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2009年1月20日 (火)

張作霖爆殺事件と芥川龍之介の予感

歴史の距離感というのは不思議なものだと思う。
東大の安田講堂で、全国全共闘と機動隊とが衝突した40年前の出来事は、私にとっては同時代史である。
もちろん、その時代から「遙けくも来つるものかな」というような感懐はあるが、まあそう昔話という気がするわけではない。
しかし、さらにその40年前に起きた張作霖爆殺事件は、それこそ遙か昔の歴史的事象のように感じられる。
40年間という時間の長さは変わらないのだけど、自分がまだ産まれていない時から青春期までの40年間と、青春期から現在までの40年間では、心理的には著しい違いがある。

中村草田男が「降る雪や明治は遠くなりにけり」と詠んだのは、昭和6(1931)年のことだった(07年12月6日の項)。
大正の15年間を間に挟んでいるので、昭和6(1931)年と明治が終わった1912年の距離感と、現在と昭和が終わった1989年との距離感も似たようなものだと思う。
昭和は既にノスタルジーの対象である。

大正から昭和への改元は、12月25日という年の瀬だったから、昭和元年はほとんど無かったに等しい。
実質的な昭和の始まりは、昭和2年だったと考えていいだろう。おそらく、心理的にも昭和2年が昭和元年と感じられたのではないだろうか。
時間は連続していても、改元という事象は、否応なく時間の節目を感じさせるだろう。
昭和から平成へ改元のあった1989年も、振り返ってみれば歴史的節目の年だったように思う。
昭和元年と昭和64年が、共に7日間しかなかったのも、偶然ではあるけれど何となく因縁めいてはいる。

1989年の主な出来事を拾ってみる。
・1月7日   昭和天皇崩御。皇太子明仁親王即位。小渕恵三官房長官が、新元号「平成」を発表
・6月4日   天安門事件
・11月4日   オウム真理教による坂本弁護士一家殺害事件発生
・11月11日 ベルリンの壁崩壊
・12月3日   米ソ首脳によるマルタ階段で冷戦の終結を宣言
・12月29日 東証の日経平均株価が大納会で史上最高値(38,915円)を記録

もちろん、平成改元が天安門事件や冷戦の終結に影響しているとは思わないが、偶然にせよ1つの歴史的転換の年だったとは言えるだろう。
何となく世界中が騒然としていたし、国内もバブルの最後の火が燃え盛っていた。
平成という言葉とは裏腹に、平成元年は、浮き足だった年だったともいえるのではないだろうか。

今日の日経平均の終値は8,066円だったから、この20年間で31,000円近く下落している。
現在の水準は、最高値の20%程度である。
もちろん、株価だけで資産評価がなされるわけではないが、株式についてみれば、20年の間に資産価値が1/5になってしまったということだ。
「失われた10年」ということが言われていたが、既に「20年」が失われているとも言えるだろう。
麻生内閣の支持率が20%を割っている。
麻生太郎という人の問題もあるだろうが、「自民党をぶっ壊す」という小泉マジックによって自民党が延命したに過ぎないのではないか。
現状は、森内閣時代に戻ったということだと思う。森内閣で、自民党政権は歴史的使命を終えていたのだと思う。
現在多くの国民が感じている閉塞感は、森内閣時代から麻生内閣の現在まで、つまりは21世紀に入って、果たして何が変わったのか、という感覚によるものと言えないだろうか。

さて、実質的な昭和元年ともいうべき昭和2(1927)年はどのような時代だったか?
3月14日に、時の蔵相片岡直温が、「東京渡辺銀行が破綻」と失言して、昭和金融恐慌の発端となった。
3月24日には、蒋介石の国民革命軍が南京に入城する際に、諸外国の領事館を襲撃するという南京事件が起きる。
暗い世相だったであろうことは想像に難くない。

そんな中で、7月24日に、芥川龍之介が睡眠薬を多量に服用して自殺した。
遺書には「唯ぼんやりした不安」とあった。
芥川の不安は、翌年の張作霖爆殺事件を1つのきっかけとする軍部の独走時代となって現実化した。
カナリヤは危険な異物に敏感に反応するので、炭鉱に入るときに先導役を担わされたという。
オウム真理教のサティアンの捜査でもカナリヤが使われていた。
芥川の鋭い感受性は、時代の行方を感知するカナリヤの役割を果たしたのではないか、という気がする。

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