仙台MF椎橋慧也 ©J.LEAGUE
この二カ月ほどで、椎橋慧也の髪の毛の色はだいぶ変わった。「当の本人はイメチェンです」と話してくれて以来、その評判がどうだったのかを含め多くを語らないが、黒から銀、茶と変わり、今は黒に戻っている。
別にそのことと同期しているわけではないが、椎橋がその間にプレーしたポジションもまた、それまでとは変わった。
主将も務めた市立船橋高校時代には、「いろいろ経験してきました。それが今にも生きています」と振り返ったように、椎橋は守備的ポジションを数多く務めてきたという。その中で本職と言えるのはボランチで、粘り強く体を寄せて相手に前を向かせずにボールを奪う。そして、素早く攻撃に切り替えて展開してきた。
椎橋はプロ生活を始めたベガルタ仙台では、その能力を最終ラインで発揮することが多かった。1年目はけがに悩まされたが、2年目は主に3バックの左で先発出場もつかみ、J1初ゴールも記録した。
今季も当初は前年同様の左DFが主戦場で、ルヴァンカップでは他の選手と組んでボランチでもプレー。そして髪の色が変わった頃、J1第24節・川崎フロンターレ戦では、3-5-2の2列目、インサイドハーフのポジションに入った。試合中にこの位置に移ったことはあったものの、先発からは初めてのこと。高い位置でのプレッシャーをかけるという守備的な用件が主だったが、実際の試合では「前を向いていいパスを出せた手応えもあった」と、彼のところでボールを落ち着ける役割も果たしていた。“新境地”のポジションで、できることを見つけ、身につけることができる。それもまた、椎橋の特長のひとつだ。
その後の練習や試合での椎橋は、3バックの左に戻ったと思えば、ボランチとして途中投入されてリードを守る“クローザー”の役割を担ったこともあった。そして再び先発したJ1第29節・浦和レッズ戦では、椎橋は中盤の底を一人で務める“アンカー”のポジションでキックオフの笛を聞くこととなった。今季のルヴァン杯で試合途中からここに移ったことはあったが、先発としては初めてのことだった。
同勝点(当時41)で並んだ浦和との激しい一戦で、仙台は準備してきた守備陣形がなかなかはまらず、攻撃においてもパスの行き先が塞がれて、もどかしい前半を過ごした。それは中盤の底から攻守をコントロールする役割を期待された椎橋も同じで「イメージと違って、全然(ボールを)奪えなかった。やりづらかった」と苦しんだ。味方からパスを受けても、その先のパスの出しどころをなかなか見つけられず攻撃を減速させることもあった。
しかしこれで終わらないのが、成長を続ける椎橋の強さである。ハーフタイムには「周りと話して、結果的に自分が後ろに下がったら、結構ボールも引き出せたし、守備でも狙いを定められました」と修正。チーム全体としても円滑なパスワークを可能にするポジションを取ることができた。
さらに後半の椎橋は、前半以上に意識していたことがあるという。「それはもう、意識していましたよ。『マジで(スペースを)閉じてください』『行け、もっと行け!』というような声を、終始出すようにしていました」と、積極的に熱い声をかけていた。プロ3年目の若手だが、椎橋の周囲を広く見たコーチングは場数を踏むごとに磨かれている。これはどのポジションで出場したとしても、彼ならではの武器だ。渡邉晋監督も椎橋には以前から、「リーダーシップをとって戦える選手。勝てなくて沈みがちな時でも、エネルギーやバイタリティーでチームを支えてほしい」と、期待を寄せている。
様々なポジションで、様々な役割で経験を重ねている椎橋。そのたびに成長を続け、仙台を支えている。
取材・文=板垣晴朗
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