平岡正明さんを悼む/追悼(7)
7月9日、評論家の平岡正明さんが亡くなった。
68歳だった。
長寿化が進む中で、一般論としていえば、早い死だということになるだろう。
しかし、処女作の『韃靼人宣言』現代思潮社の出版が1964年だから、それから数えれば45年ということになる。
その間に100冊以上の著書を書いているのだから、評論家人生としては、決して短いということではないのかも知れない。
早稲田大学露文科中退。
つまり、五木寛之さんと同じ学歴ということになる。
60年安保には、ブントの活動家として参加。
Wikipedia(09年7月10日最終更新)によれば、大学中退後の略歴は以下のようである。
ブントから脱退して宮原安春らと政治結社犯罪者同盟を結成。1963年、同盟機関誌の単行本『赤い風船あるいは牝狼の夜』を刊行したところ、同書に収録した吉岡康弘撮影の無修正ヌード写真が問題となり、猥褻図画頒布の容疑で警視庁から指名手配を受けたが、不起訴となる。なお、この書籍に赤瀬川原平の「千円札を写真撮影した作品」が掲載されていたことから、「千円札裁判」が起きるきっかけになった。
1964年、現代思潮社から『韃靼人宣言』を刊行して評論家デビュー。1967年の著書『ジャズ宣言』からジャズ評論の分野にも進出。1969年、渋澤龍彦の後任者として天声出版刊『血と薔薇』第4号を編集。
また、谷川雁・吉本隆明の「自立学校」事務局、谷川雁のラボ教育センターなどを転々とする。一方、「犯罪者同盟」以来のアナーキーな行動や著作で、新左翼系文化のカリスマ的存在となる。
1970年には、松田政男、足立正生、佐々木守、相倉久人と「批評戦線」を結成し、雑誌『第二次・映画批評』を創刊した。
また、1970年代に入ると「水滸伝」をヒントにして、太田竜、竹中労らと窮民革命論を唱え、“新左翼三バカトリオ”と呼ばれたこともある。
私も平岡さんの著書のうち何冊かは買い求めているはずであるが、整理が下手なせいもあって、手許には、『石原莞爾試論』白川書院(7705)しかない。
36歳のときの著書であるが、この頃の平岡さんは、その過激な発言によって、重信房子などのアラブ赤軍と連続ビル爆破事件の東アジア半日武装戦線の仲介者と目されたこともあったらしい。
上掲書の「あとがき」にそういうことが書いてある。
平岡さんと石原莞爾とは、かなり異質の組み合わせという感じである。
かたや左翼過激派、かたや右翼過激派(?)である。
しかし、往々にして、左翼と右翼はメダルの裏表のような関係だったりする。
平岡流の規定によれば、石原莞爾は、日本近代史上稀な「武装せる右翼革命家」ということになる。
平岡さんは、学生時代から、「革命」が関心の中心に位置していた。
そういう観点からすれば、石原莞爾は大いなる関心の的だったのだろう。
平岡さんの作風について、Wikipediaでは以下のように評されている。
ただし、評論自体が「ジャズ的なノリ」で書かれることが多く、あまり論理的な文章ではない。平岡の感性でとらえた、「辺境的なもの、マイナーなもの」を、ことさらに称揚しているだけとも受け取れる。
確かに、論理による批評というよりも、連想の赴くままにアドリブで軽快なリズムを刻んでいく、といった感じの文章である。
私は、たまたまの中国訪問(09年6月5日:天安門の“AFTER TWENTY YEARS”)後、にわかに付け焼刃的な中国学習の徒になった。
しかし、ウイグルでの衝突などについて、自分の見解といえるようなものを持てるまでには至っていない。
中国は、古代においても近代においても、日本史にとって大きな存在である。
私たちの世代にとっては、石原莞爾のイメージは、満州事変の立役者ということだろう。
それは、ネガティブなイメージが強いが、しかし、世の中には石原讃歌とでもいうべき著書も少なくない。
石原莞爾をどう評価するかは、日本近代史の認識を分光するプリズムなのかも知れない。
平岡さんの著書の中に、『中国 水滸伝・任侠の夢』日本放送出版協会(9604)がある。
『水滸伝』は、子どもの頃、もちろん子供向けに翻案したものであるが、こんなに面白い本があるのか、と繰り返し読んだ記憶がある。
平岡さんは、窮民革命論などをみても、『水滸伝』にはかなりの思い入れがあったことが窺われる。
平岡さんの訃報を聞いて、すっかり忘却の彼方になってしまっていた『水滸伝』をもう一度読み返してみたくなった。
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