【放射線⑦】まではこのコーナーの担当は丹羽太貫・京都大学名誉教授でしたが、【放射線⑧】からの担当は山岡聖典・岡山大学大学院教授です。
↑ 8月28日の『知っ得ワード』
【放射線⑧】ラドンを浴びる効果実証へ
放射線の健康影響を考える場合、高い放射線量を浴びるとほぼ確実に悪影響が生じることは科学的に疑う余地はありません。問題は低線量の放射線を長時間かけて浴びる場合の影響です。放射線は姿や形、臭いや音もないので余計不気味な存在です。不必要な放射線を量もわからずに無防備に浴びるのは極力避けた方が良いのは当然です。
ただし、例えば放射性核種の1つであるラドンを浴びるラドン温泉は薬湯などと言われ、健康増進などに利用されているのも事実です。このような特定の低線量の放射線を浴びる場合の効果や現象を科学的に実証し、そのメカニズムを解明する研究が進んできています。
少量の放射線には「ホルミシス効果」と呼ばれる特性があることが実証されつつあります。学術的には「放射線適応応答」と考えられています。
ホルミシス効果とは薬理学で認められている現象で、有害とみなされる化学物質などが少量では逆に生体に刺激を与え、整理学的に有益な効果を生じることを意味します。1980年に米国のトーマス・ラッキー博士がホルミシス効果を初めて提唱しました。
ICRP(国際放射線防護委員会)も「まだ防護基準には適用する段階にはないが、調査する必要がある」としています。
(回答者=山岡聖典・岡山大学大学院教授)
前半はマトモなことをおっしゃっていますが、ラドン温泉がどうたらいう所からはグダグダですね。温泉は体にいいかもしれませんが、ラドンが体にいい保証なんてどこにあるというのでしょうか? 世界保健機構(WHO)は、2005年6月21日に、放射線のラドンが肺がんの重要な原因であることを警告しています。
参考→【放射線のラドンは肺がんの原因となる】 日本の温泉は安全か?世界保健機構が新たに警告
本当にラドン温泉に効能があるとしても、それがラドンによる被曝のおかげであるとは限りません。温泉によって体が暖められれば血行が良くなりますし、お風呂好きな人には温泉は精神的なリラックス効果があるはずです。「ラドン温泉」だからといって含まれている成分がラドンだけとは限りませんから、ラドン以外の成分が身体に良い影響を与えているのかもしれません。「ラドン温泉の効能」を「放射線によるホルミシス効果」と結びつけるのは非常に安易です。
このセンセイの文章で注意しなければいけないのは、「メカニズムを解明する研究が進んできています」「実証されつつあります」などという微妙な表現です。
「進んできています。」「実証されつつあります。」←この表現を見ればわかる通り、「ラドン温泉による被曝は体にいいかどうかの研究」は、まだ実証が終わっていません。実証が終わっていないのに、このセンセイは、あたかも「ラドン温泉による被曝は身体にいいから低線量被曝にはホルミシス効果がある」というような話の持って行き方をしています。読者をミスリードさせることを目的として文章を書いていることが明白ですね
↓ 最後のこの一文も、読者のミスリードを狙っています。
>ICRP(国際放射線防護委員会)も「まだ防護基準には適用する段階にはないが、調査する必要がある」としています。
「まだ防護基準には適用する段階にはない」などといい書き方をして、まるで、「いずれは防護基準になる」と言わんばかりでけど、低線量被曝のホルミシス効果に対するICRPの姿勢は、かなり後ろ向きです。
参考→「リビングサイエンスアーカイブス」低線量放射線被曝のリスクを見直す
上記のサイトの、「8. ホルミシス効果に対する評価」の所を見てみれば分かりますけど、ICRPは、ホルミシス効果に関するデータを「放射線防護において考慮に加えるには十分でない」と評価しています。
ECRRの方も、「ホルミシス効果はあり得る」としながらも、それは「長期的な効果は有害かもしれない」から、「放射線防護の観点からは考慮すべきでない」と結論づけています。
つまり、ICRPとECRR、どちらの組織からも、ホルミシス効果は「放射線防護基準」としては期待されていません。
こんな有様なのに、よくもまぁ、「まだ防護基準には適用する段階にはない」などといい書き方ができるものですね
ところで、板橋さんの講演会に行った時に、受付で『受ける?受けない?エックス線 CT検査 ― 医療被ばくのリスク』という本を購入したのですが、この本の106ページに、「岡山大学の研究者をはじめとする著名な放射線影響の研究者」によるラドンの健康影響への調査に対して、「ラドンの量が非常に低いにもかかわらず調査対象の人数が少なく、疫学調査としても信頼性に欠けます」と批判しています。
この「岡山大学の研究者をはじめとする著名な放射線影響の研究者」とは、もしかしたら山岡聖典・岡山大学大学院教授なのでしょうか?
(『受ける?受けない?エックス線 CT検査 ― 医療被ばくのリスク』については、別の機会に感想を書きます。)
(その6に続く)
受ける?受けない?エックス線CT検査―医療被ばくのリスク
クチコミを見る
「修復機能が働く」「排出機能が働く」と書いておけば良いものを、優越感と下心がそうさせない。下心があるならいっそ「ある!」とはっきり言ってしまえば潔いのに。