永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶
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感激したある俳優の言葉 永瀬正敏が撮ったアメリカ(283) 

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回もアメリカでの一枚。撮影現場で感激した、ある俳優の言動とは。

感激したある俳優の言葉 永瀬正敏が撮ったアメリカ(283) 
©Masatoshi Nagase

前回に引き続き、
アメリカ・ニュージャージー州パターソンで撮影された、
ジム・ジャームッシュ監督作品『PATERSON』の現場にて。

アダム・ドライバーが運転するバスの運転席。
実際にこのバスで撮影が行われた。
僕はバスの乗客として、バスに乗り込める役ではなかったので、
車外から撮影させてもらった。

名だたる監督たちに愛される俳優のアダム・ドライバー氏。
なんせ“フォース”(『スター・ウォーズ』参照)を使える俳優だ(笑)。
大スターである彼はもうわがまま放題いっても、
誰も文句は言わないだろう。

しかし実際の彼はそんなティピカルなイメージとは真逆で、
実に真摯(しんし)で、控えめで、素晴らしい人柄だった。
そうでなければ、ああいうお芝居はできないだろう。
まぁジャームッシュの組で俳優もスタッフも横柄な人に、
会ったことはないのだが。

こんなことがあった。
アダム単独のカット。
カメラはアダムだけを捉えている。
僕はカメラの後ろに隠れて、目線とセリフの相手をしていた。
これは日本では(いや、他の国でも)当たり前のことなのだが、
そのカットを撮り終えた後、控室に戻ろうとしていた僕を、
アダムが追いかけてきた。

「目線にいてくれて、セリフの相手もしてくれて本当にありがとうございました」

わざわざ追いかけてそのことを伝えにきてくれた。
少しだけ年齢が上の(いや、かなり)、
俳優歴の長い(いや、普通に生きていれば長くなる)僕に対して、
きちんとリスペクトしてくれる彼の大きさに感激した。

そういうエピソードが沢山(たくさん)あった。
現場でもみんなに愛されていた。

劇中、愛妻ローラと愛犬マーヴィンに、
心から愛されているように。

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