打首獄門同好会らしさ満載のメッセージ・ソング『BUN BUN SUIBUN』
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音楽バラエティー番組『EIGHT-JAM』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の6本。
1 “すいすいすい すすいすすい すい ブンブンブン ブブンブブン 水分”(打首獄門同好会『BUN BUN SUIBUN』作詞:大澤敦史)
2 “出されたおつまみについて話してます” (博多華丸)
3 “こんなんなんぼあってもいいですからね”(ミルクボーイ)
4 “エンゼル”
5 “仕事人間”
6 “永久不滅ポイント”(セゾンカード)
日々の雑感をつづった末尾のコラムも楽しんでほしい。
“CMソングの基本”に回帰した『BUN BUN SUIBUN』
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誰かがそうあるべきと決めたわけではないのに歌というのは、恋愛の歌、人間関係にまつわる歌、頑張っている人の歌、みたいなテーマが多くなりがちである。それらのテーマが多くの人の生活に密接に関係していて、生きていく中でBGMになったり、大切なメッセージとして機能したりすることが多いからだろうと思う。
打首獄門同好会の『BUN BUN SUIBUN』は、「熱中症にならないようにこまめに水分を摂(と)りましょう」というメッセージ・ソングである。彼ららしさ満載の脱力したテーマと激しいサウンドの取り合わせが最高だ。一見、前述したどれとも違う、特異なテーマのようではあるけれど、これがまったくの色モノかというとそうとも言い切れないような気もする。
というのも、「こまめに水分を摂りましょう」というのは、「生きていく上での大切なメッセージ」には変わりないし、むしろ世界中の老若男女全ての人に当てはまる内容であると考えると、そのテーマの分母の大きさたるや前述のテーマの歌たちの比ではない。この夏、喉(のど)が渇いた誰かがあちらこちらで「すいすいすい すすいすすい すい ブンブンブン ブブンブブン 水分」と何げなく口ずさんでいる、みたいな状況になっていてもおかしくはない。それくらいポップでキャッチーなテーマである。
この歌はポカリスエットのCMソングに起用されている。これまで、青春の甘酸っぱさを歌った歌、さわやかでエバーグリーンな歌、シンプルに格好いい歌、様々なタイプの名曲がポカリスエットのCMを彩ってきたけれど、今年はその飲み物の機能を伝えるという“CMソングの基本”に回帰しているのも、遊び心に溢(あふ)れていて素敵だなと思った。
現地調達ができる人のタフさ
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5月30日放送の日本テレビ系 『ダウンタウンDX』でのこと。お酒大好き芸能人大集合SPと題して、お酒にまつわるトークをしていた。飲みの場で皆どんな話をしているのかという話題になり、仕事の熱い話のエピソードが披露される中、博多華丸・大吉の華丸さんは「私は出されたおつまみについて話してます」と涼しい顔で言ってスタジオを爆笑させていた。相方の大吉さんが「出てきた冷奴(ひややっこ)で30分くらい話してるんです」と言うと、一転して客席から「えーっ……!」「ひゃーっ……!」と、悲鳴が上がった。華丸さんは意に介さず、「何を足したら美味(うま)いか。だから、薬味の話ですね。薬味の話をしてます」と笑顔で続けて、再び爆笑を起こしていた。
よく、無人島に何を持っていくかみたいな話があるけれど、いくら大事だ便利だと言っても、布団だの電子レンジだのを持っていくなんていう人はどうかしているわけで、大体はナイフ的な道具を持っていき、それを使って食料や寝床なんかを現地調達して生き抜くのがサバイバルの基本だろうと思う。
飲み会がそれと同じだとは言わないけれど、やはり飲みの場でも仕事の場でも、話題を現地調達できるというのは大事なことだし、それが自然に出来る人は人間としてタフさを感じるというか、面白い人だなと感じている気がする。
とりあえず最小限の持ち物で飛び込んで、あとは現場でどうにかする。それが生きる力のある人の基本なのだと思う。持ち物が少なければ、フットワークが軽くなる。それはつまり行動範囲が広がるということでもある。
なんぼあってもいい物とは
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ミルクボーイが漫才のつかみで、客席の一番前まで行って、お客さんから何かを受け取る仕草(しぐさ)をしながら、「あ〜、ありがとうございます。今、ベルマークをいただきましたけどもね。ありがとうございます。こんなんなんぼあってもいいですからね」みたいな一言を言うくだりがある。
先日、家を本格的に片付けた。いわゆる断捨離というやつで、家中の荷物をすべて引っ張り出して、要る要らないをすべて仕分けて、要らないものは片っ端から処分した。おかげで家が軽くなったというか、贅肉(ぜいにく)が落ちてダイエットに成功した感じがする。
ごくたまにしか使わないものや、使うかもしれないけど実際は使わないものに圧迫されて、自分が毎日生活するスペースが減っていくというのは、なんとも本末転倒なことだと、あらためて思った。そもそも都会で暮らす上では「スペース・イズ・マネー」なのである。いくら収納が多い物件だったとしても、その収納スペースにだって、高い金額を払っているのだから。
片付けながら、履かないまま眠っていたスニーカーを手に取って、ミルクボーイの「こんなんなんぼあってもいいですからね」という言葉が脳裏に浮かんだ。私は同じ靴を何足も買い足してしまう癖があった。というのも、自分が気に入っている靴がどこかで安売りされているのを見つけてしまうと、「こんな値段で売られるような靴じゃないのに」と、使命感みたいな気持ちが込み上げてきて、つい買ってしまうのである。その時は、まさに「こんなんなんぼあってもいいですからね」の心境なのである。
でも、この世になんぼあってもいい靴などないのである。片付けるほどにどんどん広くなっていくシューズクローゼットの前で、肝に銘じた。
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