周南署

 第一生命保険の元営業社員女性(89)が周南市で在職中、顧客から現金をだまし取ったとして、周南署は19日、この元社員を詐欺容疑で山口地検周南支部に書類送検した。

 書類送検容疑は、2019年2月下旬ごろ、同市内で法人理事の70代女性に「私には地位があるから社内に特別枠がある」「会社がお金を運用してくれて、半年で3割の利息が付く」などとうそを言い、同年3月上旬〜4月上旬、現金計1億8千万円をだまし取った疑い。周南署は元社員の認否を明らかにしていない。

 第一生命は元社員を昨年7月に解雇し、刑事告発していた。同署によると、今回の被害者を含め顧客25人で計約22億円の被害を把握したという。第一生命が公表した24人の計約19億5100万円の被害よりも多い。同署は「今後も被害額は増える可能性がある」とみて捜査を進める。

 ▽動機や使途、解明急務

 周南署が詐欺容疑で書類送検した第一生命保険の元営業社員女性(89)は社内で唯一の「特別調査役」の肩書を誇示し、山口県内で詐取を繰り返していたとみられる。巨額の現金を集めた動機や使途など全容の解明が急がれる。

 第一生命の社内調査によると、2002年から解雇した20年までの長年にわたって不正が続いた。同社は勤続55年の元社員に特別な肩書のほか、周南市の徳山分室に個室を与えるなど厚遇。政財界の地元有力者を招いて元社員の功績をたたえるパーティーも開催され、信用を高めていた。

 同社は「例外的に許されるはずといった特権意識による正当化があった」と認める。事件を受けた全契約の調査で、他にも営業社員が顧客から現金を詐取した不祥事が全国で相次ぎ発覚した。事件の背景として現場の管理体制や企業文化の問題も指摘されている。

 被害者は元社員や第一生命に対して損害賠償を求める訴訟も起こした。ただ、元社員は認知症を理由に成年後見人を立てた。被害者弁護団の一人は「高齢だからといってうやむやにせず、しっかり刑事責任を追及してほしい」と求めた。(川上裕)