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【ライターコラムfrom甲府】まだ終わりじゃない…一丸での得点に見えたチームの可能性

2018.09.20

大宮戦で決勝点を挙げた佐藤(右)とアシストした清水(左) ©J.LEAGUE

 9月19日の大宮アルディージャ戦で、ヴァンフォーレ甲府を1-0の勝利に導いたのは佐藤和弘が69分に決めたゴールだ。ホームでは7月21日以来、ほぼ2カ月ぶりの勝利だった。

 佐藤はまず自陣深くでセカンドボールを収めてCBに下げると、そのまま押し上げる。ボールは今津佑太、道渕諒平とつながり、金園英学が胸で後ろに落とす。小塚和季が切れ込んで左サイドに開き、清水航平とパス交換。佐藤がそこへサポートに入っていて、「アクション」が始まった。

 佐藤は左大外をドリブルで持ち上がり、内側の清水に預けたあとも足を緩めなかった。佐藤はこう振り返る。

「(清水)航平くんが見えたので航平くんを使いながら、ワンツーが来るなと思って走った。航平くんに入ったとき、相手のSBが食いついていたので、通してくれるだろうなという思いで(スペースに)入りました。(リターンパスが)来たときにはスペースが空いていたので、中へ打ち返した。間に速いボールを入れたら、結果として相手に当たって入った」

佐藤の得点を喜ぶ甲府の選手たち ©J.LEAGUE

 プロサッカー選手は一瞬で色んなことを考える。佐藤はスプリントで相手を剥がし切っていたが、シュートを決め切るには角度が狭かった。佐藤はその中でも可能性の高い選択肢を模索していた。

「トラップをして中を見たとき、ゾノくん(金園)が入ってくるようには見えたので、キーパーとDFの間に入れた。最近はマイナスに落として一人目が潰れて、後ろから入ってくる形が多かった。相手もそれを研究してくるけれど、その逆を突けた。相手に当たったのは結果オーライですが、事故ってくれればいい。DFが触るか、ゾノくんが先に触るか、それ期待しながら蹴った感じです」

 上野展裕監督が4月末に就任して取り組んでいるのは、狭い距離感に人をかけて崩す攻めだが、それには二つの前提がある。一つは当然ながら技術で、もう一つは動きのアイディアだ。思い切って飛び出す、出して動く姿勢は大前提で、それに加えて走るコースや角度、タイミングに変化をつけることが相手を攻略するカギとなる。

 大宮戦はその狙いが出た試合だった。上野監督は「もっとできる」という含みを出しつつ、試合後にはこう述べていた。

「追い越していくところ、飛び出していくところは、斜めの走りも含めて、選手たちはどんどん動いてくれた。もっと動けば、前半はもっと決定的なチャンスを作れたと思います。そこを少しずつ積み上げていきたい」

大宮戦で指示を出す上野監督 ©J.LEAGUE

 ただしボランチが左のウイングバックを「外から追い越す」プレーは、かなりイレギュラーだ。佐藤は得点につながった自らの動きについてこう口にする。「思い切っていましたけれど、それをやらないと相手は崩れない。同じことをやっていても、相手は簡単に守れる。そういうこともやっていかなくちゃいけない」

 ボランチが前線に飛び出す動きは、チームにとってリスクでもある。上野監督が就任した直後、5月の5試合を甲府は4勝1分で乗り切った。攻守でどんどん前に出る積極性が奏功し、相手を飲み込めていたからだ。

 しかし相手は甲府を分析するし、隙を見つけて突くようになる。根負けせず積極性を維持することこそが大事だったし、実際にカップ戦など「チャレンジャーの戦い」ができるときの甲府は結果を残せていた。しかしJ2のリーグ戦になると、6月以降は何か煮え切らない戦いが多かった。J1で培った守備のメンタリティが、悪い意味でブレーキになってしまっていたのかもしれない。6月以降にホームで開催されたリーグ戦は9試合あるが、甲府は19日の大宮戦を含めて2勝しか挙げられていない。

 大宮戦は甲府にとって、16試合ぶりの無失点ゲームでもあった。つまり思い切りだけでなく、守備の面でも成果があった。佐藤はこう振り返る。

「対戦相手は全部、ボランチとかが出た裏を狙っている。それをずっとやられてきているので、それをオグさんと話し合いながらプレーした。どちらかが出たなら、どちらかは残らないといけない。どちらかのシャドーが出るなら、もう一方のシャドーは相手のボランチを見るとか……。そういうのはキツイですけれど、みんなでやり切った」

 攻守のバランスについて、佐藤はこう説明する。

「(今までは)ボランチが二人とも後ろに下がってさばいて、2列目でシュートを打てるシーンのあまり無い展開が多かった。良いときは後ろからみんなが追い越す戦いができていたし。守るときは守ってというのも統一できていた。それが今日はいい形でできていた」

佐藤とボランチでコンビを組む小椋 ©J.LEAGUE

 佐藤の「相方」としてチームを締めた小椋祥平はこう語っていた。

「カズは上手いし、点に絡むプレーもできる。攻撃のときはカズにほとんど自由にやってもらって、後ろのバランスは俺がケアすればいいかなと思ってやっていた」

 そして小椋は得点の場面を振り返り、ボールに絡んでいない選手の貢献を指摘する。

「ソネ(曽根田穣)が頑張って中に入っていました。あそこにソネが入るからGKもああいうボールに反応できなかった。みんながよく頑張ったと思います」

 佐藤の判断、思い切った動きは得点が生まれて「表の理由」だが、それを支えた小椋や曽根田の動きも見逃せない。そういう意味では間違いなく「チームの得点」だった。チームとしてコンパクトな形やバランスの維持ができていれば、チームとしてリズムが出るし、「思い切り」「アイディア」もより出しやすくなる。思い切りと慎重さは対立軸でなく、相乗効果を生む要素だ。

 J2は残り9試合。甲府は2位FC町田ゼルビアと勝ち点18差、6位大宮と勝ち点12差の13位に沈んでおり、昇格は率直に言って厳しい。ただし周りのチームの勝敗は気に病んでも仕方がないことだし、甲府は現在「42」の勝ち点を、自力で「69」まで伸ばせる。

 佐藤は「遅い1勝だったと思う」と口にした上で、今後の抱負をこう述べる。

「残り少ない試合を、全て勝ち切るくらいの気持ちでやりたい。勝ちにこだわるだけだと思っている。みんな昇格は諦めていないし、J1を目指してやっていきたい」

 どのカテゴリーにいようが、選手は試合がある限りベストを尽くさなければいけない。どの順位にいようが、チームは可能性がある限り上を追求しなければいけない。もちろん、望む結果がいつ出るのかは分からない。しかしチームの転機になるかもしれない、なってほしい、そんな大宮戦の内容だった。

取材・文=大島和人

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