2016年シーズンをもって活動終了となったファジアーノ岡山ネクスト。

地域決勝を勝ち抜きJFLへ昇格した偉大なチームは、様々な個性が集まるJFLの舞台で、Jリーグクラブのセカンドチームという個性を存分に発揮してくれました。愛するチームと向き合い、最後まで見届けたサポーターからコラムを寄稿頂きました。是非、ご一読ください。

コミュサカ@管理人

はじめに ~トップチームJ1昇格に懸けた想い

2016年12月4日、キンチョウスタジアム。
 
ファジアーノ岡山はJ1昇格プレーオフの決勝に駒を進めた。各地から集った約3,500人のファジアーノサポーターは皆、勝利の先にある輝かしい未来を夢見ていた。もちろん、僕もその中の一人だった。
 
「J1に昇格して岡山の街がもっと盛りあがってほしい。その為にはこの試合を勝ちたい。」そして、「ファジアーノ岡山ネクストというチームを一年でも早くU-23チームとして再生させたい。その為には何がなんでもこの試合を勝ってJ1に上がりたい。」と。

勝ったからといって来年以降すぐに復活するという保証はどこにもない。

だが、僕にとっては「万が一」にでも可能性があるならそれに賭けたい、藁にもすがる想いだった。

動揺

翌日にアウェイ武蔵野シティFC戦を控えた2016年6月24日、ファジアーノ岡山ネクストの2016シーズンをもっての活動終了が発表された。あまりにも突然のリリースに、ネクスファジを応援する人達は愕然とした。
 
「彼らのプレーや成長を楽しみにしていたのに」
「もっともっと彼らと一緒にいれると思っていたのに」
 
これまでも選手の大幅な入れ替わりは定期的に起きていた。しかし今回は今までと事情が全く違う。僕のようにネクスファジを応援する人達はみな、このチームを翌年も、そのまた翌年も応援できると当たり前のように信じていた。その「当たり前」がどれだけ尊いことなのか、こんな形で思い知らされるとは夢にも思わなかった。

突然のリリースではあったものの、約半年先に待つ最後の瞬間に向けて心を整理することが出来たのは幸いだった。シーズンの中盤に発表された事もあってか、ネクスファジのサポーター達はラストシーズンを自分なりの接し方で過ごす事が出来た。

最後に見せた「らしさ」

そして迎えた2016年11月13日。
 
ファジアーノ岡山ネクストの最後のリーグ戦となるアスルクラロ沼津戦が愛鷹陸上競技場で行われた。ネクスファジの最後の試合を数多くのファジアーノサポーターが見届けた。
 
試合は、この試合にJ3昇格を懸けるアスルクラロ沼津が前半に3点を奪う猛攻を仕掛けた。最後の試合に意地を見せたいネクスファジは、後半開始より一気に巻き返し、後半39分に田中雄輝選手のクロスから小林秀征選手が執念のゴールを挙げた。
 
結果的に1-3で敗れたものの、最後の最後まで「あきらめない」ネクスファジらしい試合を見せてくれた。

他クラブのサポーターにファジアーノ岡山というチームを語るとき、「最後まであきらめない」という点を語る人が多い。トップチームのJFLホーム初戦となった2008年のカターレ富山戦、初の「川鉄ダービー」の2013年アウェイヴィッセル神戸戦、そして先日のJ1昇格プレーオフ準決勝松本山雅戦など、ファジアーノ岡山というチームは重要な試合で試合終了間際にゴールを挙げる事が多いからである。
 
セカンドチームであるネクスファジもその傾向にあり、JFL昇格を決めた2013年地域決勝の決勝ラウンド、ヴォルカ鹿児島戦の飯田涼選手の決勝ゴールも試合終了間際だった。チームが苦しい状況や展開でも、最後の最後まで諦めずにゴールを奪いに行く姿勢は確かにネクスファジにも引き継がれており、ネクスファジの最後の試合でもそれを僕達に見せてくれた。「ある意味でファジらしい最後だなぁ」と思いスタジアムを後にした。

クラブと岡山の街の「未成熟」

2015年よりファジアーノ岡山は「Challenge1」の合い言葉を軸にクラブの活動を行っている。年間平均観客動員数1万人以上という目標を掲げ、トップチームのJ1昇格をクラブに関わる人々全てで達成しようとするものだった。2016シーズンは平均観客動員数1万人を達成し、チームも初となるJ1昇格プレーオフに駒を進めた。プレーオフ準決勝松本山雅戦や冒頭に述べた決勝セレッソ大阪戦は、岡山県内の注目を集め熱狂を生んだ。イオンモール岡山など岡山市内各地で行われたパブリックビューイングには、大勢のサポーターや普段ファジアーノ岡山に接した経験の少ない市民が集まり、「我が街のチーム」たるファジアーノ岡山の躍進を見守った。劇的な勝利を遂げた準決勝や、あと一歩のところで涙を飲んだ決勝など、チームの躍進に伴って岡山の街にこれまでになかったような大きな盛り上がりが生まれた。

トップチームの躍進とそれに伴う岡山の街の盛り上がりを木村正明社長を始めとしたフロントや選手達は「うねり」と表現する事が多い。そんな「うねり」はファジアーノ岡山に触れる前からサッカーに関心を抱いていた人ではなく、ファジアーノ岡山がきっかけとなってサッカーに興味を持って試合を見始めたという人によってもたらされた。かねてよりファジアーノ岡山は「地方都市にはお金を払って興業を観に行く文化がない」という考えのもと、俗に言う「タダ券」に頼らない集客活動を行ってきた。Challenge 1を通じ観客動員数1万人を突破したことから、「お金を払って興業を観に行く文化」はある程度この街につくりあげることは出来たと言える。

木村社長が以前、階層別に分けた集客活動をテレビ番組で語っていた。

F指標

チラシやポスターなどは主に無関心層であるF5層や名前を聞いたことがあるというF4層、一度だけ試合観戦に来たことがあるというF3層に向けた広報活動である。一方で、ネクスファジのような育成組織の試合観戦はある意味で既存サポーターたるF1層向けの娯楽である。こういった段階別の集客活動を行うにあたって、「育成部門の有料試合」というネクスファジの興業に力を入れて広報活動を行うには、まだ岡山という街がサッカー観戦文化を醸成するという面において未成熟であったと言えるのかもしれない。

ポスターなどによるネクスファジの試合の観戦告知が非常に少なかったことを指摘する声もある。決して運営規模の大きくないファジアーノ岡山にとって、セカンドチーム運営とはそれ自体が大きな賭けであり、リソースをトップチームの広報活動に重点的に割く事には個人的に何の疑問もない。現に、トップチームに関しても全県をホームタウンにしているにも関わらず倉敷市や津山市での広報活動が不足しているという指摘もある。トップチームを含め、まだまだ未成熟なファジアーノ岡山というクラブが2つのチームを同時に同レベルで広報活動を行うとしたら、現時点ではキャパシティーを越えてしまう。あくまでもトップチームありきのセカンドチームであるので、今のファジアーノ岡山というクラブに関してはトップチームに注力した広報活動がベストであろうと考える。

岡山県にはプロ野球チームが無いこともあり、地元マスコミは他県と比べて好意的にファジアーノを取り上げてくれている。そのような媒体を通しての広報は、無関心層がファジアーノ岡山の情報に触れる絶好の機会である。そうやってファジアーノ岡山を知りトップチームを初めて観戦してからハマっていく人が増えれば、その中からネクスファジやU-18などの育成組織に興味を抱くという人も増えるだろうと信じていた。

だからこそ、「ネクスファジを通じたファジアーノ岡山というクラブの新たな楽しみ方」を僕達サポーターが広く伝えていくなど、個人としてまだ何か出来たのではないか、チームに協力出来ることがあったのではないか、と思うことがある。当然、本来ならスポーツ興業において「客」であるサポーターが広報活動の一端を担うということは避けるべきであると考えている。それを加味しても、サポーターがそれぞれ「出来る人が出来ること」をやることで何かが変わったのではないか?と、後悔が残る。ファジアーノ岡山という(J1の規模の大きなクラブと比べて)人的にも金銭的にもリソースの少ないクラブだからこそ、ファジアーノ岡山にしか出来ないやり方でファジアーノ岡山ネクストというチームをサポーター主導で伝えることが出来たのではないだろうか。

育成面での功績

「8シーズンに亘り活動する中で一定の成果は出たと考えております。」
 
活動終了にあたってのリリースと最後のホームゲームとなったヴェルスパ大分戦後のセレモニーの際、木村社長はそう述べた。2016シーズンのトップチームには三村真、椎名一馬、篠原弘次郎、松原修平の4名のネクスファジ出身選手が在籍していた。また、開幕戦であるアウェイレノファ山口戦には加藤健人選手が途中出場を果たしている。他にもSC相模原の飯田涼選手やブラウブリッツ秋田の呉大陸選手のように、ネクスファジを退団後に他のJクラブで活躍する選手もいる。かつて「サッカー不毛の地」と揶揄された岡山の街のセカンドチームから、この8年間でJリーグの試合でプレーする選手を輩出できた事は以前なら考えられなかった事である。

2016年12月24日、コカコーラウエスト広島スタジアム。ファジアーノ岡山U-18はプリンスリーグ中国参入戦に駒を進めた。その舞台で圧倒的な活躍を見せ、チームを昇格に導いたのは石川隆汰選手だった。彼はネクスファジ最後の1年間をチームと共にし、試合経験を積む中で更に頭角を示してきた。JFLの公式戦において、経験豊富な選手達を相手にした堂々たるプレーに、このクラブの未来とここまでファジアーノの育成部門が積み重ねて来た実績を見た気がした。2017年からのトップチーム昇格が決定している彼には「ネクスファジ出身」選手としてJリーグの舞台で暴れまくってほしい。

関係者への感謝

ファジアーノ岡山ネクストの8年間は、様々な制度の変更やチーム事情によってそれぞれの選手の運命が左右されてしまった。トップチームに怪我人が続出してベンチメンバーが7人に満たない状況にも関わらず、移籍期間が過ぎていたためネクスからトップへの登録変更が出来ないという状況になったことがある。また、ネクスファジで経験を積んで加入から数年間で成長を遂げたとしても、その数年間でトップチームは更に成長を遂げているという皮肉のような現象も起こっていた。そんな苦しく厳しい事情を余儀なくされていたにも関わらず、チームをここまで運営してくれたクラブや関係者にはただただ感謝しかない。

■フロントの方々へ
8年に渡ってファジアーノ岡山ネクストというチームを運営してくれたことには感謝しかありません。僕がネクスファジを本格的に追いかけ始めたのは2013年からの4年間になりますが、ネクスファジやその試合を通じで色んな地域の色んなクラブと出会うことができ、そしてそこで様々な人達と出会うことが出来ました。自分の視野を広げて新たな価値観を与えてくれたファジアーノ岡山ネクストというチームを設立し、ここまで運営してきてくれて本当にありがとうございました。いつかまたU-23チームが誕生した時はネクスと同じように追いかけていきたいです。

■牧内辰也監督へ
2013年から本格的にネクスを追いかけた僕にとって、ネクスファジ=牧内辰也監督のチームでした。加入当時、年代別代表での過去の実績から決してネット上の評判が良くなかったこともあり、正直に言えば加入当初は懐疑的に見ていました。しかしチームを追いかけていく中で、個々の選手としっかりと向き合い選手の特性を活かしながら粘り強く育てていく姿勢に、大きな感銘を受けました。目の覚めるような勝利の後も、大敗の後も、試合後は必ず会場外のサポーターの前に顔を出し一人一人と握手してからバスに乗っていく姿には、このチームを背負った責任と職務から決して逃げないという意志を感じました。このチームを最後まで率いて頂き、本当にありがとうございました。僕がサッカー観戦を始めてから最も印象的で大好きな監督です。

■いままでネクスでプレーしてくれた選手達へ
ここまでチームを支えてくれてありがとうございました。みなさんが全力でピッチを駆け抜けるプレーを観て、みんなで一喜一憂した経験は何物にも変えがたい僕の経験です。チームが活動を終了して、Cスタや政田(練習場)で会ったり、プレーを見れなくなる選手が多くなった事は本当に残念ですが、これからも岡山から(大阪在住だけど)念を送ったり、時には移籍先のクラブの試合に行って応援したいと思います。また、チームに残る選手達にはトップチームで更なる活躍を見せて欲しいです。これから先、僕達ネクスサポは「前所属先:ファジアーノ岡山ネクスト」という文字列をどこか誇らしく思いながらみなさんをこれからも後押ししていきたいです。みなさんの未来が光輝くものでありますように。

喪失感

ネクスファジの試合には大好きな「空間」がたくさんあった。
 
くだらない野次がほとんど無く、純粋に選手を後押ししたい、見守りたいという空間。
ダブルヘッダーで試合の合間に一試合目の感想をファジフーズ片手に語り合う空間。
試合後に出待ちサポーターが選手達に「お疲れ様でした」「今日の前半あのプレー凄かったです」と差し入れをしながら会話をする空間。
 
そういった「空間」に魅了され、トップチームに加えてネクスファジを追いかけるようになった人達を僕は知っている。みんなが大好きな「空間」が無くなることを凄く残念に思う。2017年以降、ネクスファジを追いかけていた人達はそれぞれ別の何かでその「空間」を補おうとしている。

これまで以上にトップの応援に注力する人もいる。U-18やU-15を新たに注目する人もいる。ネクスファジに所属していた選手達が新たにプレーするチームを観に行く人もいる。中には「ネクスというチームが大好きだったから2017年以降はサッカーを観に行く回数大幅に減りそう」と話していた人もいた。
 
みんなそれぞれがそれぞれの「喪失感」を埋め合わせようとしていたが、共通しているのはみんながファジアーノ岡山ネクストというチームを心から愛していたということだ。

最後に ~未来に向けて

これから先、トップチームがJ1に昇格したり、岡山にサッカースタジアムが新設されたりするなどクラブの歴史を積み重ねた先には、「ファジアーノ岡山U-23」として新たなセカンドチームがJ3に参入する未来があると信じている。

ネクスファジの活動終了に関するリリースは「観客動員数が少ないから潰した」という性質のものではなく、将来的にU-23チームとしてJ3に参入するプランにも言及するなど、クラブを含めた地域のサッカーレベルの向上に向けて「一旦活動を終了」するものとしている。これまでにもJリーグクラブのセカンドチームが活動終了した例があるが、我々ネクスファジサポーターは「未来への可能性を残す」事が出来たのは何より幸いだった。前述した「リソースの不足」の解消やU-18を始めとするアカデミーのレベル向上など、クラブの体制が今以上に強固なものになれば、そう遠くない未来に新たなセカンドチームをJ3に送り込めるだろう。

僕達が愛したネクスファジは活動終了して「過去に存在したチーム」になってしまった。
 
しかし、僕達がやるべきなのは「過去に縛られること」ではなく、「過去と共に前を向いて歩んでいくこと」だと思う。選手達はJ3・JFL・地域リーグなど新しいクラブでプレーする者もいれば、プロ選手を引退して新しい分野に挑戦する者もいる。既に、彼らは前を向いて新しい世界に足を踏み出している。だからこそ僕達も前を向いて2017シーズンに挑んでいかなければならない。僕達は、これからも過去を大事にしながら前に進んでいきたい。

ファジアーノ岡山には「100年続くクラブのDNAのために」というスローガンがあるが、間違いなく「ファジアーノ岡山ネクスト」というチームはこのクラブのDNAの一部として生き続けるだろう。

だから、「さよなら」とは言わない。


「みんなありがとう。またどこかで会おう。」




【コラム】「雛雉達の舞う空に」セカンドチームシリーズコラム ファジアーノ岡山ネクスト 編
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著者
popmas
iek:岡山のポッポマスター @iekiek1984

紹介
 岡山出身大阪在住のファジサポさんで、通称「ポッポマスター」。ホームゲームのたびに大阪から帰省しとんぼ返りするツワモノで、トップチームだけではなく注目の集まりにくいファジアーノ岡山ネクストを盛り上げるべく地道な活動を続けておられます。(ゼロファジ: @ZeroFagi

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