実質GDPの大幅減と文明史の転換
内閣府が、20日、1~3月期の国内総生産(GDP)速報値を発表した。
物価変動を除く実質値で、年換算で15.2%減となり、4四半期連続のマイナスとなった。
昨年10~12月期の12.7%減(09年2月17日の項)を超えて、戦後最大の減少率である。
確かに、景況感も戦後最悪だし(09年4月2日の項)、身の回りでも、景気のいい話は皆無だ。
グラフ(日本経済新聞09年5月20日夕刊)を見ても、「100年に1度」であるかどうかは別として、歴史的な減少率であることは間違いないように思われる。
2008年度のGDPは、実質3.5%減で、01年度7年ぶりのマイナスだった、ということであるが、果たして09年度はどういうことになるのであろうか?
昨年秋のリーマン・ショック以降の輸出の急減に、設備投資や個人消費の冷え込みが加わって、需要が総崩れといった状態である。
1~3月期は、在庫調整という面が大きかったようだ。
この在庫調整が順調に進んで、景気は下げ止まるのであろうか?
もちろん、景気は悪いよりもいい方がいいと考えるべきだろう。
しかし、である。
私たちは、もっと根源的なライフスタイルの変換を迫られているのではないだろうか?
確かに、LOHAS(Lifestyles Of Health And Sustainability)の意識が広まりつつある。
また政策的にも、グリーン・ニューディールということが主張されている(09年2月17日の項、4月23日の項)し、その一環として、太陽光発電の推進施策が具体化している(09年2月25日の項)。
瀬戸内海に面した水島臨海工業地帯の中核を占めるJFEスチールの西日本製鉄所倉敷地区第3高炉が、1月中旬に一時休止に入った。
再稼働のめどはまだたっていないという。
2月には、新日本製鉄の君津製作所の高炉1基を一時休止した。
大手4社の粗鋼生産量は、前年度から1000万トン以上減少しており、各社とも4割以上の大幅減産を余儀なくされている(産経新聞09年5月21日)。
もちろん、鉄鋼の大幅減産は、自動車など主要顧客の輸出不振のせいである。
加工貿易立国という国のビジネス・モデルをどう転換していくのか?
内需主導への転換がいわれて久しいが、実効性はなかなか出ていないように思われる。
西村吉雄『硅石器時代の技術と文明 』日本経済新聞社(8508)は、「硅石器」という言葉で、鮮やかな時代認識を示した著書だった。
西村さんは言う。
一九七○年代以後のエレクトロニクスを特徴づけるのはIC(集積回路integrated circuit)、LSI(大規模集積回路Large-scale integrated circuit)と光ファイバーである。どちらも硅素(シリコン、元素記号はSi)を主成分としている。硅素は地球にはありふれた材料だ。地球構成元素では酸素に次いで多い。土とか、石とか、焼物・ガラスなどにはだいたい硅素が入っている。LSIの形状も石といえば石である。約5ミリ角、厚さ0.5ミリくらいの小さな石ころだ。技術屋なかまの俗語であ、実際、ICとかLSIをよく「石」と呼んでいる。材料は硅素そのもの。光ファイバーの方はガラスである。髪の毛ほどの細いガラス線だ。材料は石英が多い。石英の成分は水晶と同じで、二酸化硅素(化学記号はSiO2)である。
LSIと光ファイバーはこれからの情報化社会を支える基本的なハードウェアだ。一方は情報を処理し、他方は情報を伝える。硅素でできた石やガラスがますます世にはびこるというわけだ。ここはひとつ硅石器時代と呼んでやろう。
そして、硅石器時代の到来を示すものとして、シリコン供給量、鉄鋼生産量、エネルギー供給量の年次推移を示すグラフを提示した。
マクロに見れば、1970年代前半で、鉄鋼の生産量もエネルギーの消費量もほぼ飽和に達したのである。
それに比べて、シリコンの供給量が急増している。
まさに文明史的な転換の姿を示す図ではないだろうか。
この転換の始まりから既に30年余が過ぎている。
私たちの国は、この間に、どのような構想力を持ち得たのか?
些末なことの重要性を否定するものではないが、政権争いは、国のあり方に関する構想力で勝負して欲しいと思う。
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