哲学は言葉だ・中村雄二郎/追悼(111)
哲学者の中村雄二郎さんが、8月26日、老衰のため死去した。
91歳だった。
中村さんは1952年に東京大学大学院を修了。
明治大法学部専任講師を経て専任教授を務め、1996年に退職後、名誉教授となった。
旧制高校まで理系だったが、敗戦の衝撃から哲学を志望した。一九五〇年に東京大哲学科卒。文化放送勤務を経て、哲学に専念。「現代情念論」「感性の覚醒」などで、近代合理主義を内側から乗り越える独自の思索を進めた。
ミシェル・フーコーら同時代の西洋哲学を参照しながら構造主義やポストモダニズムの最先端の知を論じた。同時に、二十世紀前半の哲学者、西田幾多郎(きたろう)に新たな光を当てた。また「共通感覚論」で知の組み替えを提唱。「魔女ランダ考」などでは演劇、パフォーマンスを巡る斬新な議論を展開した。
他の著書に「哲学の現在」やベストセラー「術語集」など。
中村雄二郎さん死去 91歳 哲学者「魔女ランダ考」
私は単行本は岩波新書の『術語集』しか読んでいないが、「哲学=考えること」とすれば、哲学にとって言葉は本質的である。
人類史を俯瞰したユヴァリ・ノア・ハラリ『サピエンス全史-文明の構造と人類の幸福』河出書房新社((2016年9月)が評判である。
同書によれば、約7万年前の「認知革命」が今日の人類を造り出す出発点だった。
認知革命によって、ヒトはリアルと同じように虚構の世界を生きるようになった。
⇒2017年8月 9日 (水):『母と暮らせば』と『シン・ゴジラ』/戦後史断章(27)
「現実や世界を読み解いていくためのキー・ワード=術語。現在の〈知の組みかえ〉の時代にあって、著者は、記号、コスモロジー、パラダイム等、さまざまな知の領域で使われている代表的な四〇の術語と関連語について、概念の明晰化を試みながらそれを表現の場で生かそうとする。現代思想の本質が把握できる、〈気になることば〉の私家版辞典。」(「BOOK」データベースより)は哲学者の本領といえよう。
代表的な四〇の術語とは、「アイデンティティ」「遊び」「エントロピー」「仮面」「狂気」「差異」「身体」「分裂病」「身体」etc.である。
九鬼周造『「いきの構造」』に比べると、一語の分量が少ない分だけ、読みやすい。
⇒2013年1月27日 (日):『「いき」の構造』に学ぶ概念規定の方法/知的生産の方法(33)
認知することは、概念の獲得である。
言葉に拘ることは哲学の王道と言えよう。
哲学なき政治家が横行している世相を嘆きつつ旅立ったのであろうか。
合掌。
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