「プロセス」と「結果」の関係/花づな列島復興のためのメモ(187)
柔道界が大荒れである。
アテネ、北京の両オリンピックで金メダルを獲得した内柴正人被告が準強姦罪に問われている事件で、懲役5年の実刑判決が下った。
内柴被告は控訴する意向らしいが、全日本柔道連盟は会員資格を永久停止(=除名)にするという。
酒に酔っていた女子学生に乱暴を働いたという容疑である。
争点は、合意があったか否かということらしいが、問題にすべきは合意の有無ではないだろう。
指導する立場の人間が、泥酔させるような酒を飲ませること自体、指導する資格がなかったことを証明している。
量刑の程度はともかく、実刑は当然であると思う。
一方で、柔道女子日本代表の園田隆二監督が、暴力行為とパワーハラスメントを告発されている。
当初、全柔連は留任させる意向だったが、報道が大きくなり、結局本人からの進退伺いを受理して辞任となった。
こちらは、スポーツにおける指導のあり方における暴力性をどう考えるか、という問題である。
学校の部活動における体罰問題と同様であるが、暴力性といえば聞こえが悪いが、身を以て示したともいえる。
しかし、園田監督の処遇に関する全柔連の判断は頂けなかったと言わざるを得ない。
問題の認識が浅すぎるというか、事態を甘く見過ぎていたのだろう。
しばらくほとぼりが冷めるの待っていれば、問題は収束するだろう・・・、という態度がミエミエである。
連盟は認識した時点で、自ら調査して判断すべきだった。
これでは仲間意識、隠蔽体質と言われても仕方がない。
私は高校時代に、部活動として空手部に在籍していた。
国学院大学出身の外部の指導者だったが、体罰とは無縁であった。
空手部の部活において、よく耳にしたのは「空手道」という言葉であった。
「空手道」という言葉は、多分に「柔道」の影響を受けていたであろう。
「柔道」という言葉は、講道館の創始者・嘉納治五郎による。
「道」には、自己の修養とか人間形成といったことが含意されている。
Wikipediaでは次のように説明している。
武芸 (日本) - 日本における価値観。哲学とも言われ、一つの物事を通じて生き様や真理の追究を体現することや自己の精神の修練を行う事。「残心」に代表される日本独特の所作や価値観を内包する。
・武道 - 剣道・柔道・弓道・空手道など
・芸道 - 茶道・華道・書道・日本舞踊など
・その他 - 近年、近代では武芸に含まれない物事などにも道を付けて表現する事がある。
このような観点からすれば、園田氏の指導法自体問題であると思うが、全柔連の対応を見れば、柔道界全体を覆う体質が問われているといえよう。
もとろん、柔道だけでなくスポーツや教育にも当てはまる問題である。
より一般化して言えば、「プロセス」か「結果」か、ということになる。
園田氏には、オリンピックの成績がプレッシャーとして作用して、ああいう指導になったようである。
金メダル至上という結果主義である。
日本のお家芸といわれているプレッシャーは分からないでもないが、余りにも嘉納治五郎の理念とは乖離している。
『「キレ」の思考 「コク」の思考』東洋経済新報社(1211)の著者村山昇氏に、『プロセスにこそ価値がある (メディアファクトリー新書)』(1206)という著書がある。
村山氏は「結果を出す」がプレッシャーとなる様を下図のように表現している。
自分の能力と時間をどう使うか(=プロセス)を考える余裕がない状態である。
一方、自分のやることの意味を的確に掴んでいれば下図のようになる。
目的がモチベーション・やる気となって作用している。
ある小学校に下図のようなポスター(?)が貼ってあるそうである。
毎日の積み重ねの大きさを教えようとしているのであろう。
今どきの小学生は、べき乗の概念まで勉強するのか、と思うが、365回掛け算を繰り返す計算自体は小学生でも理解できることかも知れない。
しかし、現実には、飽和という現象もあるし、プラトーと呼ばれる一時的な停滞期もある。
計算通りには行かないのが現実である。
指導者の役割は、計算と現実の差異や足踏み状態にあるとき、それが最終的な飽和なのかプラトーなのかを見極め、被指導者の特性をうまく引き出すことではないだろうか?
結果は大事である。
しかし結果だけを求めても、押しつぶされることになる。
結果を生み出すのはプロセスせあるから、プロセスの充実こそ力点を置くべきであろう。
プロセスにおいて暴力・暴言などの威力で指導することは、指導力の欠如を表していると考えられる。
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コメント
日本のお家芸なのに困ったものです。
柔道界に激震が走っていますよね。
投稿: starfield | 2013年2月 4日 (月) 20時18分