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    夢見るハタチ
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    忘れ去られた男
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    揺れるアメリカ
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    アメリカが、割れている。

    人種や世代、住む場所によって「あちら」と「こちら」に分かれ、互いに交わらない。加速度的に分極化が進んでいる。新型コロナウイルスの感染拡大や人種差別への抗議デモで、以前からあった隔たりは一層あらわになった。

    11月の大統領選でもぶつかる「ふたつのアメリカ」は今後、さらに遠ざかるのか。あるいは、一つにまとまることができるのか。その答えを見つけようと、分極の源流を探った。

    都市と地方の違い

    数字は%。2018年、ピュー・リサーチ・センター調べ

    • 56

      白人の割合

      79
    • 35

      移民は伝統的な米国の価値観を脅かすと思う

      57
    • 59

      白人は黒人と比べて恵まれていると思う

      47

    ヒスパニック系の家族がそばで談笑し、食事をデリバリーする黒人男性が自転車で駆けていく。新型コロナウイルスに奪われた日常を少しずつ取り戻すニューヨークで、白人の彼女は生きる。

    大きな夢がある。この街を知ったいま、故郷には戻れない。

    • Elizabeth Chapa
    プロフィル
    故郷
    オハイオ州デラウェア郡
    生まれ
    2000年4月6日
    Z世代(ジェネレーションZ)
    支持政党
    民主党
    住まい

    経歴

    18歳まで、白人が9割弱を占める故郷で育つ。小中高はいずれも公立校で、家族は共和党支持者。

    ブロードウェー俳優をめざして2018年10月にニューヨークへ移り、多くの有名俳優が輩出した専門学校を今春に卒業。年間4万2千ドル(450万円)の学費は奨学金と貯金、バイト代でまかなった。

    現在は友人の親族宅に住み、ファストフード店でアルバイトをして生活費を稼ぎながら、歌やダンスのレッスンに励む。

    バイトの合間をぬって、「ブラック・ライブズ・マター」(黒人の命も大切だ)の抗議デモに出かける。そこには、故郷にはなかった景色が広がる。多様性に彩られる街は「これこそ、アメリカの縮図だ」と確信している。

    なぜデモに参加するのか

    いつだって政治を決めてきたのは経済的に豊かで、年配の白人たちだ。でも、彼らはアメリカという、人種のるつぼを代表していない。デモを単なるムーブメントで終わらせちゃいけない。

    ニューヨークについて

    米国で何かが起きると、ここはすぐに反応する。みんなまとまっていて、愛し合っている。希望と未来が、ここに詰まっている。

    大統領選について

    共和党員の母親に「トランプに今回は投票しないよね」と聞いた。でも、答えは「良い人とは思わないけど、わからない」。なぜなのか、わからない。

    ニューヨーク市は民主党が盤石

    青は民主党候補、赤は共和党候補が勝利。色が濃いほど、勝利した候補の得票率が高い

    • 2004
      ジョージ・W・ブッシュ
    • 2008
      バラク・オバマ
    • 2012
      バラク・オバマ
    • 2016
      ドナルド・トランプ

    「黒人の命の重さは、白人と同じ重さでなくてはならない」と言うチャパさん。デモで聞くと、心が揺さぶられるフレーズがある。

    “ Show Me What Community Looks Like! ”

    “ This Is What Community Looks Like! ”

    ニューヨークにいると、心から「ここがホームだ。コミュニティーだ」と感じる。みんながみんな、違う。見た目やライフスタイル、考え方も、すべてが違う。そんなニューヨークが、私には合っている。

    「みんな違う、それがいい」NYで夢見るハタチのBLM
    今回の大統領選では、2000年以降に生まれたチャパさんらのような若者が、初めて票を投じる。「世代」や「地域」でなぜ、投票先に差が出るのか。チャパさんの半生から見えてくるのは――

    忘れ去られている。父親も、自分も。

    この国に生まれ育ったのに、この国に置き去りにされている。長らくそう感じてきた彼は、この4年間で、アメリカとの「つながり」を見いだした。

    • James Alicie
    プロフィル
    故郷
    ウェストバージニア州
    ブルーフィールド
    生まれ
    1958年5月4日
    ベビーブーマー
    支持政党
    共和党
    住まい

    経歴

    ウェストバージニア州の炭鉱が盛んだった地域で生まれ育つ。父親は72歳まで炭鉱で働き、民主党支持者だった。

    高校を卒業後の1977年から、オハイオ州に暮らす。長らく自動車修理工として働いたが、最近は体調を崩して開店休業状態。23年連れ添った妻を昨年亡くし、自宅を売り払って賃料月1千ドルの事務所を寝床にしている。

    自称「オールド・カントリー・ボーイ」(年老いた田舎者)。毎日バドワイザーを飲み、手巻きたばこをたしなむ。

    民主党員になるぐらいなら、ロシア人になりたい――。2年前、ジョークのつもりでTシャツに記した一文は、いまや本気の願いになった。都会は好きじゃない。田舎者でいい。「世界一の場所」だと信じたこの地に、根を張り続ける。

    トランプ大統領を支持する理由は

    彼は、私と心が通じ合っている。多くの私の友だちもそう。トランプみたいな大統領はいなかった。誇りに思う。人生最高の大統領だ。

    この国の「分断」はトランプ氏が一因では

    民主党がすべての原因だ。エネルギー業や製造業がなくなった。やつらはこの国のためにならない。

    「ブラック・ライブズ・マター」運動について

    テロリスト集団だ。プロパガンダだ。白人の命だって大事だ。みんなの命が大事だ。もう21世紀なんだぞ。彼らはただ、国民同士で内戦を起こそうとしているんだろう。

    オハイオ州とデラウェア郡の大統領選結果

    • 選挙年
      大統領当選者
    • 1964
      リンドン・ジョンソン
    • 1968
      リチャード・ニクソン
    • 1972
      リチャード・ニクソン
    • 1976
      ジミー・カーター
    • 1980
      ロナルド・レーガン
    • 1984
      ロナルド・レーガン
    • 1988
      ジョージ・H・W・ブッシュ
    • 1992
      ビル・クリントン
    • 1996
      ビル・クリントン
    • 2000
      ジョージ・W・ブッシュ
    • 2004
      ジョージ・W・ブッシュ
    • 2008
      バラク・オバマ
    • 2012
      バラク・オバマ
    • 2016
      ドナルド・トランプ
    • 2020

    オハイオ州は選挙ごとに勝利する候補の政党が変わる「激戦州」だ。1964年以降、激戦州のここで勝った候補がホワイトハウスへのチケットを手にしてきた。「オハイオ州を制する者が大統領選を制する」といわれている。

    その中でデラウェア郡は、1920年以降の大統領選ですべて共和党候補に投票してきたような「真っ赤な」場所だ。人種構成では白人が86%を占め、裕福な白人が好んで居住するエリアと言える。

    アメリカ合衆国(The United States of America)にいまや、まとまり(Unity)はない。「悲しいことだ」とアリシーさんは思う。それでも、ニューヨークに住んでいる若者と、年老いた田舎者(old country boy)の自分が、わかりあえるとは思わない。

    “ Above all, it is important that my life is guaranteed ”

    俺はこの偉大な国で生まれ育ったアメリカ人だ。トランプ大統領の下で、メイド・イン・アメリカの商品が増えただろう。誰が誰だかわからない人間が、ノックもせずに自宅に入ってきて走り回るのは嫌だって、そんなものは常識だ。

    「大統領がなんとかしてくれる」忘れ去られた男の希望
    2016年の大統領選でトランプ氏が勝利した背景には、中西部などを中心とした「白人労働者」の固い支持があった。彼らが米国に抱く気持ちは、ニューヨークなど都市部の有権者とは、まるで異なる。

    白人のマイノリティー化

    白人が主人公という米国の「見た目」は、急速に変わっている。

    米国は、建国当初から移民を受け入れてきたが、欧州にルーツを持つ「白人」が常に多数派を占めてきた。だが、中南米などスペイン語圏出身のヒスパニックを除いた白人は2045年には人口の過半数を割ると予想されている。

    アメリカの人種別割合の推移と予測

    人口構成が変わるきっかけとなったのは、1965年の移民法改正だ。それまでは移民受け入れにあたって出身国ごとに割り当てを決めていたが、「人種差別的だ」との理由で撤廃し、ヒスパニックやアジア系の移民が増え始めた。その波は現在も続いている。

    移民の変化

    米国は「移民の国」を掲げ、ほとんどの国民が移民の子孫だ。だが、移民による摩擦も常に起きてきた。現在も「最近の移民」への不満を抱く人が少なくない。「かつての移民」と「最近の移民」という二分法も用いられている。

    米国に住む移民の出身地域

    2018年現在。Migration Policy Institute調べ。数字は人

    ヨーロッパ
    4,750,000
    アジア
    12,960,000
    中南米・カリブ
    22,510,000

    「かつての移民」は欧州からの移民を指していることが多い。19世紀半ばから増えた、東欧からの移民やカトリック教徒は当初激しく差別され、20世紀初頭には移民を制限する法律ができた。しかし、「かつての移民」のほとんどは白人だったうえ、時の変遷もあって子孫は「立派な米国人になった」と理解されている。

    一方、「最近の移民」は欧州よりも中南米やアジア出身者の方がはるかに多く、白人が少ない。移民1世で、英語を話さない人も少なくない。米国勢調査局によると、自宅で英語を話さない人の割合は1980年に11%だったが、2018年には22%と倍増した。

    移民が多様化することにより、米国に持ち込まれる生活習慣や言語も増えている。「かつての移民」と比べて同化するだけの時間も経っておらず、「自分たちの文化を維持している」と批判されることも多い。

    大統領選への影響

    米国において白人が主流派でなくなりつつあることは、政治や二大政党の動向にも多大な影響を与えている。

    2012 大統領選 出口調査人種別獲得票の割合

    数字は%。米メディアの世論調査から

    民主党は多様性を掲げる。1960年代に民主党政権で公民権法が成立したことを機に黒人の大多数の支持を集めるようになり、近年はヒスパニックやアジア系の支持も厚い。その象徴は、2008年と12年に当選したオバマ前大統領だ。

    2016 大統領選 出口調査人種別獲得票の割合

    数字は%。米メディアの世論調査から

    一方、共和党は白人の支持を集めることに成功してきた。16年の大統領選ではトランプ大統領が白人の58%の支持を得て勝利した。今も有権者の約7割を占める白人票を固めることの強さを見せた。

    トランプ氏の支持は、白人の中でも大学を卒業していない人や、地方在住者に高いことが特徴だ。16年の大統領選では大学を卒業した白人の支持率はクリントン氏とほぼ一緒だったが、卒業していない人では67%対28%と、40ポイント近い差だった。学歴で支持候補の差がこれほど出ることは、過去にはなかった。

    2020 大統領選

    今年の大統領選でも、同じような対立構図となる。トランプ氏は各地で大勢の白人を前に「偉大な米国を取り戻そう」とメッセージを送る。対する民主党は予備選を通じて、やはり白人労働者層に人気が高いバイデン前副大統領を選んだ。ただ、バイデン氏が副大統領候補として指名したのは、父親がジャマイカ出身、母親がインド出身のカマラ・ハリス上院議員で、多様性もアピールする。

    2020年の大統領選では、「米国の自画像」も争われている。選挙を経て米国内の分極化がさらに進むのか。あるいは、一つにまとめることができるのか。この点が勝敗以上に重要ともいえる。

    分極社会 2つのアメリカ

    分断社会の説明がここに入ります。分断社会の説明がここに入ります。分断社会の説明がここに入ります。

      翻译: