モデルなき人口減少社会に向かって
私たちの生きている社会は、これから人口の自然減が続くものと予測されている。
もちろん戦争や自然災害、あるいは伝染病の猛威などによって、一時的に人口が減少した社会はあった。
しかし、継続的に自然減が続く時代というのは、世界史的にも未曾有の体験ではないだろうか。
人口減少社会とは、総人口が減少する社会であるが、それは、人口構成の劇的に変化していく社会である。
子供のころ、人口構成はピラミッド型になると教えられた。
年齢が上がるに従い、死亡する人が増えるのは当然だから、なるほどと思った。
しかし、出生数の劇的な変化によって、ピラミッドの形は既に大きく崩れている。
それが、これからさらに加速していくのである。
2005年の人口構成と2055年の予測とを対比してみよう。
労働力人口と非労働力人口の比率がドラスティックに変化することが瞭然である。
松谷明彦『「人口減少経済」の新しい公式 「縮む世界」の発想とシステム』日本経済新聞社(0405)は、人口減少社会へ、どういう対応が可能かを問うた書である。
奥付の著者紹介欄によれば、松谷氏の略歴は以下の通りである。
政策研究大学院大学教授。専門はマクロ経済学、社会基盤学、財政学。1945年生まれ、大阪市出身。東京大学経済学部経済学科・同経営学科卒業。大蔵省主計局主計官、大臣官房審議官などを歴任。1997年より現職。2004年東京大学より博士(工学)の学位取得
松谷氏は、2015年の大晦日の様子から筆を起こす。
「今年もまた企業の売上高は前年を下回った。そうした状況がもう何年も続いている。」
昨年の金融危機以来の不況感の強まりは、今年が「もう何年も続く年」の始まりとなることを示しているのであろうか。
経済成長率から経済縮小率へ。
しかし、松谷氏は、規模の縮小はあっても、「経営が悪化する企業はほとんどなく、景気の現状(2015年)を不況だと言う人もいない。」と続けている。
世界でも比類なき高齢社会を迎えた日本。
そういう時代に、まさに高齢者の仲間入りをするわけで、身を以て時代の変動を経験できることを幸せだと思えるように生きたい。
先の「東亜・太平洋戦争」の末期に生まれた私たちは、もちろん戦争そのものの記憶はない。
しかし、戦後の窮乏の時代を、幼心に刻み込んで育った。
戦後復興から、高度成長の時代へ。
そして、バブルとその崩壊。構造改革と市場主義。
その市場主義の限界が露呈している現在、それでは「大きな政府」を期待するべきだろうか?
松谷氏は、外国人労働力を活用しても、労働力人口の減少は避けられず、経済のボトルネックは、需要不足から供給不足へシフトする、とする。
つまり、日本経済の縮小は、どうあっても避けることはできないものなのだ、という認識を出発点とすべきだというのである。
そういう社会において、日本が引き続き豊かな社会であり続けるためには、なにをなすべきなのか?
結論として、松谷氏は、人口の減少高齢化が日本経済にもたらす問題には克服できない問題は1つもなく、逆に、「経済規模のわりには貧しい国民生活」から脱却するための好機なのだという。
小泉内閣以来、「構造改革なくして成長なし」ということが、一種の公理のように唱えられているが、成長を目指した構造改革は、間違いだということである。
成長のための条件が失われているのであり、「縮小」を前提として、豊かさを追求すべきなのだ、とする。
現下の日本経済は閉塞感に包まれているが、見方を変えれば明るい未来が見えてくるのかも知れない。
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