(韓国放送公社〈KBS WORLD Japanese〉2024/06/19)
〇本日ご紹介する本は、カン・ジュンマンの『韓流の歴史』です。日本では翻訳されていないと思うんですが、韓国では2020年に発売された本で、サブタイトルは「キム・シスターズからBTSまで」となっていて、700ページを超えるかなり分厚い本です。最近K-POPについて執筆する機会があって、いろいろ調べているうちにこの本を見つけたんですが、K-POPだけでなく映画・ドラマなど幅広く韓流について学べる本です。かなり多岐にわたるので、今回は音楽に絞ってお話したいと思います。

〇まず、BTSはもはや知らない人はいないと思いますが、キム・シスターズというのは、「最初の韓流アイドル」と呼ばれるガールズグループで、1959年にアジアのガールズグループとしては初めて米国に進出し、成功を収めた、とされています。「エド・サリヴァン・ショー」という米国の有名なバラエティ番組にも出演し、「20種類の楽器を演奏する少女たち」として紹介されたそうです。この頃は朝鮮戦争の後で、米軍基地が音楽の一つの発信地になっていたというのも、米国進出のきっかけになったようです。

メンバーは3人で、そのうち2人は「木浦の涙」で知られる歌手イ・ナニョンの娘でした。「木浦の涙」といえば、最近韓国のMBNで放送された「日韓歌王戦」で、日本代表の高校生、東亜紀さんが韓国語で情感たっぷりに歌って、話題になっていました。

〇伝説的なグループとしては「ソテジワアイドゥル」という92年にデビューした男性3人のグループがよく知られていますが、10代20代の圧倒的な支持を受けて人気絶頂のなか96年に突然引退を宣言した、というのが社会を揺るがすビッグニュースだったそうですよね。ドラマ「財閥家の末息子」でも象徴的な事件として登場しましたが、韓国の音楽史を知るとドラマもさらにおもしろくなると思います。特に「応答せよ」シリーズは、この本を読んでから見ると、時代の雰囲気がよく分かると思います。

〇日本での韓流についても出てくるんですが、2000年代初めはBoAでしたよね。BoAはSMエンターテインメントの所属で、日本現地化アイドルの先駆けのような存在でした。小学校5年生の時から日本語を学んで日本デビューに向けて準備したそうです。K-POPの世界的な成功要因の一つはメンバーの外国語の習得、あるいは外国人メンバーを入れるということですが、BoAはほんとに日本語がうまかったですよね。朝日新聞にいた頃、K-POPの特集記事を書いた時に、SMにBoAの写真提供をお願いしたら、「BoAはK-POPじゃないからK-POP特集に入れないでほしい」って言われてびっくりした覚えがあります。SMとしてはBoAを日本のアーティストとして売り出していたということなんでしょうね

同じ時期に中国で人気だったのはH.O.T.だったそうで、国によって人気のアーティストも様々なんですね。H.O.T.もSMのグループでした。

〇韓流がいかに世界を席巻したのか、様々な角度から分析していて、K-POPのもう一つの成功要因としては、SNSをマーケティングにうまく活用したことを指摘しています。特にYouTubeの公式チャンネルを活用して時間と空間の制約を一瞬で超えて全世界に広めた、ということですが、ファンとのコミュニケーションという点でもSNSは大事ですよね。

ファンでいうと、BTSのファン、ARMYが有名ですが、BTSは韓国人で初めてツイッターのフォロワー数1000万人を突破し、現在はXですが、なんと4428万人を超えています。BTSの生みの親、パン・シヒョクさんは今は別件で渦中の人になっていますが、かつてBTSの成功の秘訣として「SNSとメディア環境の変化」を挙げていました。SNSを通して舞台裏の映像や写真をファンに公開したり、ファン同士の盛り上がりにもつながっています。メンバーは授賞式で必ずARMYに感謝の言葉を述べて、ファンを大切にしている姿が印象的です。

〇2000年代以降は私もリアルタイムで見てきたので、ああ、そんなこともあったなと振り返りながら読んだんですが、それ以前の出来事は初めて知ることも多く、とっても勉強になりました。現代史に絡めて書かれているので、文化を切り口に韓国現代史を知る本としてもおすすめしたいと思います。

■成川彩(なりかわ・あや)
  韓国在住映画ライター
  ソウルの東国大学映画映像学科修士課程修了。
  2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。
  日韓の様々なメディアで執筆。
  KBS WORLD Radioの日本語番組「玄界灘に立つ虹」レギュラー出演中。