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  • 新国立劇場「尺には尺を」&「終わりよければすべてよし」

    新国立劇場で開催中の「尺には尺を」と「終わりよければすべてよし」の交互上演は大成功のように見える。2009年の「ヘンリー六世」三部作から始まったシェイクスピアの史劇シリーズが完結して、それで終わりかと思ったら、意表を突く“問題作”への転進。その意外性と史劇シリーズのスタッフ・キャストの再結集に惹かれた。わたしは両作品とも以前戯曲を読んだことがある。そのときは奇妙な作品だと思った。なるほど喜劇とも悲劇ともつかない“問題作”だといわれるゆえんだと。だが舞台上演を観て、印象はだいぶ変わった。「尺には尺を」は創作力が高まった時期のシェイクスピアにふさわしい力作だと思った。一方、「終わりよければすべてよし」も同時期の作品だが、これはパワハラあり、セクハラあり、ストーカー行為ありのまるで現代劇だと思った。交互上演なの...新国立劇場「尺には尺を」&「終わりよければすべてよし」

  • 新国立劇場「尺には尺を」

    新国立劇場の「尺には尺を」と「終わりよければすべてよし」の交互上演。先日の「終わりよければすべてよし」に引き続き「尺には尺を」を観た。「尺には尺を」は以前戯曲を読んだことがあるが、観劇前に再読した。戯曲もおもしろいが、実演だとおもしろさが増す。一番印象に残ったことは、大詰めの場面でマリアナが侯爵代理のアンジェロをかばい、イザベラに「あなたも侯爵様にアンジェロの助命を願って」と頼む場面の演出だ。イザベラにとってアンジェロは仇敵だ。イザベラは躊躇する。一瞬の沈黙。その劇的効果に息をのむ。緊張の頂点でイザベラはひざまずき、侯爵にアンジェロの助命を願う。本作品のテーマは赦しなのかと思った。それ以外にも、たとえばクローディオが獄中にあって死を覚悟するときのモノローグは、まるでハムレットのような深みがあった。そのモノ...新国立劇場「尺には尺を」

  • 新国立劇場「終わりよければすべてよし」

    新国立劇場でシェイクスピアの「尺には尺を」と「終わりよければすべてよし」の交互上演が始まった。2009年の「ヘンリー六世」三部作の一挙上演以来続いたシェイクスピアの史劇シリーズが終了し、次の展開として、問題作といわれる「尺には尺を」と「終わりよければすべてよし」が取り上げられたわけだ。問題作とは悲劇とも喜劇ともつかない(それらの範疇からはみ出す)作品をいう。19世紀末にイギリスのある評論家が「尺には尺を」と「終わりよければすべてよし」と「トロイラスとクレシダ」と、それらに加えて「ハムレット」の4作をそう分類した。わたしは「ハムレット」が他の3作と同列に論じられることにはピンとこないが、「ハムレット」以外の3作が同じように奇妙な作品であることには同感だ。なぜ奇妙かというと(それは本来は個々の作品に即して語ら...新国立劇場「終わりよければすべてよし」

  • カーチュン・ウォン/日本フィル(横浜定期)

    カーチュン・ウォン指揮日本フィルの横浜定期。プログラムはショパンのピアノ協奏曲第1番とブラームスの交響曲第1番。同プログラムで翌日には東京で名曲コンサートが開催される。両日ともチケットは完売だ。ソリストの亀井聖矢の人気のためだろうが、せっかくの満員の聴衆だ。日本フィルにも大いに気を吐いてほしい。亀井聖矢は2022年のロン=ティボー国際音楽コンクールで第1位を獲得した俊才。2001年生まれなので、今年22歳だ。藤田真央、反田恭平などスター・ピアニストが続出する中で、また一人才能豊かなピアニストが加わった。注目すべきはその音の美しさだ。まるで水滴のようなみずみずしさがある。それはたんに技術というよりも、ナイーブな感性の反映のように感じられる。長大なショパンのピアノ協奏曲第1番だが、そのみずみずしさは一瞬たりと...カーチュン・ウォン/日本フィル(横浜定期)

  • ヴァイグレ/読響

    ヴァイグレ指揮読響の定期演奏会。1曲目はヒンデミットのピアノと弦楽合奏のための「主題と変奏〈4つの気質〉」。ピアノ独奏はルーカス・ゲニューシャス。地味な曲だが、ピアノ独奏もオーケストラも曲の持ち味をよく引き出して、ヒンデミットの円熟期の作品であることを納得させた。ゲニューシャスのアンコールがあった。3拍子の甘い曲だ。ショパンのワルツのようでもあるが、ショパンではない。だれの曲だろう。帰りがけに掲示を見たら、レオポルド・ゴドフスキ(1870‐1938)の「トリアコンタメロン」から第11番「なつかしきウィーン」とのこと。2曲目はハンス・アイスラーの「ドイツ交響曲」。副題に「反ファシズム・カンタータ」という題名をもつと記憶していたが、プログラムに記載がなかった。あるいは副題ではなく、わたしの手持ちのCDに記載さ...ヴァイグレ/読響

  • ノット/東響

    ノット指揮東響の定期演奏会。1曲目はドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」のノット編曲版。オペラの中の主要場面を追ったオーケストラ曲だ。オペラだと歌と演技が入るので、濃密なドラマが展開されるが、歌と演技を欠くと(少し乱暴な言い方になるが)同じような音楽が延々と続く印象だ。ただ演奏は良かった。響きの移ろいが明確に意識されて、極上のドビュッシー演奏だった。2曲目はヤナーチェクの「グラゴル・ミサ」。ドビュッシーの柔らかい、ニュアンスを大事にする音から一転して、荒削りな、音楽に食い込むような音に変わった。夢の世界から現実の世界へ。沸騰するような情熱の世界。その対照はノットの戦略だろう。プログラムに掲載されたノットへのインタビュー記事によれば、「グラゴル・ミサ」には3つの版があるそうだ。今回演奏されたのはPaulW...ノット/東響

  • カーチュン・ウォン/日本フィル

    カーチュン・ウォンの日本フィル首席指揮者就任披露演奏会。曲目はマーラーの交響曲第3番。第1楽章冒頭の8本(実際は9本)のホルンの斉奏の輝かしさ。その後も金管の音がよく決まる。とりわけトロンボーン・ソロの見事さ。安定感があり、しかもトロンボーンの独壇場にならずに全体のアンサンブルに収まる。トロンボーンの首席奏者・伊藤雄太さんの演奏。カーチュン・ウォンの指揮のためだろうか、第1楽章展開部の最後の、オーケストラが混沌の中に崩壊するまでの経過がじつに整然と演奏された。一音一音を辿れるようだ。そのおかげで、なるほどこう書かれているのかと、目を見張る思いがした。その代わりに、熱狂のあげくの混乱というドラマは感じられなかった。第3楽章は(わたしの個人的な感想だが)この演奏の白眉だった。中でも舞台裏でポストホルンのパート...カーチュン・ウォン/日本フィル

  • 新国立劇場「修道女アンジェリカ」&「子どもと魔法」

    新国立劇場の新制作、プッチーニの「修道女アンジェリカ」とラヴェルの「子どもと魔法」のダブルビル。予想以上に満足度の高い公演だった。歌手、指揮、演出などが作品の良さを引き出したからだろう。「修道女アンジェリカ」はプッチーニの「外套」、「修道女アンジェリカ」と「ジャンニ・スキッキ」の三部作の中で、わたしは一番好きだ。プッチーニの悲劇のヒロインを蒸留してそれだけで一本のオペラを作った観がある。だが残念ながら、実演に接する機会はまれだ。三部作の一挙上演の機会でもなければ、なかなか実際の舞台を観ることはできない。わたしは今度が初めてだ。公演はすばらしかったと思う。まず、なんといっても、アンジェリカを歌ったキアーラ・イゾットンが良かった。なめらかで繊細な歌唱から、感情をこめた劇的な歌唱まで、アンジェリカのキャラクター...新国立劇場「修道女アンジェリカ」&「子どもと魔法」

  • 高関健/東京シティ・フィル

    東京シティ・フィルの10月定期は飯守泰次郎の指揮でシューベルトの交響曲第5番と第8番「ザ・グレート」が演奏される予定だったが、飯守泰次郎の急逝にともない、高関健の指揮で飯守泰次郎が得意にしたワーグナーとブルックナーが演奏された。飯守泰次郎が振るシューベルトを楽しみにしていたが、亡くなった以上、仕方がない。もし高関健が飯守泰次郎のプログラムを引き継いだとしても、満たされない思いが残ったかもしれない。プログラムを変更して成功だったと思う。1曲目はワーグナーの「さまよえるオランダ人」序曲。金管の張りのある音が印象的だった。2曲目は「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死。前奏曲冒頭の深い悲しみにみちた情感と中間部の狂おしい情熱の高まりが見事だ。それらを表現するオーケストラのアンサンブルも十分に練り上げられてい...高関健/東京シティ・フィル

  • 津村記久子「とにかくうちに帰ります」

    津村記久子の「水車小屋のネネ」が今年の谷崎潤一郎賞をとった。わたしは津村記久子のファンなので喜んだ。「水車小屋のネネ」も読んでいた。とくに第1話と第2話のみずみずしさに感動した。でも、ファンの心理とはおもしろいもので、自分だけの大事な作品がある。わたしの場合、それは「とにかくうちに帰ります」だ。「とにかくうちに帰ります」のどこが好きかと自問すると、ちょっと考えてしまう。しばらく考えた末に、たぶん津村記久子の特徴がバランスよく入っているからだろう、という考えに落ち着く。津村記久子の特徴とは何か。まず日常生活で感じる小さなイライラが、あるある感いっぱいに書かれる点だ。だれかのマイペースなふるまいにイライラする。その描写がリアルで、かつユーモラスだ。それは津村記久子のどの作品にも共通する。もちろん「とにかくうち...津村記久子「とにかくうちに帰ります」

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