フラワーアーティストの東信さんが、読者のみなさまと大切な誰かの「物語」を花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか？ エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
原嶋由美さん（仮名） 36歳
会社員
大阪市在住
◇
私を女手ひとつで育ててくれていた母にかわって、幼い頃から保育園の送り迎えや身の回りの世話を、今は亡き祖父と共にしてくれたのは、祖母でした。小学校に上がった頃、新しい父親と母との生活が始まり、妹が生まれてからは家での私の居場所が徐々になくなっていきました。継父にきつく当たられることもしばしばあり、そんなときに私を守ってくれていたのも祖父母でした。
祖母は明るく、とてもよく笑い、そしてとても優しく面倒見のいい、言ってみれば太陽のような人。「ばあちゃんは、由美が大好きやで」が口癖の祖母や祖父に守られて、幼少期を過ごしました。この頃の思い出はほとんど祖父母と一緒。長期休暇には祖父母の田舎へ連れて帰ってもらい、穏やかな日々を送ることができました。私にきつく当たる継父をときにはたしなめてくれることもあり、とてもかわいがってもらった思い出しかありません。
とはいえ高校生になると、ますます家にいるのがつらくなり、高校を中退して家を出ることを決心。祖母は反対して私を引き留めてくれましたが、結局は家出のような形で家を出ることになりました。生活はできているのか、ご飯はちゃんと食べているのか……。祖母からはそんな心配の電話がよくかかってきたものです。
その後、祖母と以前のように連絡を取るようになったのは、成人して少し経って、私が妊娠をしてからです。祖母も祖父も昔私をかわいがったのと同じように、私の娘をかわいがってくれました。
そんな祖母も80代に。今年になってから看取（みと）りのため、長い間祖父と共に過ごしていた家に帰ってくることになりました。「最後はお家で過ごしたい」との祖母の希望からでした。とはいえ家に帰ってももう何も食べることができず、点滴のみになるとのこと。せめて意識があるうちに、私を守り抜き、精いっぱいの愛情をかけてくれた祖母に、好きだった紫やピンクのお花とともにお礼を言いたいと思うようになりました。
食べられないぶん、きれいなお花を見て、少しでも穏やかな気持ちで最後の時間を過ごしてもらえたら。どうぞよろしくお願いします。
花束をつくった東さんのコメント
ご自宅で楽しんでいただけるように、お祖母様が好きな紫とピンクのお花をたっぷり入れて作ったアレンジです。明るくて優しくて、そして太陽のようだというお祖母様をイメージして、メインは明るく華やかなお花でご用意しました。
一方、古くから日本で親しまれてきたテッセンなどをメインに、足元にはフワフワしたスモークツリーも。華やかなお花と、お庭にあるようなさりげないお花の組み合わせを楽しんでもらえるといいですね。
文：福光恵
写真：椎木俊介
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。選んだ物語を元に東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に＆ｗで紹介させていただきます。
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