西田宗千佳のRandomTracking

第470回

「復活の福山雅治」は本気のしるし、“大きすぎない”48型有機EL、当事者語る「今年のレグザ」

今年も例年通り、夏の商戦機を前にレグザ(REGZA)のラインナップが発表された。今年は本来ならばオリンピックイヤーで、「オリンピック需要」があるはずだったが、それは無くなった。一方、巣ごもり需要や定額給付金の影響など、別のプラス要因もある。

製品についても、今年は昨年以上に大きな変化がある。ハイエンドモデルでOLED(有機EL)を軸にする戦略は昨年に引き続き進んでいるが、サイズに対する考え方も変わり、また、液晶も「大型化」がさらに進んだ。新たに前代未聞の「クラウドAI高画質テクノロジー」を導入、スピーカーの改善も進んだ。

なにより今年は、レグザのCMキャラクターに、あの福山雅治さんが帰ってくる。「レグザといえば福山」のイメージが強かったが、久々にこのタッグが帰ってきた。「復活の福山雅治」は、東芝・レグザが今期に賭ける意気込みの象徴だ。

その意気込みを支える市場的な背景、そして技術・商品企画面での背景について、それぞれの担当に聞いた。

お話を伺ったのは、東芝映像ソリューション株式会社・取締役副社長 マーケティング本部長/営業本部長の中牟田寿嗣氏、同・営業本部 マーケティング部ブランド統括マネージャーの本村裕史氏、東芝デベロップメントエンジニアリング エッジ&エンベデッドソリューショングループ TV映像マイスタの住吉肇氏、同音声マイスタの桑原光孝氏だ。

東芝映像ソリューション取締役副社長 マーケティング本部長/営業本部長の中牟田寿嗣氏

テレビは「巣ごもり需要のヒーロー」だった

まずマーケティング・営業面から行こう。

今のテレビ市場はどういう状況にあるのだろうか? 前述のように、「オリンピック延期」というマイナスの側面と「巣ごもり」というプラスの側面が同時にある今は、テレビにとってどういう時期なのだろうか? 中牟田氏は「好調で攻めの時期」とはっきり答える。

中牟田氏(以下敬称略):去年の段階では、「2020年はオリンピックの年。今年勝負しなくてどうするんだ」くらいの意気込みでいました。

ところが、1月になって急に新型コロナウィルスの影響が出てきた。デバイスメーカー側で品薄が起きるであろう、という話が出ましたし、今も船便の需要が逼迫している、という問題があります。日本は「外に出るな」という自粛状況になり、店頭で売れなくなるのでは」と心配もし、販売計画を下げるプランも検討しました。

しかしですね、実際には、この4月・5月のデータを見ると、テレビは売れています。前年比で2桁成長です。

いわゆる「巣ごもり需要」の中では、売れている製品と厳しい製品がはっきり分かれました。PCやWebミーティング機器が売れたのはわかりやすいところですが、家庭内での料理需要が増えたので電子レンジも売れていますし、家にいる時間が長くなったため、エアコンについても例年の商戦機に比べると1カ月前倒しで売れ始めています。

その中でも、巣ごもり需要の“ヒーロー”はテレビです。家にいる時間が長くなっているからなのですが。

巣ごもりでテレビの需要が増えた、というのはわかりやすい話だ。だが、そこには色々と特徴があり、過去の「テレビが売れた」時期とは違う部分もあるようだ。

中牟田:顕著に伸びているのは、安価な2Kのテレビではあります。一方で、20代のテレビ購入が顕著に増えているという特徴もあるんです。普段なら外に遊びに出ていたような世代が、家でテレビを見るようになりました。

同様に、子供部屋でのテレビ需要が復活してきています。ご存知の通り、ここ10年の間、リビングのテレビは需要が堅調であるものの、子供部屋を中心とした個室のテレビは需要が厳しい状況にありましたが、そこが変わってきています。

ポイントは「ネット動画」です。ネットの動画配信も見れる、ということが広がって、売れるようになってきました。

これまで我々はずっと、「テレビは放送だけのものではありません、ネットも見られます」という話をしてきて、販売の現場でもご協力いただき、一緒に「放送とネット、両方が見れます」ということをアピールしてきたつもりではありました。しかし、今回のコロナの影響で、それが一気に進んだ。この時期を逃さずビジネスをしていきたいです。

地方と都市部で変わるテレビの需要

映像配信の利用拡大や巣ごもりの他にもうひとつ、テレビの販売好調を後押ししているものがある。それは、「そろそろ地デジ移行から10年が経過している家庭」が多い、ということだ。一般的に、家庭のテレビは8年から10年で入れ替わっていく。本誌読者のみなさんに詳しい説明は不要だと思うが、この10年でテレビは大幅に性能が向上し、画質・音質面で劇的な進歩を遂げ、大型化も進んだ。平たくいえば、コストパフォーマンスが劇的に上がったのだ。これは販売に大きな影響を与えている。

中牟田:10年前のハイビジョンテレビはそろそろ買い替え時期です。そのころの売れ筋といえば32型くらい。ここに「巣ごもり」があり、ネット配信の盛り上がりがあり、「そろそろ買おうかな」というタイミングと考えている人が多いようです。

そこでポイントとなるのは「サイズ」だ。

中牟田:去年、55型がずいぶん普通の存在になってきました。さらに65型もが売れるようになっています。お客様にとっては有機ELであろうが液晶であろうが、55型が“普通“、非常に需要が強いモデルになっています。そして、65型を中心に大画面、高画質のものを。そして一人暮らしの市場に、ということで、今回48型の有機ELを用意しました。

4K有機ELレグザ「X8400シリーズ」。左から55型「55X8400」、そして右が48型「48X8400」だ

ここでもう1つ重要なことがある。そうした施策を「日本全国一律に考えるべきではない」という点だ。

中牟田:48型の有機ELである「X8400シリーズ」は、都市型で最先端の製品です。一方で現在の売れ方は、「都市型」と「地方型」ではっきり違います。

思えばその昔、日本全国に家電量販店が広がり終えた頃には、「日本の市場は均質になり、もはやエリアマーケティングは存在しない」という言い方もしました。

しかし今は違います。都市でも、1人が「2つの姿」を演じ分けています。昼間は電車で移動するので駅の近くの家電量販店に行き、土日は車でロードサイドの量販店に行きます。それぞれの量販店はもはや違う存在であり、それらをみなさんが使い分けるようになっています。また、東京と東北や北海道、九州では売れるものが違っている。エリアによってライフスタイルが違ってきているので、そこを掘りたいんです。

例えば、地方でも都市部でも、売れる製品は20万円くらいのものが多くなっています。その場合、地方では住宅の中のスペースに余裕がありますから、同じ予算でよりサイズの大きいものが売れます。一方で、都市部では制約が大きいので、大きなものは置きづらい。しかし、その分高画質なものを求めるんです。

これは具体的にどういうことを指しているのか? レグザの場合には「液晶とOLEDの棲み分け」になる。液晶を使ったラインナップである「Z740Xシリーズ」と「M540Xシリーズ」は、20万円前後でも65型が視野に入ってくる。一方で、OLEDである「X8400シリーズ」はサイズが小さくなり、48型が20万円を超えるラインになってくる。価格という絶対的なラインがあるとして、そこに「都市型」と「地方型」という価値観の差を加味すると、ラインナップがうまく噛み合う構造になっているわけだ。

4K液晶レグザ・M540Xシリーズに追加された最大サイズの75型「75M540X」

福山雅治と契約できなければ、今年のレグザはCMなしだった?!

東芝は、2020年の日本国内でのテレビ販売台数を560万台前後と見積もっている、という。これは劇的に増えたわけではないが、堅調な数字だ。だが、なにより傾向として見えていて、確信を持っていることがある。

中牟田:600万台・700万台に、一気に伸びることはないでしょう。しかし、数が(560万台から)減ることもない。さらに、2021年にオリンピックが予定通り開催されるなら、より「下がることはない」といえます。

この時期を、我々も重要なものと見ています。

正直なお話をすれば、この2年間は、自社の事情ではありますが、販売的に厳しいところがありました。「トップ4社」の中にいたものが、「3社+1」になり、弊社が出遅れた部分があります。しかし、昨年後半・今年から復活し、「3+1」から「4」の体制に戻り、さらには「3位」も狙えるところまで来ました。

「東芝のレグザ」の復調を象徴するのが、CMキャラクターとしての福山雅治さんの「復活」だ。

中牟田:私は内部で「福山さんを再起用できないなら、CMはしない」とまで言ったんです。

私も含め、多くの人が10年前の「福山雅治のレグザのCM」を凄さを覚えています。テレビは宿命的に、商品の良さ・技術的な優秀さを伝えるのが難しい部分がありますが、今のレグザは中身が良くなった。それを伝える代弁者は、福山さんをおいて他にない、と思ったんです。

中身が良い、ということは本物、ということ。時代が変わっても良さがあるのが本物です。

福山さんは「本物」じゃないですか。10年前も今も同じように人気がある方は、そうそういらっしゃるわけではないですからね。

福山雅治さんを使った「レグザの新CM」は、まだ撮影ができていないという。新型コロナウィルスの影響で、撮影自体ができなかったのだ。現在流れているCMは、過去のCMの中でも特に人気のあるものに、現在の福山さんが録り下ろしのナレーションを入れたもので、「苦肉の策」でもある。だが、過去のレグザから現在のレグザへと、うまくイメージを伝えられるものになっているな……と筆者には思える。

あの頃のCM「宇宙の果てで」篇

「大きすぎない感動大画面」、48型が今年のレグザに与えたインパクト

では、その「良くなった中身」「商品性」はどうなのだろうか?

今年の製品は、冒頭で述べたように「ハイエンドとしてのOLED採用モデル」「大画面を軸にした液晶モデル」という棲み分けになっている。特に、本誌読者が気になるであろう上位モデル、OLEDでは「X9400」「X8400」、液晶では「Z740X」「M540X」には、新機軸の高画質化技術である「クラウドAI高画質テクノロジー」が搭載された。またOLEDの場合、黒挿入による動画ボケ抑制機能「インパルスモーションモード」の導入が重要だ。

それら機能のポイントは後ほど述べるとして、ラインナップとチューニングの考え方はどうなっているのだろうか?

実は今回のレグザには、全体に大きな影響を与えた特別な存在がある。それが、48型OLEDを採用した「X8400」だ。商品企画を担当する本村氏は次のように話す。

ブランド統括マネージャーの本村裕史氏

本村:はっきり言って、今年はターニングポイントだと思ってます。大型化とOLED化がずっと進んでいきたんですが、そこに数カ月前、48型を改めて見たときに感じたんです。「これは液晶時代の50型とも違うし、大型のOLEDとも違うな」と。

そこで、この感覚をどう伝えようか本当に迷いに迷って、ある日突然脳裏に降臨したのが「大きすぎない感動大画面」というフレーズです。

実際筆者も製品を見てみたが、確かに48型のOLEDはなにかが違う。今となっては大きなサイズではないが、逆にそれゆえにより近くで使い、視野をしっかり覆うようなイメージで使える。そしてそれでも、画質的には間延びした感じもなく「みっちり」詰まった印象を受ける。

48型「48X8400」
左が55型「55X8400」」
映像マイスターの住吉肇氏

画質評価の専門家である住吉氏は次のように表現する。

住吉:「あなたにとっての大画面」という感じで、これまでとは別のバリューを提供できるんじゃないかと思います。液晶の50型とは違い、映像に破綻も見えず、きれいです。そもそも、映像エンジンも最新のものですから、処理も当時とは全然違います。

実は液晶の時には処理は変えていました。大きくなるとボケが気になるので、超解像のパラメータをいじって状況を変えていたりはしたんですよね。

ですが、今のOLEDはそういうことをやらなくても済むほど自力がある。だから、非常に良い画質になってきていると思います。

ただし、48型だけは、他のサイズのOLEDに比べてパネルスペックが違い、輝度が10%ほど低くなっています。その点だけは留意する必要があるんですが。

48型が「違うバリューを持っている」という認識がチーム内に広がると、今度は商品ラインナップ自身をどう整理するのか、ということにも影響してきた。

今回、OLEDは48型・55型を用意した「X8400」と、48型から77型まで広いサイズバリエーションを持つ「X9400」に分かれている。単純なスペック違い・機能違いによるライン分けではない。X8400シリーズに65型がないことには明確な理由がある。

本村:(ハイエンドである)X9400はフルラインナップが必要です。特に地方を中心に求める声があるので、77型は用意しなくてはいけない、と思っていました。一方、X8400からはあえて65型を外しました。サイズを求める人と、都市型の用途を求める人を明確にしたかったからです。20万円ちょっとで48型が買える、そして同じラインに売れ筋の55型もある……という構成です。

OLEDはパネルの供給元が限られている……というか現状1社なので、パネルバリエーションが少ない。メーカーとしては価格別にラインナップを作りたいところだが、スピーカーやデザインでの差別化には限界もあり、消費者から見ると「同じパネルなのに」という部分がどうしてもあった。今回の場合東芝は、「48型」を軸に「小さい都市型需要をお値打ち価格で満たす機種」と「大型まで視野に入れたフルラインナップ」に分けることで、このジレンマに対応した、という部分がある。

タイムシフトマシン搭載4K有機ELレグザ「X9400シリーズ」
「大きすぎない感動大画面」の48型を含む、X8400シリーズ

そしてもうひとつ、今年の需要として彼らが期待しているのは「ゲーム」だ。PlayStation 5とXbox Series Xの発売を年末に控え、これらで遊ぶために4Kテレビを、と考える人も増えているのではないだろうか。

本村:率直にいえば、初期のOLEDではゲーム向け、というのは少しドキドキした部分があります。それは焼き付きの問題が皆無とは言えなかったからです。

しかし、2020年モデルで使っているパネルは、輝度が上がっているにもかかわらず、焼き付きを過度に恐れる必要がなくなっています。実際今回は、ゲームモードの輝度を6割アップしています。

この「6割アップ」というのは、「インパルスモーションモード」を導入したからでもある。黒のコマを挿入することで脳内の残像をリセットし映像の動画応答性能を向上しているのだが、実際に見ると非常に動きが「スッキリ」して見える。実写でも有効な技術だが、ゲームでの効果も高い。ただその性質上、単位時間あたりで見れば「画面が黒い時間」が増える=輝度が落ちることになるので、輝度を上げているわけだ。これによって、十分な明るさと、ぼやけのない動画表示を両立させている。

住吉:ゲームの画質においては、いかにテクスチャがちゃんと見えるかが重要です。PS5世代になるとかなりリアルなテクスチャが使われますから、それを再現するにはネイティブコントラストの高さが重要。だからOLEDがいい、ということになります。

PC用ディスプレイをゲームに、という人も多いのですが、テレビの方が有利な部分もあるんですよ。4:4:4で処理するとか、フル12bitで処理をしているとか。超解像もそうですね。基本画質に効くことはゲームにも有効ですから。

もちろん、テレビが不利な部分もある。120Hzを超えるフレームレートへの対応は厳しいし、新型ゲーム機で想定される「4K・120Hz」での表示も今年のモデルではまだ難しい。しかし、48型を中心とした「近い距離で見る4K・OLED」は、ゲーム用途も含めて考えるとかなり魅力的と言える。

インパルスモーションモード
有機EL瞬速ゲームモード

「ネットを使う高画質」と「ネットの画質の高画質」、2つのアプローチ

画質面でどのモデルにも言えるのは、「ネット」を使う、もしくは「ネット」に関する機能が強化されている、という点だ。

前出のように、現在はネット動画の利用が増えている。その画質を改善するための機能が「ネット動画ビューティ PRO」だ。これは簡単にいえば、レグザ側でサービスごとに標準的なパラメータを用意することで、そのサービスにあった高画質化処理を施す、というものだ。

住吉:これまで、ネット動画の高画質化については「サボっていた」というのが正直なところかもしれません。というのは、ネット動画には、リファレンスになりうるような本当に良い画質のものがなく、評価が難しかったからです。

しかし今は、YouTubeであっても、本当に良い画質のものが出てきました。そこそこな画質のものも多いですが、良い画質のものをリファレンスにすることで、画質改善を行なえます。

とはいえ、まだまだやるべきことはある、と認識しています。西田さんが期待されるレベルまでは到達していないかもしれません。本当は各サービスから、「今どのようなコーデックでどういう設定のものが流れているか」という詳細なデータがもらえればいいんですが、彼らは出していませんからね。

そう住吉氏は謙遜するが、少なくとも、これまでのネット動画高画質化機能より汎用性は高まったのは間違いなく、進むべき方向に踏み出していると評価できる。

もうひとつの目玉機能である「クラウドAI高画質テクノロジー」はどういう性質のものなのだろうか? 実は着想自体は「2011年頃からあった」(住吉氏)という。

住吉:以前から発想はあったんですが、まずは他のところから、と考えていました。色々な高画質化処理を行なってきてずいぶん改善されてきましたが、ここから先はもう今までの手法では限界があって、番組単位、シーン単位で処理を成長させないといけないんです。要は地デジが綺麗にできているから必要になってきたことです。

例えば、CMはとてもクオリティの高い映像ですが、それは番組全体でいえば10%程度に過ぎません。それ以外については、今まではシーン適応型高画質処理でやってきましたが、想定を超える部分については番組単位でやってくべきだ、ということなんです。

仕組みはこうだ。まず地デジ番組について、電子番組表の「番組詳細」にある情報を使い、より細かく番組を分類する。現状では「136」に場合わけしているそうだが、その情報を生かし、細かく番組単位で適応するパラメータを変える。従来もジャンルごとの適応はあったが、それを超える小さな粒度での適応を、番組表内の情報を読み取って判断することで自動化する。

住吉:わかりやすいのはアニメです。線がシンプルなキッズアニメと一般的な深夜アニメ、過去のセルアニメや3D CGアニメでは、すべきことが違います。セルアニメだとコマのブレ・揺れの補正が必要ですが、デジタルアニメではいらない。シンプルな線のアニメでは輪郭をはっきりさせるべきですが、書き込みの多いアニメではそうではない。3D CGアニメだと、処理は実写に近く、黒輪郭はしっかりさせない方がいい。

同じバラエティ番組でも、モスキートノイズが出やすくて厳しいものもあれば、そうでないものもある。スポーツ番組でも、局やスポーツの種別によって違ってきます。

そんなふうに処理していくんですが、当然それを分類するためのデータベースなんてありません。

どうデータベースを作ったかというと、別にAIを使ったわけではなく、人力です。番組を見て、手作業でデータベースを作っています。ですがこれを続けて分類して行けば、データベースが整備されていきます。将来的にその先でAIを使えば、もっと自動化できると考えています。

ちなみに住吉氏が、緊急事態宣言中で「完全在宅勤務」だった時には、ひたすらこのデータベース構築のため、自宅でさまざまなテレビ番組を見ていたのだとか。その結果が今回の機能なのだ。

住吉:地デジはほぼ100%終わり、BSの2Kはこれからやり始めるところです。地デジを優先したのは、それだけニーズがあるということと、タイムシフト視聴の割合も高いからです。

あと、HLGで撮影されたコンテンツが暗く見える、という話についても、今回の「クラウドAI高画質テクノロジー」で手を入れています。2Kへのダウンコンバート番組に補正を入れる処理をし、元のHDRでの映像の印象に近い、明るい適切な映像に変わるようにしています。

今回のレグザの音は「音と絵の位置の一致」がテーマ

今回は音についても改善が大きい。ポイントは「音と絵の位置の一致」だ。見ている映像の位置と音の出る位置は近い方が自然だ。だが、これはなかなか難しい。特に小さなスピーカーで音を反射させて聴かせる薄型テレビでは、音の位置が下にずれやすかった。ソニーはOLEDでガラスを揺らしてスピーカーにし、パナソニックは上向きのスピーカーを付けて反射させることで定位を上に持ってきたが、東芝は「背面反射」を使う。

音声マイスターの桑原光孝氏

桑原:絵と音の一致は、テレビの永遠のテーマです。X9400ではその方向をハード的に押し進めようということで、背面にトップツイーターをつけ、反射させることにしました。何年か前から技術レベルでは検討していたのですが、ようやく日の目を見ることができました。これでかなり違いますね。

フルレンジでやろうとすると、ほんのわずかに位相のズレが出てきてエコーになるんです。以前にサウンドバーを組み合わせて音を出す「シンクロモード」の経験で、高音だけで処理するようにしました。ただ、5kHz・7kHzだけだと情報量が足りない。今回は 1.5kHzまで下げて、かなりワイドレンジなツイーターを開発しました。これは狙った以上の効果があったな、と思っています。

X8400については別の仕組みです。デジタル処理で音像を上に上げているのですが、どうも音をフロントに出すより、下に出すものの方が効くようですね。音を下に反射させ、そこから色々な方向へ広げるからでしょう。「下に出している」という存在感がなくなります。3つで36W(合計出力72W)と、かなりパワフルなスピーカーを搭載したので、こちらでもかなり快適な音が楽しめると思います。」

左がトップツイーター
X9400に採用されている「レグザパワーオーディオX-PRO」の概要図
「X8400」のレグザパワーオーディオX
レグザパワーオーディオXに使われているスピーカーBOX

サイズファクターや使用シーンを変えることで、X9400とX8400は別のキャラクターを持つ製品になっている。それは映像だけでなくスピーカーを含めた音の部分でも現れている。

今回のレグザの面白さ・本気度は、そういうラインナップ構成による機能選択の違いにもある、と言って良さそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41