「やっぱり、自分の次の目標はパリオリンピックに出たいと思っているので、そのチャンスはあると思っていますし、アジア競技大会は自分としてはアピールできる最大の場だと思っているので、自分のできることをやっていきたいなと思っています」。
日本を代表するオールラウンダー、今村佳太はそう強い言葉を口にした。一部のファンからは、今夏のFIBAワールドカップ前から彼の代表入りを期待する声もあったが、来夏のパリオリンピックへ向けて、彼の表情は明るい。
沖縄などで行われたそのワールドカップで日本男子代表が躍進し国民を感動させたが、盛り上がりの余韻も冷めやらぬ中、同代表はすでに次へ向けての活動を開始している。23日から中国・杭州で開幕するアジア競技大会(バスケットボールは26日より開始)へ向けて、チームは東京で精力的に合宿をとり行っているのだ。
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■「チームに勝利をもたらす存在だ」と示す
もっとも、今回のチームにはワールドカップを戦った面子はゼロ。しかし、選手たちの意気込みは高い。なぜなら、アジア大会を含めたここからの活躍でパリオリンピック出場を目論んでいるからだ。
同オリンピックへ向けての選考で、ワールドカップメンバーの中に「割って入る」可能性を示すのが、今村だ。191cmのシューティングガードは昨シーズン、所属の琉球ゴールデンキングスを2年連続のBリーグファイナルへ牽引した。元来から得意としていたドライブに加え、昨シーズンの前にはスキルの向上に務め、ボールハンドリングや3Pシュートでも大きく成長を果たし、シーズンではチームを念願の優勝に導いている。
今村はパリオリンピックへの出場を強く意識している。それは冒頭の言葉からもにじみ出ているはずだ。普段、自身がプレーする沖縄アリーナで世界最高峰の戦いぶりが繰り広げられた。そして、そこで”アカツキ・ジャパン”が3勝をあげてパリ行きの切符を手にするなど、躍動した。今村は日本戦だけなく、それ以外の試合も含めてほとんど毎日、スタンドから試合を目の当たりにした。日本代表の躍進について、今村は「日本ののバスケットボールの形を見せてくれたので、自分たちとしてもすごく希望が持てる、世界でも通用する部分があるんだなと率直に感じたので、自分としても影響を受けた出来事でした」と語る。
ただ、頭の片隅にはその熱狂の輪の中にいられなかった、地元・沖縄の琉球の選手としてそのコートに立つことができなかった、という悔しさもあった。
今村は言う。「僕が琉球ゴールデンキングスに入ったタイミングで沖縄でのワールドカップも決まって、琉球ゴールデンキングスの選手があの沖縄のアリーナでプレーするっていうことはすごく大きな意味を持っていたので、そこを目標にしていました。悔しい気持ちはあったんですけど、でもこれでバスケットボール人生が終わるわけでもないし、日本代表の方々が(パリオリンピックへ)繋げてくれたので、自分ももっと貪欲にやっていきたいっていういいモチベーションで今はできています」。
当人が語るように、パリオリンピック代表入りへ向けて気持ちは前向きだ。アジア大会は、そのアピールとしての第一歩となる。
2022-23シーズンは平均得点(11.3)、同アシスト(3.6)でキャリア最高を記録するなど、彼にとってもより成長を遂げた1年となった。なかでも、スキルを磨いたことで自身による得点機を作り出す、あるいはペネトレートしたところからパスをさばくといったことができるようになった。琉球の優勝は、彼の成長によるところも大いにあった。
日本代表がトム・ホーバスヘッドコーチ(HC)体制となってから、今村は何度か招集を受けているが、その時の彼の役割はどちらかというと3Pを打つことだった。しかし、ホーバスHCも、今回のアジア大会のチームを率いるコーリー・ゲインズHCにしても今は、今村のできることを以前よりもよく理解している様子だ。
6月の代表合宿の際、ホーバスHCからは3Pの調子には誰しも波があるためリングをアタックすることが必要だと言われていた。そこは今村自身がこの2シーズンにわたって取り組んできたところだけに、自信を得られた。
「『ここまでボールハンドラーができると思っていなかった』と言われて、(僕としては)『あれ?』と思って(笑)。でも、自分としてはその部分を認めてもらったと思っているので、チャンスかなと考えています」。
今村のSGのポジションは、ワールドカップ前から選考の遡上にあがる選手数が多く、ゆえに競争は激しかった。が、上述のように自らのドリブルスキルで1対1をしかけてそこから得点する、またその中で空いた選手を見つけてパスをさばくといった他の選手があまりやらないところは、今村にとってのアピールのポイントとなる。
合宿の充実ぶりを伺わせる口調で、今村はこう話す。「キングスでの役割とあまり変わらないと思っていますし、コーリー・ゲインズHCが任せてくれているので、自分としては毎日、すごくやりがいのある日々を送らせてもらっています」。ゲインズHCは、アジア大会が選手たちにとってパリオリンピックへ向けて個々の能力を示すための大会になるわけではないと釘を刺す一方で、ホーバスHC体制ではどの選手にも椅子が確保されているわけではなく、選手選考は競争を経てなされるものだとした。
その点について、ゲインズHCの弁舌は明快だった。「『激しくプレーし我々が求めることをやっているのであれば選手たちにはいつでもチャンスがあるよ』と、ホーバスHCは常々、話しています」。
今村をはじめ今回選ばれている選手たちも、そこは理解しているはずだ。ホーバスHCらスタッフが求めるのは、どの選手たちを選考すればよりチームの勝つ可能性が高まるか。パリオリンピックへ向けて、アジア大会で選手たちは自分たちが勝利をもたらせる存在であることを示していく。
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著者プロフィール
永塚和志●スポーツライター
元英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者で、現在はフリーランスのスポーツライターとして活動。国際大会ではFIFAワールドカップ、FIBAワールドカップ、ワールドベースボールクラシック、NFLスーパーボウル、国内では日本シリーズなどの取材実績がある。