かりべやすおさん

■選手の数だけドラマがあれば、ファンの数だけドラマがある

・皆さんは、独自の応援スタイルを持っていて、その球団のファンに一目置かれている人物に出会った事はないだろうか?不定期連載「カープファン列伝」は、そんなファンに取材をし、独自の美学やカープに対する熱い思いを語ってもらう企画だ。

・2015年のシーズン終了をもって、カープの応援団、緋鯉会の総代表「やすおさん」が活動を休止することになった。23年間にわたり多くのカープファンから支持された総代表は、なぜ活動を休止したのか?何か大きなきっかけがあったのか?

・今回は「カープの応援」に打ち込んだ一人の男の「23年間」を振り返る企画です。


■「引退」ではなく「おやすみ」

今回の取材をするにあたり、やすおさんに「なぜ応援団を引退したのか取材させて下さい」とお願いしたところ、

『了解しました。ただ、引退ではなく、おやすみと言う事にしています。いつ戻るのか、ホントに戻る日が来るのかはまったくわかりませんが、一応「おやすみ」って言い方にしています』

という返信が返ってきた。

あえてその言葉を選んだ理由も含めて「23年間を振り返る11の質問」に答えてもらった。
 

【関連記事】

~全国緋鯉会連合 総代表 苅部安朗さんに11の質問~


【1】なぜ応援団を「おやすみ」しようと思ったのか?

一言では言い尽くせません。
20歳を過ぎた頃から、毎年いつ辞めるか、常に考えていました。
ここ5年くらいは、特に今年で最後を意識して応援していました。

家庭を持つという新たなスタートが、一番の理由です。

優勝するまで続けると決めていましたが、今年はどこか普段とは違うシーズンの予感があり、前評判も良く、戦力的にも大きく優勝を意識出来るチームだと思ったし、うっすらではありますが、今年で最後という気持ちは、例年に比べ大きく意識して挑んだシーズンでした。

今年駄目なら、後何年続けたら終わる事が出来るのか。
来年こそ来年こその思いが23年続いた訳で…と自問自答を繰り返しました。

体力的な衰えや、金銭的問題、時間の問題、このままズルズルと続けて行くのは良くない。
きっと自分はすぐにいつも通り野球に没頭する日々に戻り、家族に迷惑をかけてしまうのではないか。

おやすみする理由を一言で言う事は出来ません。
様々な理由の積み重ねが「おやすみ」するになったんだと思います
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【2】応援団を「おやすみ」すると伝えたとき、どんな反応をされましたか?

■緋鯉会メンバーの反応
今シーズンいっぱいで「おやすみ」を決めたのは6月下旬だったと思います。
すぐに山村(じゅん)に伝えました。
予感はあったはずですが、ひどく落胆していました。
来年から総代表をやってもらう事も伝えましたが断られました(笑)
それから何度も話し合いをし、了承してもらいました。

他のメンバーには8月30日、横浜スタジアムの試合後に正式に伝えました。
なんとなく予感はあったんだと思います。
一試合でも多く一緒に応援出来るよう、残り試合を全力で応援しようという雰囲気になりました。
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■カープファンのみなさんには9月7日にSNSで発表しました。
何故この日だったのか。
まず野球がない月曜日であった事。
発表後に神宮、東京ドーム、横浜スタジアム、ナゴヤドーム、甲子園、マツダスタジアムと、セリーグ主要球場に全て行く事が出来るからです。

沢山の温かい反応、お言葉を頂きました。
ありがとうございました、おめでとう、お疲れ様でした、やめないで下さい、寂しいです、残念です、悲しいです、いつか帰って来て下さい。
全て心に刻んであります。
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【3】最終戦が終わった直後の心境

茫然自失。

ここ数年クライマックスに進出したり、クライマックス争いをやれていた事で、続きがあるはずだったのに、野球って突然終わるんだって事を痛い程味わってきました。
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知っていたはずなのに、何か真っ暗な大きな物に包まれてしまったような、どんよりとした気持ちになりました。
カープというチームに対してがっかりしてしまう気持ちもありました。

パフォーマンスに集まっているみなさんへの最後の挨拶は、今まで経験した事のない悲しい複雑な気持ちでした。

突然シーズンが終わる。
最後まで自身の応援団生活を象徴するような終わり方でした。

一度お断りしましたが、緋鯉会以外の応援団のみなさんに胴上げしてもらいました。
何度か経験あったけど、悲しい胴上げってあるんだ。胴上げってこんなに複雑な心境になるんだって思いました。

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【4】最終戦の翌日から今現在、心境の変化はありましたか?

~最終戦後~

朝方まで起きていました。
色んな夢をみました。

翌日もふとした時に
東京帰ったら、すぐにクライマックスの東京ドームと神宮の座席の資料作って、提出しなきゃ…締め切り間に合わないや…
あ…もうその必要はないんだ…シーズンは終わったんだ…
あ…て言うか…おれもう応援出来ないんだ…
終わったんだ…
2、3日こんな事を繰り返していました。

クライマックスファイナルステージでヤクルトが勝った直後、WBCで共に応援したヤクルトの応援団2人の顔が浮かびました。

2人が頑張ってる事をよく知っているので、素直に嬉しく、心よりおめでとうと思いました。

同時に、昨年最下位だったヤクルトがセリーグを制覇する。
前評判の良かったカープに沢山のチャンスがあったはず。
手の届く所に大きな喜びがあったはずなのにと悲しい気持ちになりました。

またヤクルトの応援団2人は24歳と22歳。
自分は40歳。

23年ってなんか残酷だな。
涙が止まらなくなりました。
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【5】引退ではなく「おやすみ」とした理由

行ける時だけ行けば良いのでは?
色々な方に何度も言われました。

しかし関東の球場には必ず試合前の1-9から居る。
当然関東は皆勤するし、年間最低70試合はクリアする。
休まない。
応援団とは現場にいてなんぼ。

これをモットーに、続けてきた気持ちを変える、妥協する事は難しい。
自分には無理だ。

ましてこれを、口が酸っぱくなる程言い続けてきた緋鯉会員に示しがつかなくなる。

そうして結論を出しました。

しかし、全て野球中心の生活をしていた。
シーズンオフでさえも。
正直関東の試合がある時に、テレビやラジオで中継を観た事、聞いた事がありません。
現場に必ず居たからです。

それを経験した時、自分がどういう心境になるのかわかりません。
やり残した事もあります。

家庭や仕事が落ち着いた時。
その時の緋鯉会の状況。
うまくまわってるから自分が出ていかない方が良いのでは。と思うかも知れません。

全てが重なった時、戻る事が出来るかもしれない。
戻る可能性は残しておきたい。

そう思ったから引退ではなく、「おやすみ」という形を取らせて頂きました。

今シーズンが終わって、もう何もしてないかというと、決してそんな事はありません。
色々と残された仕事や引き継ぎなどもしています。

今はまだ「おやすみ」の実感がまったくありません。
実感があるとすれば侍ジャパンの試合に参加しない事くらい。

きっと来年のオープン戦が始まり、開幕して関東の初戦が始まる頃、始めて新たな感情が生まれるんではないかなと考えています。

なにしろ「おやすみ」は未体験ゾーンなので。

そんな風に思っています。
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【6】やすおさんの「おやすみ」を知った他球団の応援団の反応

沢山の他球団の応援団のみなさんに労いの言葉を頂きました。
花束なども。

特にWBCで共に応援したメンバーを中心に。
SNSでも他球団なのに、その事にふれているのも沢山みました。
ありがたい限りです。

応援している球団は違えど、すでに親友と言っても良い程仲良くしている人が沢山います。
去ってく者に対し賛辞を送る事はこの世界では珍しい事なので、本当に感謝でいっぱいです。
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【7】球場にはたくさんの「やすおさんファン」がいました。『「カープを応援するやすおさん」を応援してくれたカープファン』にメッセージ
やはりセリーグ全フランチャイズに行ける日程で発表して良かったです。
全ての球場で沢山のメッセージやプレゼントを頂きました。

自分に向けたメッセージボードを掲げてくれていた方達、号泣してしまう人達。

顔見知りの方達はもちろんですが、今までずっと喋りかける事が出来なかったけど、最後なので来ましたって方が驚く程いました。

今までチームの順位や試合展開など暗いシーズンが長く続いていました。
そんな時一番の支えになってくれたのはカープファンのみなさんです。
どんな展開でも9回は激しく楽しく応援して、また明日もカープを応援しようという気持ちにさせてくれる。

感謝の気持ちでいっぱいです。
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【8】23年間の「応援団活動」を振り返って
→やすおさんにとって、この23年間はどんなものだったのか?「23年間の応援団活動」の総括と過去の思い出について

どんなものだったのでしょうか?
教えてくれる人が居たら、自分が聞きたいくらいです。

初めて神宮球場でリードした瞬間、リードの魔力にとりつかれました。

チームが弱い、今日も負けてる、スタンドが盛り上がってない中を盛り上げる事にアドレナリンが出ました。

トランペットが日に日に上達していく。
何年やっても徐々にであるが、ストップする事なく。
今でもトランペット吹きたいなーって凄く思います。

会社に沢山迷惑をかけ、平日も随分と遠征に出かけました。

野球でお金を使うのだからと、沢山の事を諦めました。

仕事が朝早い為、野球の日は睡眠時間が極端に少なく、常に眠い状態で応援してる時の方が多かった。

楽しかった事より、どうしてか苦しかった思い出ばかりが蘇ります。

しかしそれを思い出した時、悲しい気持ちになる訳ではありません。
何故か笑顔になってしまいます。

統括は出来ないですが、結局全部含めると、笑顔になれる。
そんな23年間だったのではないでしょうか。

カープファンのみなさんがキラキラした目で笑顔で耳をかたむけてくれる。
そんな姿が大好きでした。
幸せでした。
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【9】緋鯉会の後輩へメッセージ

緋鯉会のみんなは、内情はきつい事の方が多い事を身に染みてるはず。
しかし喜びや、やりがいを感じる事は、これ以上にない事も知っているはず。
てっぺん目指して、休む事なくがんばれ!!

去っていく自分が言える事ではないですが…

新しい総代表の山村には、みんなをしっかりまとめて、新しい緋鯉会の色、雰囲気を作ってもらいたい。
過去にとらわれる事なく、山村色の緋鯉会にして下さい。
誰よりも応援しています。
これ以上は直接伝えます(笑)

そして新しく緋鯉会に入る、検討してるみなさん。
一刻も早く入会して下さい!!
覚えるまでは大変だけど、とてつもなくやりがいありますよ。
あなたのやる気をお待ちしています。
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【10】今後、「カープ」と「カープファン」にどうなって欲しいか?
→今後のカープとカープファンに求める事を、いい事も悪い事も含めてガチの意見を聞かせて下さい。

カープというチームに対しては5年後、10年後を見据えた常勝チームになってもらいたいです。
常勝チームという言葉の響きが大好きで、何より目標でした。

誤解を恐れず言えば、ここ何年かで随分と球場の雰囲気が変わりました。

新しいカープファンのみなさんが沢山来るようになりました。

正直こんなはずではなかった。
こんなスタンドじゃなかった。
そんな風に思ってしまう事もありました。

勝ってる時は誰でも盛り上がる事が出来る。
負けてる時程「応援」は必要なはずなのに。
何度となく思った時もありました。

しかし球場に来る全てのカープファンが、同じ「カープファン」です。

浅い深いは関係ありません。

どこの球場に行っても有り得ない程のカープファンで埋まります。

声援で奇跡を生み出す事が出来るはずです。
最後に笑顔になれるよう、どんな時も笑顔で元気に応援して頂きたいです。

それが出来るのは唯一カープファンなのではないでしょうか。
と個人的に思います。
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【11】最後に

今まで沢山ありがとうございました。
本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

自分は共にする事は出来なくなりたしたが、歓喜の瞬間が訪れる事、一番幸せな野球ファンになれる瞬間が訪れる事を切に願っています。

最後まで諦めずに。


またお会いする機会がありましたら、元気にお会いしましょう。

お気をつけておかえり下さい(笑)


心よりありがとうございましたm(_ _)m

全国緋鯉会連合 総代表 苅部安朗

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~取材を終えて~






■23年間の重み

今回、取材して印象に残ったのは、カープの応援団を23年間、本気でやり続けた人の“言葉の重み”だ。

カープが前回優勝したのが24年前…。
やすおさんがカープの優勝を願い、本気で応援団として活動したのが23年間…。

いちカープファンとして、とても考えさせられるエピソードばかりだった。

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■「カープを応援するやすおさん」を応援する人がたくさんいた

「カープを応援する人を応援する人」

考えてみると、少し不思議な現象だ。

では、なぜやすおさんを支持する人が多かったのか?

それは、やすおさんが選手や球団への応援だけでなく「カープファンがより楽しめる応援」を常に意識していたからだ。

『応援団は、負けても「応援は楽しかった」と思わせて帰ってもらうのが大事』というポリシーを語ってくれたやすおさん。やすおさんが代表を務めた応援団は、選手だけでなく、球場に来てくれたカープファンにもエールを送っていた。


23年間、球場でリードをとり、何千人、何万人どころか何百万人のカープファンを楽しませ続けた応援団活動…。


「素晴らしい」という一言だけでは語りつくせない事をやり遂げた“我らが応援団長”に改めて賛辞を送ろう。




「やすおさん、23年間の応援団生活、本当にお疲れ様でした」




選手の数だけドラマがあれば、
ファンの数だけドラマがある。








※当サイトは「カープ」と「カープ選手」だけでなく「カープファン」の活動を応援しています。読者の周りに「こんな人いるよ!」という情報があればTwitterFacebookに連絡を下さい。


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