知ってる?少年野球の「週末1/4ルール」 子どもの将来守りたい!医師が投じた一石に広がる賛同の輪

2024年10月3日 06時00分
<野球のミライ>
 少年野球界に広がりつつある「週末1/4(4分の1)ルール」をご存じだろうか。土日の練習はどちらか1日、しかも半日だけ。先駆けは野球未経験の医師が設立した「春日学園少年野球クラブ」(茨城県つくば市)だ。
 長時間練習が当たり前とされてきた指導のあり方に一石を投じる手法に、賛同が広がっている。(酒井翔平、写真も)

◆短時間だからこそキビキビ、自主練への意欲UP

 9月の土曜日、午前8時にグラウンドで小学1〜4年生の練習が始まった。酷暑対策で8月は練習を控えたこともあって、キャッチボールも打撃練習も、皆きびきびとした動き。暑さがピークになる前の午前11時には終了し、午後は5、6年生が練習した。

キャッチボールをする春日学園少年野球クラブの選手たち。この日の練習は約3時間。いつでも水分補給ができるように傍らには水筒が置かれていた=9月7日、茨城県かすみがうら市で

 成長過程の小学生に長時間練習をさせると故障のリスクが高まるため、クラブの練習時間は3〜4時間ほど。投手の球数制限など投げ過ぎ防止も徹底している。放射線診断専門医で同クラブ代表の岡本嘉一さん(52)は「目の前の勝利よりも子どもの将来の方が大事。大会決勝で大ピンチの場面でも、球数制限に達したら(投手を)代える」と言い切る。
 2013年の設立当初から導入している「週末1/4ルール」の狙いは故障防止の他にもある。「腹6分目にして、モチベーションを上げている。親子で自主練習をするのが一番伸びる」と岡本さん。この日も全体練習だけでは物足りなかったのか、何組かの親子がグラウンドに残ってキャッチボールしていた。

◆野球肘の子、資格や知識のない指導者の多さに驚き

 チームの目標は「可能な限り故障させることなく、上達して中学に送り出すこと」。岡本さんがその考えを貫くのは、行きすぎた勝利至上主義によって野球人生を断たれた子どもたちを目の当たりにしてきたからだ。

週末1/4ルールを導入した狙いを語る岡本嘉一代表=9月7日、茨城県かすみがうら市で

 チーム設立前、小学2年の長男に「野球をやりたい」と言われ、戸惑った。当時、岡本さんは筑波大付属病院に勤務。ボールの投げ過ぎなどで生じる肘関節の障害、いわゆる「野球肘」の小学生を数多く診てきた。中には中学では野球ができないほど重症化していた子も。「『えっ』と思うぐらいの頻度でいた。なぜこんなことになっているのだろう」と疑問を感じていた。
 学童野球の実態を知ろうと試合や練習に足を運ぶと、信じられない光景が広がっていた。土日は両日とも1日練習が当たり前。年間100試合にも上る試合日程に、連投もいとわない選手起用。体が出来上がっていない、配慮が必要な時期の子どもたちが、公認指導者資格や基本的な医学知識のない大人に酷使されていた。
 「とても息子を預けられなかった」と岡本さん。そこで「週末1/4ルール」に加え、「罵声指導の禁止」「父母会設立の禁止」を掲げてチームを設立した。勝利は全力で目指すが、あくまで選手の将来が最優先。野球経験がなかったからこそ、固定概念や価値観にとらわれないチームをつくれた。

◆前例ないチーム理念でも勝てる、使命感で証明

 とはいえ最初に集まった選手は10人。試合は大差で負け続け、初勝利まで2年半かかった。前例のないチーム理念もなかなか浸透せず、反発する保護者には繰り返し説いた。

安全対策として夏期は保護者による熱中症見守り当番を置いている。練習中にミストを吹きかけたり、体調不良を訴えた選手の保護者に連絡をしたりしている=9月7日、茨城県かすみがうら市で

 「やらなくてはいけないという使命感があった」
 野球好きな子どもたちを守り、学童野球界を変えるため、このやり方で勝てることを証明しなくてはならなかった。
 約3年前に県大会初出場を果たすと、その後も継続的に結果を残している。所属選手は60人を超え、県外から通う子もいる人気チームに成長した。全国から問い合わせが相次ぎ、同じ理念を掲げるチームも各地で誕生している。
 岡本さんは「つくば市では徐々に雰囲気が変わってきている。僕らのやり方を全国に浸透させたい」と熱を込める。子どもたちの未来を考えたチーム運営が、令和の学童野球のスタンダードになる日も近いかもしれない。
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