乾燥地ではほとんど雨が降らない地域もありますが、地形や立地、風向きなどにより霧が発生する場合があります。例えば、山地や海に近い場合などです。霧が発生すると、植物や土壌表面には露がつきます。植物についた露は、植物を伝って根元に集められますから、乾燥地の植物にとっては大変貴重な水分となります。では、サボテンはどうでしょうか? サボテンは葉はありませんが、代わりにトゲがあります。トゲを伝って露を集めることは可能でしょうか? というわけで、本日はサボテンと露の関係を試験した、F. T. Malikらの2016年の論文、『Hierarchical structures of cactus spines that aid in the directional movement of dew droplets』をご紹介しましょう。

アタカマ砂漠は地球上で最も乾燥した場所です。アタカマ砂漠にはCopiapoa cinerea var. haseltoniana(=C. gigantea)が自生していますが、Copiapoaのトゲが露を集めることが観察されています。また、他の地域からも露を集めるサボテンの報告があり、報告されたMammillaria columbiana subsp. yucatanensisとParodia mammulosa、さらにC. cinerea var. haseltonianaの露とトゲの関係を詳しく調べました。また、そのトゲが露を集めないと言われるFerocactus wislizeniiを比較のためにともに調べました。

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Mammillaria columbiana subsp. yucatanensis
Neomammillaria yucatanensisとして記載(上)。
Neomammillaris graessnerianaとして記載(中)。

Neomammillaria woburnensisとして記載(下)。
『The Cactaceae vol. 4』(1923年)より

サボテンを野外に置き、夜露が発生する様子をタイムラプスで撮影しました。また、トゲで集められた露がどのように吸収されるかを知るために、蛍光剤を水に混ぜた蛍光標識水にトゲを浸しました。また、MRIで断面を撮影しました。さらに、トゲの表面の微細構造を電子顕微鏡で観察しました。

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Parodia mammulosus(左上)
Malacocarpus mammulosusとして記載。
『The Cactaceae vol. 3』(1922年)より


Copiapoaのトゲは、重力に逆らっても水滴は基部に向かうことが分かりました。また、蛍光標識水はアレオーレを通って吸収されたことが分かりました。
電子顕微鏡の観察では、CopiapoaとMammillaria、Parodiaではトゲの表面は繊維状の溝からなっていました。溝は先端と基部近くでは溝の深さや細かさが異なり、粗さの勾配により水を輸送している可能性があります。F. wislizeniiのトゲの表面は、大きな逆剥けのような突起に密に覆われており、水の輸送を妨げているようです。Copiapoaのトゲの表面にも突起は観察されましたが、小さく数も少ないため、水の輸送を妨げていないことが分かります。この突起はMammillariaとParodiaでもわずかに見られましたが、トゲの表面に水滴を形成する働きが予想されます。CopiapoaとMammillaria、Parodiaのトゲは親水性で濡れ性が高く、Ferocactusのトゲは疎水性で濡れ性が低いことが分かります。


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Ferocactus wislizenii(下)
『The Cactaceae vol. 3』(1922年)より

以上が論文の簡単な要約です。
乾燥地に生えるサボテンは、根からだけではなく、トゲを利用してアレオーレから水分を吸収する仕組みがあることが分かりました。サボテンが工学的な発想で研究されることは珍しく、非常に面白い論文でした。しかし、アレオーレからの吸水を知ってしまうと、その効果を試してみたくなります。どなたか、試してみたいという方はいらっしゃいませんかね? 


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