「青菜に塩」という言葉があるように、植物は塩分に弱いというのが常識です。しかし、乾燥地の土壌は塩分濃度が高い傾向があります。砂漠などの乾燥地では、雨が降っても水分が川となり流れても海に注がず、途中で干上がってしまうことがあります。この時に、川は周囲の塩分を取り込みながら流れます。川が途中で干からびた場合、溶け込んだ大量の塩分が析出し、塩の結晶がキラキラ光って見えたりします。
例えば、中国の乾燥地に生える植物は耐塩性が高いものが多く、ギョリュウ(御柳、タマリクス、Tamarix chinensis)などは余分な塩分を葉から排出するため、葉に塩の結晶がついています。乾燥地は塩分濃度が高くなりがちですから、生える植物も塩分に耐えられるものが多いはずです。
当然ながら、乾燥地に生えるサボテンや多肉植物も、それなりに耐塩性があるのではないでしょうか? この問題に挑んだM. Derouicheらの2023年の論文、『The effect of salt stress on the growth and development of three Aloe species in eastern Morocco』をご紹介しましょう。


230906031750726~2
Aloe vera
Aloe lazaeとして記載。
『Hortus botanicus panormitanus』(1889年)より


モロッコ東部では造園あるいは観賞用に何種類かのアロエが植栽されます。この地域は乾燥し地下水は高い濃度の塩分を含みます。そこで、アロエの耐塩性を調査しました。調査したアロエは、Aloe vera、Aloe brevifolia、Aloe arborescensの3種類です。ポットに植え、4種類の塩分濃度の水を4ヶ月与えました。塩分濃度は、3g/L、6g/L、9g/Lの3種類で、塩分を加えていない群も設定しました。一般的に塩分濃度が3g/L以下を非塩水とされています。

栽培4ヶ月後、アロエは枯れずに育ちました。アロエの葉の枚数を比較すると、塩分を加えていない群と比較して1〜2枚の差がありました。A. veraでは塩分なしと低濃度が11枚、中濃度と高濃度が10枚でした。A. brevifoliaは塩分なしと低濃度が29枚、中濃度が28枚、高濃度が26枚でした。A. arborescensは塩分なしが22枚で、低濃度が20枚、中濃度と高濃度が19枚でした。

次に葉の厚みについては、塩分濃度の影響が割と見られました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で86%、中濃度では65%、高濃度では58%でした。A. brevifoliaは低濃度では98%、中濃度と高濃度では85%でした。A. arborescensは低濃度では77%、中濃度で58%、高濃度で53%でした。

相対含水率では減少しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で90%、中濃度では77%、高濃度では75%でした。A. brevifoliaは低濃度では87%、中濃度で82%、高濃度で77%でした。A. arborescensは低濃度では78%、中濃度で70%、高濃度で81%でした。

クロロフィル含量はわずかに増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で106%、中濃度では99%、高濃度では128%でした。A. brevifoliaは低濃度では106%、中濃度で94%、高濃度で118%でした。A. arborescensは低濃度では85%、中濃度で106%、高濃度で105%でした。

ポリフェノール含量は増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で138%、中濃度では157%、高濃度では201%でした。A. brevifoliaは低濃度では109%、中濃度で156%、高濃度で224%でした。A. arborescensは低濃度では121%、中濃度で132%、高濃度で164%でした。

糖分含量は増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で100%、中濃度では119%、高濃度では126%でした。A. brevifoliaは低濃度では115%、中濃度で180%、高濃度で190%でした。A. arborescensは低濃度では116%、中濃度で164%、高濃度で194%でした。

多糖類含量は増加しました。塩分なしと比較して、A. veraでは低濃度で94%、中濃度では107%、高濃度では115%でした。A. brevifoliaは低濃度では115%、中濃度で202%、高濃度で211%でした。A. arborescensは低濃度では114%、中濃度で169%、高濃度で203%でした。

以上が論文の簡単な要約です。
アロエはかなり高い塩分濃度にも耐えられることが明らかとなりました。4ヶ月の試験で枯れた個体はありませんでした。しかし、葉の枚数の減少は微妙ですが、葉の厚みは大幅に減少しています。含水率の低下とも関係があるのかも知れません。いずれにせよ、高濃度の塩分でも耐えられはするものの、生長は遅くなるのでしょう。糖分とポリフェノールが増加しましたが、糖分やポリフェノールは浸透圧調整に働き脱水を軽減するそうです。

3種類のアロエの中では、Aloe brevifoliaが最も耐塩性が高いことが分かりました。葉の含水率は低下しても、葉の厚みはそれほど減少していません。また、ポリフェノールや糖分の上昇が激しく、塩ストレスに対して活発に働いているようです。
読んでいて気になったのは、3種類のアロエのそれぞれの自生地の塩分濃度です。環境への適応という意味では、Aloe brevifoliaの自生地には塩分濃度が高い地域があるのではないでしょうか? 


ブログランキング参加中です。
クリックしていただけますと嬉しく思います。

にほんブログ村 花・園芸ブログ 塊根植物・塊茎植物へ
にほんブログ村

にほんブログ村 花・園芸ブログ サボテンへ
にほんブログ村