
それぞれについて見ていきましょう。
こうした失敗を避けるためには、家族信託に精通した司法書士や弁護士などの専門家に相談することが大切です。
親の介護を子どもが担う場合に、認知症対策として家族信託は有効な手段です。たとえ親の認知症が悪化したとしても、家族信託をしておけばその影響を受けず、子どもが親の財産を介護費用や生活費に使うことができるからです。
一方、子どもの1人が親自身や他のきょうだいに情報共有をせずに、勝手に進めていくと誤解を受けやすいのも事実です。信託をスタートさせるときに財産の名義を変更する手続きが発生したり、相続のときに誰が財産を承継したりするのかも決められる制度だからです。
実際に私が相談を受けたトラブルのケースをご紹介します。
子どもが姉弟で、弟が父親と同居していました。しかし、姉主導で家族信託の手続きを進めてしまったというのです。相談を受けた時には、姉と父親との間で家族信託契約の締結が済み、不動産登記も終わった後でした。
話を聞くと、父親としては家族信託契約にサインはしたものの、不動産の名義が変わるとは聞いていないということでした。また弟も、家族信託という話が出ていたことは知っているが、進めているとは聞いていなかったとのこと。この家族は結局、家族信託を終了させることになりました。
家族間でよく話し合わずに家族信託を進めたばっかりに家族仲が不仲になってしまったケースです。
家族信託できない財産があります。代表的なものは「農地」や「預貯金口座」です。これらの財産は、たとえ信託契約書に記載しても効果が生じません。
「農地」の場合には農地法という法律に則った手続きが必要になり、信託ではほぼ認められません。また「預貯金口座」は銀行との契約で譲渡禁止特約という約定があり、勝手に名義変更はできません。親と家族信託契約を結び、その契約書を銀行に持っていって「家族信託契約をしたから親の口座の預金を下ろしたい」と言っても銀行側は対応してくれないのです。
ただし、預貯金口座にある金銭は信託できます。この場合、信託契約を結んだ後に、親自身が口座内の金銭を、受託者である子ども名義の信託口口座(家族信託用の口座)に送金手続きをする必要があります。
家族信託を契約する場合にも、税金には注意が必要です。例えば、父親が持っている不動産を家族信託して、その財産権(受益権と言います)を孫が持つとする契約をしたとします。この場合、委託者本人ではなく第三者が受益者(信託財産から生じた利益を受ける権利がある人)となるため、他益信託となり、孫に贈与があったものと見なされ孫は贈与税を納めなくてはならなくなります。
これ以外でも、信託する財産が不動産の場合には、将来、親の亡くなったのち信託契約を終了させたときにその登記をするための登録免許税がかかります。登録免許税は課税される税率が2パターンあり、契約書の内容によっては高い方の税率が採用されてしまう可能性があります。その差は5倍にもなる場合もあるので注意が必要です。
財産権を親から子、子から孫に順番に承継させたい場合、遺言では指定することはできませんが、家族信託ではそれが可能です。しかし契約書の構成を間違えると予定外に早く終了してしまい、当初の希望が叶えられなくなります。
その1つが「1年ルール」です。1年ルールとは、受託者が唯一の受益者となり、その状態が1年間継続すると信託契約が終了するというものです。
「受託者=受益者」の場合は、信託ではなく所有権を持っている状態と変わらず、また受託者と受益者が同じ人物という特殊な状態です。これが1年間継続した場合、信託契約は終了すると法律で規定されています。例えば、財産権を親から子、子から孫に順番に承継させる家族信託を契約したとします。親が死亡し、子が受託者と受益者とを兼ねた場合、この状態が1年続くと家族信託は終了となります。
信託契約を終了させず孫の代にも承継していくためには、家族信託を開始するときにあらかじめ第二受託者を決めておいたり、受託者を変更するなど、「受託者=受益者」を解消し1年ルールを回避する工夫が必要です。
家族信託は認知症対策の1つですが、親に契約する能力がある間しか契約できません。したがって、家族信託を利用することを決めて、実際に契約の締結までどのくらいのスピードでたどり着けるかも重要になります。
信託契約の内容が複雑になる場合や、融資を受けていて事前に融資銀行に確認が必要になる場合などは、契約の締結までに半年など長期間かかることもあります。その間、親の認知症が進んでしまい契約能力がなくなってしまった場合は信託契約をすることができなくなります。
今は、様々な手続きの流れや必要書類の雛形などをインターネット上で見つけることができるようになり、自分で手続きをする方も増えてきました。しかし、家族信託の契約手続きを自分たちだけで進めることはお勧めしません。
インターネット上で雛形として上がっている契約書には不備のあるものがあります。法律専門職の運営しているサイトも例外ではありません。例えば、契約書中に、父親の死亡により信託が終了するとなっているのに父親の次の受益者が定められているなど、同じ契約書内で矛盾が生じているなどの例もありました。
家族信託は2006年の信託法改正をうけて施行され、まだ十数年しか経っておらず、大変高度な契約です。自分たちだけで契約書の作成を行った場合はこのような不備を発見できず、将来のトラブルを作り出してしまう危険性があります。司法書士や弁護士など専門家に契約書作成を依頼することをおすすめします。
家族信託契約は相続の時の財産の承継についても定めることができるので相続対策としても有効です。しかし、相続人間で偏った割合で財産を承継させる場合には注意が必要です。遺産をもらえなかった相続人から遺留分を請求される可能性があるためです。
遺留分とは、「特定の相続人が遺産を相続する最低限の取り分」であり、請求された場合は金銭で支払う必要があります。遺留分が請求される可能性が高い契約を行う場合は、同時に遺留分相当額を金銭で支払える準備もする必要があります。
家族信託契約は、「締結して終わり」ではなく「締結してからがスタート」です。そのため、経験の少ない専門家に依頼した場合は締結してから後々にトラブルが生じる可能性があります。まだ施行されてから判例もそれほど多くなく、弁護士や司法書士といった士業でも家族信託を専門にしている方はまだまだ少ないです。依頼する際には家族信託に詳しく経験豊かな専門家であるかどうかを見極める必要があります。
「1. 親族仲が悪化する」で、父親や弟へ十分な了承をとらずに姉が家族信託の契約を進めてしまった事例を紹介しました。相談を受けた後にも、家族間で話し合いもおこなわれましたが、姉に対する父親や弟の不信感が強く、最終的に家族信託契約は終了することになりました。初めに依頼した専門家への報酬や実費などはすべて無駄になってしまいました。
家族信託契約は長く続く契約なので、当初の計画通りにいかないこともあります。経験のある専門家の場合は、予定外の事態が生じたときにも対応できるよう契約書に工夫をします。例えば「受益者代理人(受益者に代わって権利を代理する立場の人)」の設置などもその1つです。
しかし、経験の少ない専門家の場合は、契約にそのような工夫が盛り込まれておらず、予定外の事態が生じたときに対応できない可能性があります。
アパート経営をしている方特有の家族信託での注意点として損益通算があります。損益通算とは、同じ人が所有する赤字経営のアパートの最終的な損失を黒字経営のアパートの最終的な利益と足し合わせて利益を圧縮できるルールのことです。
しかし、家族信託を利用する場合には注意が必要です。なぜなら「信託したアパート」に損失があっても、当該損失は0(ゼロ)とみなされ、「信託していない黒字の不動産」の利益と損益通算をすることができないからです。損益通算が出来なければ、信託していない黒字の不動産の利益を圧縮できずに、所得税がかかってしまいます。
特に大規模修繕などを予定している場合、損益通算について注意して家族信託を設計しないと、損失が使えない分、多額の税金を納めることになりかねません。
失敗例を紹介してきましたが、適切に運用すれば家族信託は認知症対策に有効です。リスクを回避するための方法を紹介します。
失敗を回避する1番の方法は、家族信託に長けている専門家を見つけることです。そうすれば、家族信託契約書の不備からの失敗、家族との情報共有の不備からの失敗や税務面での失敗などを回避することができます。
「1-5. 認知症が進んで信託契約ができなくなる」で説明したように、親に契約する能力がある間しか家族信託は契約できません。したがって、親が元気なうちに、なるべく早めに行動する必要があります。
なお、認知症の程度が軽度であっても、判断能力が十分にあると認定されれば、家族信託を契約できる可能性はあります。とはいえ、後にその家族信託の有効性を巡ってトラブルになる恐れがあります。成年後見制度を利用した方がいいというケースもありえますので、専門家と相談して下さい。
家族信託を進めるときに、家族会議を開くことも効果的です。
親の財産が絡むことなので、知らされていない中で進んでいると感情面での不安が生まれ、トラブルにつながります。そのため、家族会議を開催し、全員の合意を得て、進めていくことがベターです。
家族会議では、「家族信託の目的や仕組み」「相続についての考え」を共有します。重要なことは、「親の言葉」で話してもらうことです。子供の1人から、他の兄弟に伝えるよりも、「親の言葉」で伝えた方が、同意が得られやすいです。
親の認知症対策として考えられている家族信託ですが、家族信託だけでは対応できないケースもあります。そのような場合に備えて、遺言や任意後見契約、生命保険など他の方法を組み合わせることもあります。
また、ご家庭の状況や目的、資産によっては家族信託が最適でないこともあります。例えば、数百万円程の金銭について子供に管理を任せたい場合には、家族信託ではなく、生前贈与を活用する選択肢もあります。
どの方法がベターなのかを判断することは難しいので、専門家にアドバイスを受けてすすめることがいいでしょう。
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相続の相談が出来る司法書士を探す家族信託は、契約した時の受益者(委託者である親と同一であることが多い)が亡くなっても、その後子どもや孫などが受益者となりを財産を引き継ぐことができる「受益者連続型信託」として成り立つことが信託法第91条により定められています。ただし信託契約を開始後、30年が経てばその時の受益者が亡くなっても承継できるのは次の受益者までとなり、さらに次の受益者に引き継ぐことはできません。これを「30年ルール」と呼びます。
例えば、委託者であり受益者であった親が80才、次の受益者となる子どもが50才の時に家族信託契約を結んだとします。その後親が亡くなり子どもが受益者となりました。契約から30年が経って子どもが80才で存命であれば、30年ルールが成立し子どもの次の受益者には受益権を承継することができますが、その次の受益者を定めていたとしても受益権を承継していくことはできません。
第二受益者・第三受益者と信託契約で定めても、必ずしも最後まで連続して承継できるわけではない点に注意が必要です。
親の預貯金や不動産など、もともとの資産が少ない場合は家族信託をする必要はありません。専門家に依頼したり手続きをする費用のほうが高くなってしまう場合もあります。すでに子どもや孫へ生前贈与などの何らかの対策をとっており、親が認知症になって資産が凍結されても、贈与された資金から親の介護費用や医療費などを支払える場合も考えなくてよいでしょう。
親族同士の仲があまり良くない場合、一人の受託者が財産を管理することがトラブルの原因になることもあります。家族信託は、遺産分割のように相続人全員が合意して手続きする必要がなく、委託者と受託者のあいだで合意すれば契約が成立してしまいます。情報を共有していなかった親族ともめてしまうかもしれません。
また、もともと相続税対策として考えられた契約ではないので、節税の効果はあまりありません。契約の内容によっては、逆に贈与税が発生したり、損益通算ができなくなって高額な所得税が課せられたりすることがあるので注意が必要です。
家族信託契約は、専門家である弁護士や司法書士、行政書士などであっても、経験がなければ契約内容に漏れが生じ、作ることが難しいものです。家族信託に関する判例もまだ多くありません。家族信託についての情報は日々更新されているため、できれば家族信託の案件に日頃から接していて経験豊かな専門家にサポートしてもらったほうがいいでしょう。
以上、失敗する代表的な9パターンを見ていきました。せっかく認知症対策として家族信託を利用しても、トラブルに巻き込まれては、後悔も大きくなります。こうした事態を避けるためにも、専門家への相談を検討して下さい。住んでいる地域で見つからなくても、今はリモートで相談ができます。1人だけではなく、複数の専門家に相談して実際にお願いする人を選ぶのがよいでしょう。
(記事は2023年5月1日時点の情報に基づいています。)
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