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【特別対談】『ストリートファイター6』中山貴之・松本脩平 ×『ゼンレスゾーンゼロ』李振宇―「触りやすさ」と「奥深さ」をどう両立する? 娯楽が溢れる現代で「ゲームの面白さ」を知ってもらう方法

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「面白さをより多くの人に知ってもらう」には、どうすればいい?

李氏:
ちょっと個人的な感想なのですが……『スト6』における、ワールドツアーやモダン操作なども、新たなユーザー層を取り入れるために制作されたシステムですよね。個人的に、このふたつのシステムは上級者だけでなく、初心者のプレイヤーのためにデザインされているとも感じていました。

やはり「ゲームデザイン」というものは、どれだけ制作側が面白いと感じていても、最終的にできあがった時、ユーザーにとってはどこが面白いのかわからなくなってしまうところがあると思います。そして、ユーザーはどんどんゲームから離れていってしまう。

ですが、『スト6』に搭載されているドライブシステムやモダン操作は、とにかく「この面白さをより多くの人に知ってもらうため」に作られているように感じていて……そこがすごいと思います。もちろん過去作にも「『ストリートファイター』の面白さを知ってもらう」仕組みは多くありましたが、今作は特に多くの方に向けられていますよね。

──『ゼンゼロ』にも、そういった「多くの方に面白さを知ってもらうため」の意図が込められているのでしょうか?

李氏:
まさに、私たちも『ゼンゼロ』を制作する中で同じ考えを持っていました。

正直なところ、開発初期の頃に『ゼンゼロ』のアクションはユーザーにとって面白くないんじゃないかと感じた時期もありました……。ただ、そこで「ユーザーに面白さを知ってもらうための仕組みを考えよう」と、方針を変えることにしました。

それが、さきほどの「ユーザーに爽快感を感じてもらえるアクション」にも繋がってきます。より早くプレイヤーにアクションの爽快感を伝えることができれば、より早く面白さを理解してもらえる。

この根本的な「ゲームの面白さを知ってもらうためのシステムづくり」という点において、『ゼンゼロ』と『スト6』は考え方が近いのではないか……と感じていました。

実際、中山さんは『スト6』を制作される時、この「面白さを伝える」ということに関して、どういったことを考えられていたのでしょう?

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(画像はCAPCOM:STREET FIGHTER V CHAMPION EDITION 公式サイトより)

中山氏:
それは、自分が『ストⅤ』に携わるところから話す必要がありますね。

さきほどの話の続きになってしまうのですが、自分は一度カプコンを辞めて、そこからもう一度対戦格闘ゲームを作るために、カプコンに戻ってきました。その頃、実は僕が再入社する2~3年前から、『ストⅤ』の開発が動いていたんです。

ただ、そこで自分のところにやってきたのが……「まだ世に出ていない『ストリートファイターⅤ』というゲームがとんでもない状態になっているので、なんとかしてほしい」という無茶振りでした。

一同:
(笑)。

中山氏:
しかも、「期限は1年半」とも言われていて(笑)。

ただ同時に、「こんなチャンスはないし、なんとかしなきゃな」とも思いました。
そこで、『ストⅤ』に途中参加する形となりました。

その時、具体的に開発チーム内で起こっていた問題が、「クリエイターがやりたいこと」と「お客さんが遊んだ時に楽しいと思うこと」が、めちゃくちゃ乖離していたということです。要するに、「『ストリートファイター』が好きな人は喜ばないだろう」という尖った作り方をしていました。そして、自分はそれを『ストリートファイター』風に仕上げていくのが、主な業務でした。

だけど、「出来かけのものを『ストリートファイター』風にしていく」ことが当時の主な業務だったから、「自分のやりたいこと」は100%入れられませんでした。

──その「中山さんのやりたいこと」が、『スト6』の制作に繋がってくるのでしょうか。

中山氏:
まさにそうですね。

『ストⅤ』の開発に携わっていた時、「もし自分がイチから立ち上げたとしたら、もっとこうすればお客さんに喜んでくれるんじゃないか」、「より多くの人に『ストリートファイター』を楽しんでもらうためには、もっとこうした方がいいんじゃないか」といったことは、ずっと考えていたんです。

そして実際に立ち上げる時に、自分の中で考えていたビジョンが松本プロデューサーとほぼ合致していました。それがあったからこそ、『スト6』を作り上げることができたのだと思います。ある意味、自分の中では「リベンジ」の側面もありました。

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中山氏:
さきほど李さんから「アクションゲームと対戦格闘ゲームの共通点」についてお話されていましたが、同時にひとつ「明確に違うところ」もあって……それは「対戦相手がいればめちゃくちゃ面白い」ところです。

まず対戦相手がいて、そこからお作法やルールが分かれば、すごく入りやすい。そして一度入ってしまえば、裾野が広がっていく奥深さが対戦格闘ゲームの魅力だと思います。ただ、今までの『ストリートファイター』シリーズは、その面白さを「勝手に覚えてもらう」方針だった。要するに、友達を見つけて、プレイヤー側で自発的にその楽しさを見つけてもらっていた……と、自分は思ったんですよね。

そこに対して、「どうすれば対戦格闘ゲームというものを、楽しみながら覚えられるか」ということを、『スト6』では重視しました。李さんにも挙げていただいた「ドライブインパクト」や「ドライブパリィ」なども、実はこちらで用意した「難易度曲線」のうちのひとつなんです。

まず入りたての人はドライブインパクトで戦える爽快さを感じてもらい、そこからの「ドライブラッシュ」などは上達した人が使える「伸びしろ」になっている。そこの「これを覚えたら、次はこれを覚えられる」までの流れを、ゲームモードとシステムをセットにして階段状に作っていきました。

李さんはそこの流れを体感して、『ゼンゼロ』との類似点を感じてもらえたんじゃないかなと(笑)。

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(画像は#002 ドライブラッシュのひみつ|開発コラム|STREET FIGHTER 6(ストリートファイター6)|CAPCOMより)

「触りやすさ」と「奥深さ」を、どう両立するのか

──ここまで「ゲームの触りやすさ」について語っていただきましたが、ゲームにおいて「触りやすさ」と「奥深さ」は、対立する部分になってしまうとも思います。『スト6』と『ゼンゼロ』は、どのように「触りやすさと奥深さ」を両立されているのでしょうか?

松本氏:
まず、『ストリートファイター』って遊んだらめちゃくちゃ面白いゲームなんです。

それこそ『ストII』【※6】の頃に一度ドカンと流行って、どこを見ても大人から子どもまで『ストリートファイター』を楽しんでいた時期がありました。もちろんそれは今でも続いていると思うのですが……同時に、昨今は「面白いと感じるところまで行く」のが難しくなってきているとも感じていました。

今は「娯楽」が溢れているし、その中で選んでもらうのはすごく難しい。『スト6』では、そこに対してどのようにアプローチをしなければいけないのかを考えていました。結果としてモダン操作やワールドツアーを追加したのですが……このふたつのモードを作るうえで一番大切にしていたことが、「初心者向けではない」ということです。

大前提の「ゲーム自体の楽しさ」は開発メンバーが奥深く作りこんでいる。だから、モダン操作などはそこの「楽しさ」に到達するまでの特急券のようなものをシステム的に提供したいと思っていました。そこは、狙い通りに楽しんでもらえましたね。

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※6「ストリートファイターII」
カプコンが制作した対戦型格闘ゲーム。攻撃の強弱を別ボタンにわけ、それらの組み合わせによるコマンド入力によって必殺技の発動するシステムを確立したことで、1作目からゲーム性が大幅に変化した。爆発的なヒットを記録し、対戦型格闘ゲームのブームを引き起こしたと言われている。(画像はストリートファイターII 日本語版 | レトロゲームズ | カプコンタウンより)

松本氏:
やっぱり「ゲーム」だから、まず最初に触った時点で「波動拳のような必殺技を出したい」「ここで昇龍拳を出したい」といった気持ちはあるじゃないですか。それを直感的に頭で思った時に、思考がすぐ指に伝わり、必殺技を繰り出せるというモダン操作の感覚は、結構意識して作ってもらいました。

対戦格闘ゲームの場合、やっぱり「新しく入ってきた人」と「昔から遊んでいる人」の間では相反するところがある……けど、モダン操作においてそれをどれだけ解消できるかは、元々作ってる段階からすごく注意深く考えていたし、開発チームにも入念に作ってもらえていました。

だから、プロデュース側としては、すごく自信を持てていましたね(笑)。

そしてモダン操作を作れたことにより、格闘ゲームが初めての方、別ゲージャンルを遊んでる方(ストリーマーやVtuber含め)、「昔はやってたけど今は操作が難しくてできない」という方にも、楽しく遊んでもらえるようになっただろうと。

そこに合わせて、多くの人が「『スト6』自分もできるかも?やってみようかな?」と思えるようなプロデュースができた……というのが、プロデューサーの僕目線では大きなところですね。

中山氏:
あと、そもそもモダン操作を作ろうと思った理由のひとつに、初代『ストリートファイター』【※7】の存在があるんですよね。一番最初の『ストリートファイター』って、現在の「対戦格闘ゲーム」の少し前の段階というか……どちらかというと「空手格闘シミュレーター」みたいな側面があったんです。

だから、ちょっとした隠し要素みたいな感じで「必殺技」が用意されていたんですよね。波動拳や昇竜拳なども、隠しコマンドで出るような形でした。めちゃくちゃ難しいコマンドなんだけど、当たったら本当に一撃必殺で勝負が決まる。そんな面白さが初代『ストリートファイター』にはありました。

『ストII』は、そこに対して「もっと簡単に必殺技が出た方がよくない?」と考え、コマンド入力の猶予や受付時間が緩くなりました。あとは溜めコマンドやボタン連打など……とにかく、必殺技の敷居が下がったんですよね。

だから、「必殺」と言っても「必ず殺す技」というわけではなく、「強い技」「出たら嬉しい技」といった位置付けになりました。そこからさらに時代が流れ、今は「それでも必殺技が難しい」という時代になっているなと思っていて。

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※7「ストリートファイター(初代)」
カプコンが制作した対戦型格闘ゲーム。『ストリートファイター』シリーズの第一作目。アーケード版では、「ボタンを押す強さによって攻撃の強弱を使い分ける」という特徴的なシステムが搭載されていた。(画像はファイティング・ストリート | CAPCOMより)

中山氏:
そんな時代だからこそ、「別にボタンひとつで波動拳が出て、なにかマズいことある?」と思い続けていました。……と言いつつ、元々自分自身が格闘ゲーマーだから、「それだと問題が起きる」ことも重々承知していました。それでも、そこを一度ぶっ壊して、チャレンジしてみないと何も変わらないなと思ったんです。

それこそ、初代『ストリートファイター』から「昇龍拳って難しい、自分には出せないかもしれない」という必殺技の敷居に挫折をしてきた人は、いっぱいいるはずなんです。そういう人たちにまず「自分にも昇龍拳を出せる」という体験をしてほしかった。

そこがモダン操作の難しさとカジュアルさの難しい線引きだったのですが、自分としてはどうしてもチャレンジしたかったんです。

李氏:
『スト6』のそういったシステムは、ただ「初心者にも楽しんでもらう」だけではない狙いがあったんですね。

そして『ゼンゼロ』における「極限回避」や「極限支援」といったシステムの始まりもある意味、中山さんと松本さんのおっしゃってくれた「楽しさに到達するまでの特急券」や「“自分にも必殺技を繰り出せる”という体験をしてほしい」といった狙いに近いというか……。

このシステムはアクションが苦手なユーザーの方にも「自分にもこんなにすごいプレイができるんだ」「こんなに華やかな技を繰り出せるんだ」といった自信を持ってもらい、「アクションの楽しさ」を理解してもらえることを考えた上で制作しています。

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(画像はファイティンググラウンド|STREET FIGHTER 6(ストリートファイター6)|CAPCOMより)

中山氏:
そこに加えて、もうひとつ自分が「意図してやりたかったこと」があります。

格闘ゲームの対戦画面って、やっぱり用語や覚えなきゃいけないことが多くて。だから、初めてプレイした人や、観戦している人にも「いますごいことが起きているぞ」ということを視覚的に理解してもらいたかったんですよね。

たとえば、自分の好きなVTuberの方が『スト6』の大会に出た時、その配信を観戦している人にも一緒になって「うおお!」と盛り上がってほしかったんです。

そのために、ドライブインパクトがカウンターヒットした時に、画角が変わったりスローモーションの演出が入ったりするようにしました。もっと言うと、ゲーム側で「自動実況」を入れたのもそういった意図があります。とにかく、「いますごいことが起きたんだぞ」ということを、わかりやすく体験してほしかったんです。

要は、このふたつが「セット」なんですよね。自分が出せなかった必殺技が気軽に出せる体験も楽しいし、観戦しているだけでも「すごいことが起きている」ことがわかる。さらにそこから「奥深さ」を知りたくなったら、いろいろなテクニックも用意されている。そこは、実際に上達しないと行きつかないところになっている。

そんな、視覚的にもわかりやすいし、直感的にも「触ってみたいな」と思える対戦格闘ゲームを作りたかったんです。

李氏:
『スト6』の「触りやすさ」は、そこまで考えられていたんですね……!

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李氏:
私は、アクションゲームの根本にあるものは、簡単な難易度から徐々に難しくなっていく「ユーザーの学習過程」だと思っています。アクション自体には魅力があるから、それを徐々に学習してもらう時間とプロセスが重要……そして、その先にある「もっと面白い部分」や「深み」を知ってもらうことが、私たち開発者の目的です。

だから、中山さんと松本さんがおっしゃってくれたように、「制作側からユーザーに自信を与える」ということは、すごく大切ですよね。そして、「自分にもこのゲームを上手くプレイできる」ということを理解してもらい、自信を持ってもらうまでの過程のデザインを、私たちは『ゼンゼロ』を制作する中で繰り返し研究してきました。

──それは、具体的にどういった研究なのでしょうか?

李氏:
主に、ユーザーの「ゲームから離脱するタイミング」を分析していました。

なぜユーザーはここで「もう遊びたくない」と考えてしまうのか? なぜそのタイミングで離脱するのか? どうしてこの地点に到達したら、ゲームを進行したくなくなってしまうのか? ……そういった、「次に進めなくなる理由」を研究していたんです。

だからこそ、プレイしたユーザーの「学習の過程」を大切にしようと考えました。

その研究の結果として、ユーザーのプレイスキルの成長度合いは主に「前期」「中期」「後期」の3段階に分けられると判断しました。『ゼンゼロ』の手触りや難易度の調整は、この3段階をベースとした上で行っています。

まず、「前期」は、今作の舞台となっている「六分街」や、魅力的なキャラクターなどを楽しんでもらう……いわゆる「入口」の部分ですね。そこから「中期」では、キャラクターの育成、チームの編成、アクションにおける連携の楽しさなどを楽しんでもらう。そして「後期」では、高難易度を攻略する楽しさが用意されています。

高難易度では「極限支援」の反応時間も短くなり、ボスの攻撃パターンも多くなります。誰でも触りやすいアクションを意識していますが、同時に歯応えのある難しさもご用意しています。

そして、誰もがこの「前期」から「後期」に至るまでの過程を楽しんでほしい。アクション慣れしているユーザーから、初心者のユーザーにもその過程を楽しんでもらえるようなゲーム作りこそが、我々開発陣のタスクだと捉えています。

【特別対談】『ストリートファイター6』中山貴之・松本脩平 ×『ゼンレスゾーンゼロ』李振宇_021
『ゼンゼロ』において探索できる「六分街」。ラーメン屋からゲームセンターまで、たくさんの施設が用意されている。
【特別対談】『ストリートファイター6』中山貴之・松本脩平 ×『ゼンレスゾーンゼロ』李振宇_022
李さん曰く「中期」に相当するキャラクターの育成要素。今作は育成やステータス画面もなんだかオシャレに仕上がっている。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
転生したらスポンジだった件
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電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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