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2009年9月 3日 (木)

「空気」が「風」に変わるメカニズム

山本七平氏は、『「空気」の研究 』文春文庫(8310)において、次のように述べている。

一体、以上記した「空気」とは何であろうか。それは非常に強固でほぼ絶対的な支配力を持つ「判断の基準」であり、それに抵抗する者を異端として、「抗空気罪」で社会的に葬るほどの力をもつ超能力であることは明らかである。
……
いわば議論における論者の論理の内容よりも、議論における言葉の交換それ自体が一種の「空気」を醸成して、最終的には「空気」が決断の基準となるという形をとっている場合が多いからである。
では一体この「空気」は、どのように醸成され、どのように作用し、作用が終わればどのようにして跡形もなく消えてしまうのであろう。
これを探究する一つの手掛りは、だれかが、何らかの意図のもとに、ある種の「空気」を意識的に醸成した場合である。言いかえれば、議論が議論そのものよりも、明らかに、議論によるある種の「空気」の醸成を狙っている場合である。通常「空気」は、このような人工的操作によって作られるものでなく、言葉の交換によって、無意識のうちに、不作為に、いわば自然発生的に醸成されるから「空気」なのだが、それはある種の意図を秘めた作為的な「人工空気」の醸成が不可能だということではない。

つまり、「空気」は、通常は自然発生的に醸成されるが、人工的に醸成することも不可能ではない、ということである。
私は、前回総選挙における「郵政民営化」あるいは「構造改革」という言葉は、まさに人工的に醸成された「空気」だったと考える。
竹中平蔵氏などの市場原理主義者、グローバリストたちが、意図的に狙っていた「空気」が、小泉純一郎氏などのキャスティングを得て、見事に醸成されたのではなかったか。

それでは、今回の総選挙のキーワードとなった「政権交代」は、果たして人工的な空気だったのか、自然発生的な空気だったのか?
私は、郵政民営化総選挙で得た議席を最大限に利用して、内閣をタライ回しにしてきた自公連立政権が、空気が読めず、漢字も読めない麻生首相というキャスティングを得て、自ずから政権交代への期待・願望が高まってきたのではないかと思う。
つまり、多分に自然発生的で、中川昭一氏の朦朧記者会見などが、それを加速したのだろう。

ところで、醸成された「空気」が、強い「風」として作用するのはどうしてだろうか?
私は、情報化の進展、とりわけネット化の影響が大きいのではないかと思う。
人は、環境からの刺激を情報として判断する。
その環境からの情報的な刺激に接する頻度が格段に高まってきていることは事実だろう。

人は、情報を資源としてインプットし、判断をアウトプットとして生産する。
3 環境にアウトプットされた情報は、当然判断の基準として利用されることになる。
つまり、図のような一種のフィードバック・ループが形成されるわけである。
このフィードバック・ループは、ポジティブに作用するだろう。
つまり、一方向に傾いた情報は、その方向にさらに傾斜し易くなる。
それが、「風」ということではないのか。

フィードバック・ループの網の目が細かく多様になることが情報化の進展であるから、情報化は、世論を一方向に誘導し易くなる、ということができる。
前回の郵政民営化総選挙における自民党の圧勝、今回の総選挙における民主党の圧勝は、そうした情報化の進展の帰結ではないかと思う。

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