暗号革命と素数(3)RSA暗号/知的生産の方法(165)
暗号の要諦は、次のように言える。
1.暗号文は解読ルールを知らない人間には、分かりにくい程良い。(保秘)
2.暗号文による伝達は確実に伝わる程良い。(伝達性)
⇒2017年7月12日 (水): 暗号革命と素数(1)暗号化の基礎/知的生産の方法(161)
この2つの要件は、基本的に両立が難しい。
保秘は分かりにくさを旨とし、伝達性は分かり易さを旨としているからである。
この両立が、素因数分解を応用することで可能になった。
現在のところ大きな数を素因数分解できる効率的な方法は見つかっていない。
2つの素数 P と Qを掛けて P×Qを求めることは簡単にできるが、逆に掛けた結果の P×Q から P と Qを効率的に求めることは極めて難しい。
⇒2017年8月26日 (土):暗号革命と素数(2)大きな数の素因数分解/知的生産の方法(162)
科学雑誌「Newton]2013年4月号の『素数のふしぎ』という特集に、インターネット時代の暗号方式である「RSA暗号」の簡潔な紹介があった。
RSA方式では、公開鍵をウェブサイトの利用者に送り、利用者はこの鍵を使った計算で暗号化を行い、ウェブサイトに送る。
RSA暗号では、ウェブサイトの公開鍵がインターネット上で公開されており、その公開鍵で暗号化している。
素因数分解という昔教わったことがある誰でも知っている方法であるが、「巨大な数の約数を発見すこととが非常に難しい」という事実によって、取引の安全性が担保されているのだ。
素数の世界は不思議が一杯である。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 藤井太洋『東京の子』/私撰アンソロジー(56)(2019.04.07)
- 内閣の番犬・横畠内閣法制局長官/人間の理解(24)(2019.03.13)
- 日本文学への深い愛・ドナルドキーン/追悼(138)(2019.02.24)
- 秀才かつクリエイティブ・堺屋太一/追悼(137)(2019.02.11)
- 自然と命の画家・堀文子/追悼(136)(2019.02.09)
「思考技術」カテゴリの記事
- 際立つNHKの阿諛追従/安部政権の命運(93)(2019.03.16)
- 安倍トモ百田尚樹の『日本国紀』/安部政権の命運(95)(2019.03.18)
- 平成史の汚点としての森友事件/安部政権の命運(92)(2019.03.15)
- 横畠内閣法制局長官の不遜/安部政権の命運(91)(2019.03.12)
- 安倍首相の「法の支配」認識/安部政権の命運(89)(2019.03.10)
「知的生産の方法」カテゴリの記事
- 『日日是好日と「分かる」ということ/知的生産の方法(182)(2019.01.02)
- 祝・本庶佑京大特別教授ノーベル賞受賞/知的生産の方法(180)(2018.10.02)
- この問題は、本当の問題です/知的生産の方法(179)(2018.09.13)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
お久しぶりで御座います。Yasで御座います。
RSA暗号については20年近く前、仕事に関わる事でかなり深く調べたのですが、その時に思いついたのが、大きな素数を2つだけ使うのではなく、大きな素数をn個使って、そのうちの任意の2つを暗号化に使う、という方法でありました。こうしますと通常のRSAに加えて、n(n-1)/2通りの組み合わせが作れますので、暗号強度は飛躍的に高くなります。どの2つの素数を利用するかという情報はいわゆる「3pass認証方式」でやり取りすればOKなのですが、当時想定されていたCPUが非常にプアなものだったので、泣く泣く暗号強度のそれほど高くない、DES方式と3pass認証方式を併用する方式としたのでありました。
ノイマン型のコンピュータで大きな素数を見つけるには、級数的な時間が必要となりますけれども、理論的に量子コンピューティングが実現すれば、想定外の短時間で発見する事が出来る筈。量子コンピュータの実現はまだまだ先でしょうが、実現されるや否や現在のセキュア通信(たとえばhttps通信やIP-SEC通信)の安全性は根底から崩れてしまう訳で、今のうちに新しい方法を開発しておく必要がありましょう。
元々ソフトウエア畑出身という事もあり、ハードウエアの発達に対しては、ソフトウエア的な工夫で対応したいとどうしても考えてしまいます。
現時点で量子コンピュータの開発競争は中国が一歩先行していると聞きます。ま、これさえ出来あがれば、ほとんどの暗号通信を丸裸に出来る訳で、情報統制をお得意とする中国政府としては一番に欲しいテクノロジなのかも知れません。
それにしても「掛ける鍵」と「外す鍵」を別にするというRSA暗号の根幹のアイデア「非対称鍵の概念」を考えついたジェイムズ・エリスという人は、めちゃくちゃ頭の良い人だったのでしょうねぇ。憧れてしまいます。
投稿: Yas | 2017年11月 3日 (金) 19時03分
Yas様
お久しぶりです。
暗号の世界はまさに脳力の競争のですね。何年か前にチューリングを主人公にした『イミテーションゲーム』という映画を観ましたが、彼も天才という以外にないような頭の良い人だったんでしょう。しかしその頭の良さが、必ずしも幸福を導かなかったことを考えると、「まあ凡才でも良しとするか」と自分を慰めています。
ムーアの法則が限界に近づきつつあると言われますが、設計思想の更新は限界がないでしょう。地頭の良さの代名詞になっているフェルミの名を冠した「フェルミのパラドックス:宇宙年齢の長さと宇宙にある膨大な恒星の数から、地球のような惑星が恒星系の中で典型的に形成されるならば、宇宙人は宇宙に広く存在しており、そのうちの数種は地球に到達しているべきだが、その形跡がない」の一つの解釈として、「原子力を解放するレベルに達した知的生命体は、それによって自滅するのではないか」というものがあります。意外な「成長の限界」かも知れない、などと妄想しています。故に、現時点の原発には反対です。
ではまた。
投稿: 夢幻亭 | 2017年11月 3日 (金) 21時55分