元日本代表FW玉田圭司氏の監督就任から半年足らず。最速の日本一達成だった。
7月27日から福島県のJヴィレッジを中心に開催された令和6年度全国高等学校総合体育大会(通称インターハイ)の男子サッカー競技。8月3日に行われた決勝では、埼玉代表の昌平高校が鹿児島代表の神村学園高等部を3-2で撃破。夏の日本一に輝いた。優勝の瞬間、涙ぐむ顔も見せた玉田監督は監督として高校生の未来を預かる重責を感じながらの采配を終え、感慨深げに漏らした。
「動いていないのに、こんなにも疲れるもんなんだね」
玉田監督は1980年生まれの44歳。Jリーグでは柏レイソルや名古屋グランパス、セレッソ大阪、V・ファーレン長崎で活躍し、日本代表として2度のW杯に出場するなど選手として抜きん出た実績を持つ。2021年に現役を退いたあとは指導者としての活動を始め、昨年から昌平高校のコーチに就任。今年4月1日から監督となった。藤島崇之元監督、村松明人前監督の二人は習志野高校時代の同級生に辺り、他にも当時のメンバーがスタッフにいるのが昌平の指導体制である。その縁からのコーチ就任だった。
そして今年、監督に就任。昌平内の話し合いでも、コーチとしての仕事ぶりを含めて「玉田しかいない」という結論に至った。藤島元監督は「玉田の指導者としてのキャリアにとっても、昌平で『監督』を務めるのはプラスになると思っていた」と言う。選手時代の絶大な経験を選手たちに還元してもらいつつ、玉田氏は「監督」として勝負の世界で采配をふるう経験を積み上げる。そんな“ウィン・ウィン”の関係性を作れるという算段だった。藤島元監督は学校方面から、村松前監督はコーチとしてベンチに入っての参謀役として支え、高校サッカーの指揮官としての経験不足はフォローする体制だ。
「自分がずっとこだわっているのはテクニック。そこは変わらない」と語るように、技巧派FWとしての気質を指導者になっても保っている玉田監督だが、元より技巧派集団である昌平にもたらしたのは「気持ちの部分、球際、ゴールへの姿勢」だと言う。決勝を前にしたときも、選手たちには「決勝は気持ちの強いほうが勝つ。それは」と発破を掛けたと振り返る。
トレーニングについて、選手たちが口を揃えて言うのは二つある。一つは「ゴール前の練習が増えた」こと。決めるか守るかの勝敗が分かれる部分にフォーカスして切り取った練習が増え、もう一つは「フィジカル練習が増えた」こと。タフに戦う姿勢を強調し、そのための体作りを選手たちに求めてきた。
「サッカーも変わってきている。テクニックは大事だけれど、テクニックだけでは勝てない」(玉田監督)
サッカーの世界では、風間八宏監督から鬼木達監督への川崎フロンターレ、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督から森保一監督に代わったサンフレッチェ広島などがそうだったように、極端にこだわったスタイルから、やや針を振ってバランスに整えたときに二つの要素が“噛み合う”形でブレイクスルーが起きる場合がある。今大会の昌平は似たような形での絶妙なバランスを感じさせた。そこには玉田監督の現役時代から培ったセンスと、昨年コーチとして過ごす中で得た知見とそれに基づく決断があり、「全員で玉田を支える」ことでまとまっていた経験豊富なスタッフの存在があった。
今後に向けて玉田監督は「勝ったから大変になるんだよ」とニヤリと笑う。選手の未来を預かるプレシャーを感じながら「本当に自分がいまできる全力を尽くして」采配をふるう。指導者として、その幸せを感じている様子だった。
取材・文=川端暁彦
By 川端暁彦