小林の先制点含む3ゴールで徳島を下した山形は今季初の3連勝を飾った [写真]=J.LEAGUE
このところアシストを量産している三鬼海から、糸を引くようなセンタリングのボールが蹴られた時、NDソフトスタジアム山形の空気がピンと張り詰めた。固唾を呑む6千人余りの視線が、ゴール前に注がれていた。
ボールは、ゴール前に入って来ていた小林成豪に向かって飛んだ。ただ、「思ったよりゴールから離れるボールになってしまった」と三鬼が振り返ったとおり、ボールは小林の背後に落ちて行く。
「そこからどうするんやろ、と思ったらアレで。マジかよ、と思った(笑)」
三鬼を驚かせたのは、小林が見せたオーバーヘッド気味のダイレクトボレー。ゴールに背を向けてボールを追った小林は、左の肩口あたりに落ちて来たボールに、体をひねってジャンピングボレーで右足を合わせ、ゴールに蹴り込んだのである。「自分でもびっくりした」というテクニカルなシュート。ロシアW杯の連日の熱戦で目の肥えたファンも、ライブで観るダイナミックなゴールシーンにどよめいた。J2リーグ第20節山形vs徳島戦の前半8分に飛び出したこの先制ゴールは、DAZN週間ベスト5ゴールに選出された。
小林は今季、J1神戸から期限付き移籍で山形に加入した。プロ入りした神戸での2年間でリーグ戦出場は33試合あるが、先発は半数にも満たない。「もっと試合に出て、もっと成長したい」と新天地を求め、山形にやって来た。
J1でレギュラーを掴みきれない若い選手が出場機会を求めてJ2に移籍するのは一つのパターンだが、カテゴリーを下げたからといって誰もが「求めた出場機会」を得られるとは限らない。だが、小林はしっかりと違いを見せてくれている。開幕からスタメン出場を続け、第3節熊本戦では2ゴールして今季初勝利に貢献した。その後、コンディションを落としてゲームから離れた時期もあったが、第14節大宮戦で途中出場して決めた1ゴールが復活の狼煙。以降ここ6試合に先発し、計3得点をあげている。
チームも4勝2分と好調だ。一時はJ3降格圏に飲み込まれそうだった順位も9位まで上がって来た。開幕当初の低迷から、システムを変えて守備を整備し、今またあらためて、攻撃のオプションを増やしている段階。共に前線で躍動する阪野豊史、南秀仁とのコンビネーションも日に日に熟成を深め、なかなか見えてこなかった「点を取る形」が少しずつ姿を現している。
20節を終えて、14試合出場(うち先発12)、6得点。数字の上では充実のシーズンを折り返そうとしているように見える。が、本人の納得ラインはもっと上にある。先制点をあげ、3−2と勝利したこの徳島戦もまた反省点の“宝庫”だった。
「点は決めているし、チームも勝っているのは良いことですが、個人で改善しなければいけないところがいっぱいある。パスミスもあったし、消えている時間も長かった。背負って受けることができずにロストするシーンも多かった」
その貪欲さが、24歳のポテンシャルをさらに引き上げる。
スーパーなゴールを決めた後も、戸惑い顔でチームメートにもみくちゃにされていた男は、次にどんな才気のきらめきを見せてくれるのか。それは山形のサポーターにとって、もしかしたらW杯よりもずっと心踊ることかもしれない。
文=頼野亜唯子