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在留資格のない心臓疾患のクルド人少年 仮放免者、医療から疎外

自宅で話すキジル・メメットさん(左)と父バイラムさん=埼玉県川口市で2022年4月17日午後7時56分、井田純撮影
自宅で話すキジル・メメットさん(左)と父バイラムさん=埼玉県川口市で2022年4月17日午後7時56分、井田純撮影

 日本の在留資格を失ったものの、さまざまな事情で出身国に帰れない外国人たちの苦境が、コロナ禍でさらに深刻化している。心臓疾患と闘う1人のクルド人少年の現状と医療現場・支援団体の取り組みを通して、出入国在留管理庁の外国人政策について改めて考えた。

 「今のままでは再発を繰り返すことになります。手術による治療をお勧めします」。4月2日、埼玉協同病院(埼玉県川口市)の診察室。キジル・メメットさん(14)が医師から病状の説明を受けていた。息子の隣で話を聞いていた父バイラムさん(44)は、思わず表情を硬くした――。

 キジルさん一家はトルコ出身で「国を持たない世界最大の民族」といわれるクルド人。トルコのほかシリア、イラン、イラクなどにまたがる地域に住み、一方で少数民族として各国で差別や排斥の対象となってきた。川口市を含む埼玉県南部には、母国での迫害を逃れた2000人規模のクルド人コミュニティーがあると見られる。キジル家もこの地域に暮らし、メメットさんは地元の公立中学校に通っている。

 メメットさんはここ数年、前触れなく脈拍が速くなる発作に苦しんできたといい、「発作性上室性頻拍」と診断されている。不整脈の一種で、血圧低下や失神などの症状に至るケースもあるとされる。

 「胸が苦しかったり、痛くなったりすることもあります。座っているだけで息切れする時もある」。最近では、足の感覚が鈍くなり、手や舌がうまく動かせなくなる症状もある。バイラムさんは「発作の時は、首の血管のところが『トトトト』と動いているのが見て分かるほどです」と言う。これまで、発作が治まらない時は病院に搬送され、点滴で症状を抑える処置を繰り返してきた。だが、根治にはカテーテル手術が必要という。

 問題は治療費だ。見積額で約150万円という手術費用は、健康保険に入っていれば高額療養費制度の適用を受けることができ、医師は「自己負担額は5万~10万円程度」と説明する。

 キジル家も一昨年まで健康保険に加入していた。だが、昨年初め、約5年前の来日以来認められてきたバイラムさんの在留資格が突然不許可となった。これに伴って、次男メメットさんを含む家族が健康保険を失った。メメットさんが学校で倒れたのはその直後だったという。「家族のためにも、一番大事なのは健康保険だと思って保険料をずっと、きちんと払ってきた。なのに保険がなくなった後にこんなことになるなんて」。バイラムさんが肩を落とす。

 メメットさんの病状について担当医は「すぐに命に関わるようなことはない」としながらもこう続ける。「このまま同じ発作を繰り返していると、患者の正常な発育や教育機会にも影響しかねない。家族にとっても負担になるため、早期の治療が望ましいのですが……」

入管の外国人政策 生活「苦しい」9割

 キジル家のように、在留資格を失ったものの入管施設への収容を免れ、地域社会で生活する「仮放免者」の境遇は、コロナ禍の影響もあって厳しさを増している。仮放免者の医療・生活支援を続けてきたNPO法人「北関東医療相談会」(群馬県)が、昨年10~12月に関東甲信越在住の外国人450人を対象に行った調査から、その一端が浮かび上がる。

 報告書によると、1日の食事は「1回」が16%、…

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