MSF日本事務局長・村田慎二郎さんに学ぶ「命を守るために、今、何ができる?」
今、世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。2020年からスタートした連載では、CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考える機会を作っています!
今回は、紛争や自然災害、貧困などによる危機から人々の命を救ってきた『国境なき医師団』村田 慎二郎さんに、人道支援の実情を学びます。
■What’s ”国境なき医師団”?
1971年にフランスで設立された民間で非営利の医療・人道援助団体で、フランス名は、Médecins Sans Frontières=MSF。「独立・中立・公平」を原則とし、約90の国と地域で、紛争や自然災害、貧困などで危機に直面する人びとに、医療援助や救援物資を届けている。現地で目の当たりにした人道危機を社会に訴える「証言活動」も行っており、1999年にはノーベル平和賞を受賞。
命の危険にさらされているのは私たちと変わらない人々
トラ 実はコロナ禍で特別定額給付金が給付されたときに、「寄付したい! 」と真っ先に選んだのが国境なき医師団(以下、MSF)でした。地域による医療体制の格差もある中、人の命に国境はないなって痛感したんです。
村田 ありがたいですね。活動の励みになります。
トラ 村田さんご自身は28歳でMSFに入られたとか。
村田 学生時代の僕はまったく意識が高いタイプではなく、むしろ〝意識ない系〟(笑)。でも、IT企業の営業職としてサラリーマン生活を3年送った頃、「人生、このままでいいのかな」と疑問を抱きまして。国連など海外の人道支援を調べていくうちにMSFに惹かれ、会社を辞めてまずは1回きりのつもりで参加しました。
トラ それが今やライフワークになったんですね!
村田 海外旅行の経験も少なかった自分が、初参加でアフリカのスーダンに行き衝撃を受けました。21世紀が始まったばかりなのに「今世紀最悪の人道危機に瀕している」と言われていたダルフールで、紛争地帯から逃れてきた人は小さなバッグひとつ、着の身着のまま。昼間は50℃にもなる場所で、家だけでなく、水や食料もない状況で生きていかなければいけない。あまりにつらい状況を見て、2時間で「もう帰りたい」と思ってしまったんです。ただ、すごく苦しい現実でも、なんとか生きようと努力する人たちがいて、医療を無償提供するMSFのような組織が生まれた意義を感じました。
トラ ニュースでは、亡くなったり難民になったりした人の数が目に飛び込んできますが、現地で生活を送っている人々がいるという事実が重いですね。
村田 そうなんです。例えば結婚式をするときは、同じコミュニティの人たちがなんとか新郎新婦の幸せを祝おうと、色々な工夫をしてささやかなパーティを開きます。モノはなくともダンスをして祝福し、ふたりに幸せになってもらいたいと笑う。参加する僕らもちょっと幸せをおすそ分けしてもらうような感覚。置かれている環境は違う惑星に来たみたいでしたが、何を見たときにうれしいのか、悲しくなるのか、日本にいる私たちと全然変わらないなと感じましたね。
世界に忘れられた人道危機関心を寄せることが希望に
トラ 今はウクライナの人道危機が深刻ですが、MSFは現地でどのような活動をされているのでしょうか?
村田 ウクライナの病院は医療従事者の技術も意欲も高いんですね。でも、治療・救援物資がないため、物資の提供から携わって、戦地ならではのトリアージ、銃弾・爆発片に対する外科処置法などを実地研修で伝えています。また、東部のドネツクやルハンスクからは負傷者を搬送しながら治療を行う医療列車での救命も続けているところです。
トラ 攻撃が迫る地域では混乱してしまいそうです。
村田 拠点の安全を確保しつつ、紛争地での経験豊富なメンバーを送るようにしています。とはいえ、ミサイルが近くに落ちてくればやっぱり怖いですよね。僕も活動責任者の立場にいたときは、自分の恐怖が伝染して現場がパニックになってしまわないように表では冷静を装いつつ、内心は常に緊張状態でした。
トラ そういった過酷な状況でも、活動を続けてきてよかったなと印象に残っていることはありますか?
村田 シリアのアレッポでの任期中、空爆の被害があまりに大きく、樽爆弾で重傷を負った患者さんの前で「人道援助は無力だ」などとグチをこぼしてしまったことがありました。すると彼は「そんなこと言わないでほしい。君たちは僕らの希望なんだから」と。爆撃で妻と子供を亡くしていた彼のその言葉に、ハッと目が覚める思いでしたね。今でもこの仕事を続ける原動力です。
トラ 同じく紛争地のガザ地区のドキュメンタリーで、ご家族を亡くされた男性が「世界から忘れられてしまうことがつらい」と話していたことを思い出しました。
村田 まさに、アフリカや中東・アジアからは今なお何万人もの難民が海を渡って欧州に亡命しようと試み、アフガニスタンやミャンマーでも迫害されている人たちがいますが、昨今は報道が減っていますよね。
トラ 難民は世界で累計8000万人以上、過去最多とか。
村田 はい。そして紛争中ではなくとも、特にアフリカなど途上国では気候変動の影響が人命に直結します。2020年時点で、年間60万人以上がマラリアで亡くなり、4500万人もの5歳未満の子供が、命にかかわる急性栄養失調に苦しんでいる状況。原因である蚊の増加や飢饉には温暖化が関わっているんですよね。
トラ 確かに戦争のように人が直接的に引き起こしている問題には危機感が高い人が多いけれど、間接的に大きな流れをつくって引き起こされる環境問題には当事者意識が薄くなっている気がします。私たち20代が人道支援のためにできることは何でしょうか?
村田 願わくば若い皆さんには、ファッションや食など様々ある興味リストの11番目ぐらいに、「世の中には、今医療を届けないともう明日がないぐらいの人もいるんだ」と置いていただけたら。その結果として、自分もMSFに参加してみたいなとか、1回寄付してみようかとか、命を守る一歩につながるとうれしいですね。
トラ 何かコミットすると関心も深まりますよね!
村田 MSFは9割以上が民間の方からの寄付で成り立っていて、だからこそ政治や経済、人種、宗教など、あらゆる勢力から中立でいられます。今後も差別なく、現地の人々が求めている援助を届けていきたいです。
■内戦が続くシリアへ入り、『国境なき医師団』の活動を統括する村田さん。現地の子供たちと共に(2012年)。
紛争地では活動維持のため、国や軍のほか、時にテロリストとも交渉するのだとか。
■シリア北部のトルコ国境に近いアザズでの空爆で負傷した患者を治療する医療スタッフ(2013年)
私たちの寄付で命のためにできること
国境なき医師団の活用例
- 3000円→はしかの予防接種 120人分
- 3000円→栄養治療食 90食分
- 5000円→基礎医療セット 200人分
- 5000円→1か月分の清潔な水 210人分
- 10000円→緊急用簡易ブランケット 32枚
※外国為替により変動します。
世界から約100人、日本人スタッフ4人(取材時)がウクライナと周辺国に派遣され、心身の医療援助にあたる。225トン以上の物資も提供。
見ないフリをするのではなく、思いを寄せる心をもっていたい
世界の情勢に無力さを感じることもあるけれど、「自分は何もできないから」と見ないフリをするのは、もっともっと悲しいこと。ふとした瞬間に思い出す、わずかな金額でも寄付する。偽善と言われようと、それで救える命があるんだ!と思いを新たにすることができました。
目指せ「SDGs」!トラちゃんの今月の一歩
■川崎水族館に行ってきました!
〝カワスイ〟は淡水の近くに生息する生き物を見ることができる水族館。ただ楽しいだけでなく、生態系や人間による影響なども学ぶことができて、どのように共存していくか考えられるとっても素敵な施設でした!
■今月の1冊は…『世界の難民をたすける30の方法』
「難民とは何か」から始まり、私たちにできる具体的な支援の方法までわかりやすく網羅的に書いてあります。難しい国際法の話も実際の例を用いた説明で、難民問題がグッと身近に。
今月のSDGsブランド「アルティーダ ウード」
作り手を大切に、ハイクオリティなジュエリーを適正価格で展開するブランド。ドネーションプログラム”I am” Donation では、商品1点につき最大¥1,100を寄付。寄付先は「途上国支援」「医療支援」「森林保全」から選択できる。