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「界隈の生ける伝説」こと吉田鋳造さんにコラムを寄稿いただきました。

2016年6月に放送された コミュサカチャンネル vol22 に、
スペシャルゲストとしてご出演いただいた際にも、
とても勉強になるお話をしていただきましたが、
2017年7月に10周年を迎えたFC岐阜のファンペーパー「岐大通」についてのお話を、
あらためて文章として残したいと打診したところご快諾いただきました。

「サポート」と一言で行っても様々な形がある。

継続すること、楽しむこと、10年続けるために大切にしてきたこととは。

これから何かを初めようと思っている方の参考になれば幸いです。
是非、ご一読ください。

コミュサカ@管理人

1.『岐大通』の場合は……(cf:新谷のり子「フランシーヌの場合」)

 これまで、いろいろなところで書いたり話したりしてるけど、整理も含めてもう一度。

 『岐大通』の誕生は2007年の夏。FC岐阜のJFL時代。当時の岐阜は「赤貧、芋を洗う」(cf:佐々木倫子「動物のお医者さん」)というくらいの貧乏クラブで、マッチデー・プログラム(以下「MDP」)も用意できなかった。全国リーグにいるJ志向クラブなのに、だ。で、状況打破のために「サポで何か出来ることはないか?」と、名古屋・金山の焼鳥屋に近隣勤務の岐阜サポ6人が集まってワヤワヤとやった時に、20年くらい前に同人誌の製作経験のある鋳造が「じゃあ、俺がやるわ~」と始めたものが『岐大通』だ。いま見返すと貧弱この上ない造りだけれど、これでも当時は必死だったのさ。ツールはエクセル、テキストボックスを組み合わせるという超手作り。いまは、イラストレーターCS6で作っている。

 まず、第1号からドラマチックな展開で。なにしろ、創刊直前に戸塚哲也監督(現:『湯麺戸塚』店主)が解任になってしまった。ぼくの周囲でもこの解任には賛否あって、「だったら意見を集めてしまえ」と第2号では解任の是非について投稿を募集した。結果は「解任は当然」「不本意だがやむなし」「解せぬ、クラブのフロントこそ辞任せよ」がほぼ3分の1ずつ。この時に『岐大通』のその後の発行方針は決まったと言っていい。

 「クラブとは距離を保つ」。クラブにNGを言える環境を維持すること。クラブのすることをすべて是とはしない。サポ主催のイベント(「岐阜駅から長良川まで行進しよう」「手製ゲーフラを持ち寄って試合前に掲げよう」など)の告知は載せるけれど、ネタがなくても「クラブ仕掛けのイベント」の告知は載せない。安定した発行のために『岐大通』もスポンサーを募って広告を掲載するけれど、スポンサー獲得の営業活動もクラブを頼らない。配布も、自分たちで、チケットチェックの外側で行う。実は、豪雨時に2~3回だけクラブに許可を得た上でチケットチェックの内側で配布したことがある。しかし、現在は天候に関わらず「配布はチェックの外側」で一貫している。もし『岐大通』の内容でトラブルが発生したら、チェックの内側だとそこは明確にクラブの管理区域なので「こんな内容が載っているのに、『内容は知らなかった』で済まされるか」となってクラブに迷惑がかかる可能性がある。外側なら、もし同様の問題が発生しても「管理区域外なので目が行き届きませんでした、指導を徹底します」で済む可能性がある。『岐大通』側としても、外側での配布なら「中身について校閲は受けていない。クラブの方針や考えとは独立している」という立場に立てる。

 このあたりの『岐大通』の基本姿勢は、創刊当初から変わらない。つまり、「クラブに迷惑をかけない範囲で、やりたいようにやる」の逆で、「やりたいようにやるために、クラブに迷惑をかけない」。いまでは大勢の岐阜サポの皆さんの支持をいただいているけれど、実は『岐大通』はそんなにお行儀のいい紙ではないのだ。2年前のラモス監督解任前後も、その方針で駆け抜けた。

 そんな『岐大通』の立場をクラブにも理解していただき、了解のもとに毎年のホームゲームで配布を行っている。配布はJリーグの試合のみ、天皇杯では岐阜開催でも配布しない。天皇杯は、了解を得る相手がクラブではなく県協会になるからだ。

 チケットチェック・ゲートの前では地元新聞社などのクラブ・スポンサーが入場者にグッズを配ることがあるけれど、これまでクラブ側から「この日は『岐大通』の配布をしないでほしい」と頼まれたことは一度もない。示唆的な例として、数年前だけどいつものように『岐大通』を配るぼくらとは別のグループの青年が、名古屋で行われるサッカー・イベントの告知チラシを配り始めたことがある。チャリティー的色彩のイベントだったと記憶しているけれど、配布を始めてしばらく経ったころにクラブ関係者がやってきた。「スポンサーからクレームが入った」とのことで、向こうのグループだけ配布差し止めになった。

 この時にわかったことが2つ。1つは、もし『岐大通』のことを知らずに新規にスポンサーになった企業から「あいつら(岐大通)は何だ」とクレームが入ったとしても、クラブが「彼らはFC岐阜がJリーグに上がる前からああしてサポートしてくれているんです」と護ってくれている可能性があること。そしてもう1つは、逆に「こっち(クラブ)はそっち(岐大通)の活動環境を用意しているんだから、他のグループが配り始めたら『クラブに話は通してる?』くらい言ってくださいな、忖度しろよ(苦笑)」という無言の依頼。うん、何事も経験だね。

 こうした、クラブとぼくらの信頼関係で『岐大通』の環境は成り立っている。そんなぼくらの活動は、クラブの外部からも評価されていて、ウチのスポンサーの一人は「『岐大通』は岐阜の宝だ」と言ってくださり、ラモス監督になって観客動員が大幅に伸び『岐大通』の発行がコスト増になったときも「好きなだけ出せ、カネはまかせろ」と言ってくださった。ありがたいことです。

 発行の実務的には、編集担当の鋳造が朝型人間だということが『岐大通』の円滑な発行の鍵になっている。ライターは夜型人間ばがりで、入稿が午前3時とか4時とかはザラ。編集担当も夜型だとここで1日のブランクが生じてしまうけれど、朝型なので入稿を受けて早朝から紙面づくりが出来る。つまり、こんなタイトな作業工程も可能なわけだ。というか、実際にやっているし(笑)。

水曜 夜7時からアウェー戦(参戦組が岐阜に戻るのは木曜早朝) → 
木曜 夜に現地参戦のライター陣が観戦記の執筆 →
金曜 午前5時に入稿締切/編集開始 → 
金曜 午前7時に校正版公開 → 
金曜 昼に校正班がチェック →
金曜 夜に校正終了/印刷用(アウトライン版)完成 →
金曜 深夜に印刷作業 →
土曜 午前10時半から『岐大通』配布(試合は午後1時から)

 FC岐阜がJリーグに加盟してからはクラブのMDPが出せるようになったけれど、GWにホーム連戦になった時には印刷屋の手配が出来ずに2試合とも同じMDPを配ったことがあった。でも、ぼくらは上記のような流れを確立させているので、2試合にちゃんとそれぞれの試合に対応した『岐大通』を発行できた。とくいとくいっ(笑)。

 いまでも毎試合、クラブに30部を渡しているし、かつては「サポーターはこんな風に思ってるぞ!」と選手・スタッフがわかるように壁貼り用の超拡大コピー版を渡してもいた。
 チケットチェック・ゲート前で配っているので、相手は大抵は一般の方なのだが、渡した相手でぼくが憶えているのは、岡田正義さん、植木繁晴さん、そして当時のFC岐阜社長・今西和男さん。受け取った今西さんがガチ読みしてて、こちらはもう、それはそれは座りションベンしそうだったわさ(笑)。


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2.「ゼロからファンペーパーを作ってやらうと、誰かがいうのだ。」(cf:高村光太郎『天文学の話』)

 まだ体力の乏しいクラブをサポートするために、「サポーターでMDPを作ろう、試合を盛り上げよう」と思っている皆さんは、ここまで読んで「こら、アカンわぁ~……」と思っただろうか?でもね、全然気にすることはないの。ぼくが「同人誌を作ったことがある」というのも、紙面の作り方を知っている程度。印刷担当だって、ぶっちゃけ「職場の大量コピー機を扱ったことがある」レベル。特殊な経験値がモノを言っているのはそれくらい、あとはみんな手探り。「社会人経験」の中で身についた部分ってのがほとんどだ。だから、みんなも安心して「挑戦」しよう。

 ファンペーパーの出し方、作り方は千差万別。正解があるわけではない。ここでは、「いま、鋳造がノンリーグのどこどこFCのサポに転生してMDP作りを始めるとしたら」というスタンスで書いてみる。

1. 同志を募る。
 これ、絶対に大事。独りでは闘えない。目をつけたヤツを呑ませて口説いて堕とす(危険っ)とか、さらに呑ませて潰して外泊証明書にサインさせる(cf:新谷かおる「エリア88」)とか(笑)。

2. 発行の目的を決める。
 メンドくさいかもしれないけど、そのMDPの『哲学』ともなる、大事な工程。『岐大通』は、「スタジアムに早く来てもらうため」としている。だから、配布は一般入場の開始前後に終わる程度しか刷らない。スタジアムに早く来てもらえれば、選手の練習も視てもらえるだろうし、グッズショップや屋台村で買い物をする機会も増えるから経済効果につながる。試合後すぐにPDF版を公開しないのも、「紙を受け取る」ことをインセンティブにするため。「一般のひとに長良川に来てもらうため」ではないので、試合前日に駅で配ったりとかはしない。もちろん、目的は発行を始めてから途中で変えてもいいんだけど、だからと言って目的を決めないで作ると確実に行き詰まる。

3. 主な対象者を決める。
 どの客層を狙うのか。「層が分かれるほどの客はいねーよ」という場合も多いだろうけど、「サポ」なのか「一般客」なのか、だけでも考え方が違ってくる。かつて、長崎のサポが作っていた『ナガサキスタンダード』には「嫌いなクラブ・ベスト3」とか載っててびっくりしたんだけど、当時の製作者(KLM藤原さん)に訊いたら「コアサポ向けに作っている」と言われて大いに納得した次第。『岐大通』とはターゲットが違うんだから、方向性が違って当たり前。

4. ロジスティックを決める。
 紙発行だろうとネット配信だろうと、完成物を届けるというゴールに違いはないわけで、「何を書く」「どう載せる」「どう(いつ)作る」「印刷所からどう運ぶ」「どう配る」「費用をどうする」という部分を、ヨーイドンの時はいいけれど発行前に洗っておかないと、途中でプロジェクトが崩壊する危険性が高くなる。

5. タイトルを決める。
 これは1~5のどこでもいい。スタッフのモチベーションを高めるために「最初にタイトルを決める」というのもアリ。ただ、そのタイトルが内容と乖離してしまう可能性もあるわけで。
 『岐大通』では、主な対象者を「メインスタンドに来る一般観客」としていてゴール裏は想定していない。だから、タイトルはポルトガル語やフランス語やイタリア語のお洒落感たっぷりのものではなく、日本語のベタなものにする、と決めていた。正式タイトルは「FC岐阜大好き通信」。これの漢字を摘み上げて「岐」「大」「通」で『岐大通』(ぎだいどおり)。で、1ページ目には大きく『岐大通』。このアイディアは、廃刊前のコンピュータ雑誌『ザ・ベーシック』から。みんなが親しみを込めて「ざべ」と呼ぶので、ついには発行側が表紙に「ざべ」と大きく載せるようになったのだ。そこからもらった。

6. クラブにナシを通す。
 この、1~5をザックリと決めておいてから、クラブに「……これ、やっていいかな?かなかな?」とおねだり目線で話をしに行く。

 大事なのは、『継続』の意識をもって計画すること。やろう!と思いついたときはアドレナリンもドーパミンも噴いてるから、なんだって出来る。問題は枯れた時。「仕組み」を作ってあるかが『継続』出来るか否かを決めると思うんだ。


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さいごに

 もう一つ、大事な話。サポートするクラブに体力がない場合、話を持っていくと「ファンペーパーとか言わずに、クラブのMDP作っちゃってよ(はあと)」と言われるかもしれない。そりゃあ、クラブから頼まれたらやる気も裏ドラ3枚載せだろうけど、ぼくはあまりお勧めしない。誰が製作しようが「クラブが出した」モノの責任はクラブに行く。トラブルが発生したら迷惑をかけるし、クラブとの関係が劣悪になる可能性がある。なんらかの事情で「この日は出せそうにない」ということも許されなくなるかもしれない。引き受けるなら、相応の覚悟で臨もう。

 で、最後に、やっぱり大事な話(笑)。すぐ上につながっていることだけど、一番大事なのは「ファンペーパーを作ることを楽しいと思う」こと。これに尽きる。使命感でやったら絶対に間違いなく途絶える。悪い部分を捨て、良い部分を育て、継続のサイクルを維持する。でも、ぼくらはこれを生活の糧にするわけじゃない。そのサイクルを維持するエネルギーをどこから得るか?といえば、「楽しい」しかない。その「楽しさ」は、承認欲求の満足による快感だって構わない。

 『岐大通』だって、毎年のように「来季はやめるかも」と思って、作っている。以前の宇都宮さんのインタビューでも答えたけど、『岐大通』を続けられる秘訣は、「いつでもやめられるから」。実際、創刊10年を経過してメンバーの高齢化も顕著になってきたし、『岐大通』は俺が引き継ぐぜ!という方は歓迎光臨でございますですことよ。



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著者
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吉田鋳造 @gzeppelin

紹介
 サッカー観戦歴24年。観戦試合数は1700、観戦ピッチ数は700に迫る。FC岐阜サポーターであり、JFL~地域リーグまで全国各地のアマチュアリーグ「ノンリーグ」を観戦。界隈の生ける伝説であり、管理人が尊敬する人物でもある。(コミュサカ@管理人)

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