(061)俤 (百年文庫)
俤/百年文庫61
題名は「おもかげ」と読むそうです。海坊主は読めませんでした。
山の手の子/水上瀧太郎 山の上のお屋敷に済む子供が山の下の所謂「下々の者」に混ざる話。下々の者の中でやたらと親切にしてくれる娘に恋をするも娘は遊郭に売られそれっきり会えずじまいだった、ということをおとなになった主人公が回想する話です。
オクタヴィ/ネルヴァル 何の話なのかわかりませんでした。唐突に謎の手紙を読み出すわけのわからなさ。これが「おフランス」。
千鳥/鈴木三重吉 滞在している家に同じように滞在している娘に恋したような話。何が何やら。この物語はこう始まります。「千鳥の話は馬喰の娘のお長で始まる。〜略〜親指と小指と、そそて襷がけの真似は初やがこと。」ここまで5行です(途中端折りましたが)。その間に、「千鳥」とは何のことか。「お長」とは「おナガ」なのか「おチョウ」なのか。「初やがこと」とは何のことか。と、疑問が3つも湧き上がって後に続く文章が頭に入りませんでした。これ以降、「お長」は登場しないので読みはわからないままで気持ちが悪いです。「初や」は人名だということがわかりましたが、読みは「はつや」なのか、それとも末尾の「や」は「◯◯さん」で言う「さん」のような敬意を表す言い方で「初」が名前なのか(そういえば、どこかで『お初』と呼ばれていたような気がしますがみつけきれませんでした)。「千鳥」のことは最後の最後でわかりますが、頻出する「初や」という馴染みのない文字が気持ち悪くて何が何やらわかりませんでした。なぜ主人公は小母さんの家に滞在しているのか。読み取ることができませんでした。


(062)嘘 (百年文庫)
嘘/百年文庫62
革トランク/宮沢賢治 実に稀な話。運良く工学校に合格した主人公が運良く卒業し村長である父の力を使い設計屋を開設しそこで請け負った仕事で設計ミスを出し東京へ逃げるも母親の病気により村に戻り東京で買った革トランクを父が見て苦笑いをする話。主人公は見栄を張ることだけは立派にできるという話。
ガドルフの百合/宮沢賢治 旅人ガドルフが旅の途中に雨に降られて雨宿りとして立ち寄った家人のいない屋敷で過ごす中、庭に咲いた百合に恋をする話。何の話なのかよくわかりませんでした。雷に打たれると百合は折れる話。
嘘/与謝野晶子 空前絶後の継子創作話ブームの中、出来のいい継子話を披露する話。登場人物と地名がはっきりしていれば子供をだますことなんてちょろいという話。
狐の子供/与謝野晶子 些細な事で同級生2人に強請られ続けることになる話。ただただ「嫌な話」でした。嫌な気分になる「嫌な話」でした。子供が読めば「わかるわかる」となる話なんでしょう。
ある孤独な魂/エロシェンコ 盲学校での思い出話。学校では健常者の教師から偏った教育を施されいます。生徒たちは盲なので自分達が会話している相手が誰なのかわからないので平等に接します。それが貴い大公であろうと卑しい乞食だろうと。教師は「見えなくても雰囲気で相手の身分をわかれ」と無茶ぶりをして生徒を折檻します。理不尽です。
せまい檻/エロシェンコ 動物園の檻の中にいる虎の話。狭い檻の中で疲れた虎はかつて自分が暮らしていたインドの森に帰り、なんやかんやあってラジヤの別荘で目にしたラジヤの201人目の妻「鹿に似た女」を気に入り、女をおりから解き放つためラジヤを殺す虎。その際、本文ではこう書かれています。「二百一人の女たちは息の根さえもとめていた」。これは、「虎は二百一人の女を皆殺し」にしたのか、「二百一人の女達は息の音が止まるくらいの恐怖を感じた」のか。前者の方は後に鹿に似た女が再登場するのでそうではなさそうです。それはそれとして、作中にサティーの儀式が登場していました。
沼のほとり/エロシェンコ 産まれたての2羽の蝶が太陽が沈むことに納得行かず太陽を探しに行く話。結局、蝶は2羽とも志半ばで息絶えます。その死体を見て各指導者達が各生徒達に降雪を垂れ流し、その度に通りかかった寺の小僧が各指導者達に質問をしますが全て冷たくあしらわれ、その後指導者達は栄転しますが小僧は役所の憎まれものになりました。嫌な気分になりました。下々の者は上に立つ者の言うことに従い疑問を持ってはいけない。世の中の理不尽さよ。
魚の悲しみ/エロシェンコ 池に住む魚や野山に住む畜生達の話。主人公のフナの「鮒太郎」は死後の世界の素晴らしさを母フナより教えられ、それに憧れ日々を良い子として過ごし皆から愛される子供になりました。そこに現れた人間の坊っちゃん。坊っちゃんは坊っちゃんらしい坊っちゃんさで野山の畜生を捕らえ傍若無人に暴れ回り殺し回ります。これはイカンと坊っちゃんの住む教会へ坊っちゃんの悪逆非道を止めてもらうよう訴えに行く畜生代表の蝶。そこでの出来事を野山の畜生達に伝え蝶はショックで事切れます。教会の人間が言うには、「死後の世界は魂のある人間のための世界で魂のない畜生達はそこには行けない。畜生達は人間を楽しませるため、または食われるためにつくられた」とのこと。その後、鮒太郎は坊っちゃんに捕らえられ解剖されて死に、坊っちゃんは有名な解剖学者になりました。めでたしめでたし。人間万歳。人間万歳。嫌な気分になる話でした。童話形式の話なので絵本にして全国のキッズ達に読ませキッズ達にもこの嫌な気分を味わって欲しいです。それはそれとして、鮒太郎の母フナはなぜ「死後の世界(作中では『あの国』と呼ばれる)」のことを知っていたのか。この宗教観はどこで培われたのか。野山に住むウサギの「坊さん」も何かしらの宗教観を持っていそうですがそれはどこで得た知識なのか。気になりました。 


巴 (百年文庫)
巴/百年文庫63
引き立て役/ゾラ 引き立て役紹介所開設の話。これは良いビジネスだ! と思いました。「引き立て役紹介所」とは、選りすぐりのブスを紹介し依頼者の婦人に引き立て役として使ってもらう。化粧品として装飾品としてのブス。その手があったか! です。実在しそうなビジネスです。
さぼてんの花/深尾須磨子 パリに住む中年女が初めてできた彼氏に浮かれ上がる話。主人公の中年女が「まあ公」という人物に宛てた手紙として話は進んでいきます。手紙の内容は、パリと比べて日本を味噌っかすに批判し、男ができれば日本の男を糞味噌にけなし、初めてのセックスを報告する。こんなことを伝えられる「まあ公」とは何者なのか。わからないまま、主人公は浮かれたまま話は終わりました。なんだこいつは。ただただ主人公が嫌な女でした。
ミミ・パンソン/ミュッセ お針娘と戯れる話。舞台はフランス。にも関わらず、唐突に出てくる「伊勢エビ」。「ロブスター」ではなく「伊勢エビ」。作中の年代がよくわかりませんが(針娘が薄給に喘いでいる時代)、フランスに「伊勢エビ」ってあるんですか? 日本から輸入した? 


(064)劇 (百年文庫)
劇/百年文庫64
拾い子/クライスト 拾ってきた子供のせいでなにもかもめちゃくちゃになる話。お前のせいだッ!! 父親が実子を連れて商いのために旅に出たら、目的地の街が疫病で死にかかっていて、そこで拾ってしまった孤児のせいで父子共々疫病に冒され実子は死に、仕方なしに行き場のない孤児を拾って帰り養子として育てるが長じた養子は糞野郎と成り果て継母を狙い、それをショックで病死させ、父親に喧嘩を売って父親に殺され、父親はその罪により死刑になる。風が吹けば桶屋が儲かるみたいな話でした。孤児に憐れみをかけなければこんな事にはならなかったのに。
断頭台の秘密/リラダン ギロチンにかけられる死刑囚に頼み事をする医師の話。「頼み事」というのは「ギロチンにかけられ、首がはねられた際に合図をするから反応してみろ」というもの。自身がギロチンで首を切り落とされた時にまばたきで反応したという「ラボアジェの実験」を元にした話でしょうか。話しに戻ります。刑執行後、医師が依頼した合図とは正反対の動きを示した頭を見て立ち去る医師。これはどういうことなんでしょう。結局、切断された頭に意識はない、ということでしょうか。
歌手/フーフ 枢機卿と礼拝堂楽団長が妙なる歌声を持つ死刑囚を無実にしてあげる話。そもそも始まりは枢機卿の不倫相手の息子が死刑囚となったのでそれを助けるべく行動をしていたんですが、同じ収容所にいた美声死刑囚に気を取られ、あっさり息子は処刑。美声の元・死刑囚は教皇のお気に入りになり、さらに枢機卿の不倫相手が元・死刑囚に取られそうになり、それを危惧して教皇に元・死刑囚を遠くへ置くよう訴えるも教皇の機嫌を損ねさせた結果、日本に左遷。ついでに楽団長は強制隠居生活へ。余計なことはするもんじゃない、ということですね。元・死刑囚を無実にするため、黒を白にするため、陪審員を買収するわ、買収が効かない陪審員をボロクソにけなすわで、聖職者権力者の糞っぷりが酷く現れていました。 


宿 (百年文庫)
宿/百年文庫65
鳴沢先生/尾崎士郎 ナルザワ先生についての話。ナルザワ先生は無銭飲食で生きながらえている謎の先生。家財道具を捨てているところで屑屋に出会い、家財道具入れの箱と一緒にナルザワ先生自身も一緒に捨ててもらいました。これでナルザワ先生の物語はおしまい。なんだかよくわからない終わり方でした。紙くずと同じようにコンパクトに折りたたまれ屑屋の屑箱の中で小さくなっていくナルザワ先生。ナルザワ先生とは何だったのか。それはそれとして、「無銭飲食」のことを「ラジオ飲食」と言うのは面白かったです。ラジオ→無線→無銭、だそうです。
零落/長田幹彦 寂れた町に滞在する旅人が同町を訪れた旅役者の一座にのめり込む話。のめり込みすぎて終いには自分も役者として一座に加わることになる旅人。同化政策ですね。
惜春の賦/近松秋江 友人と旅行中に1人郷里に帰る話。というのも、主人公の老母が病に臥せってしまったから旅行のついでに帰省することに。帰省はしたものの、別れた友人から遊びの誘いの電報が届き、主人公の心は揺れ動きます。老母の面倒も見ておきたいけど、遊びにも行きたい、ええい行っちゃえ。こういう話。 


崖 (百年文庫)
崖/百年文庫66
亡き妻フィービー/ドライサー 徘徊老人の話。妻に先立たれた老人は、妻の幻影を求めて徘徊老人と化す。その脚力たるや水戸黄門のごとく、端から端まで亡妻の幻を追い続ける。そして、崖から落ちて死ぬ。終わり。
青靴下のジャン=フランソワ/ノディア 狂人青年の幻想的な話。身分違いの恋に苦しんだ挙句、オカルトに没頭した結果、頭が良くなりすぎて常人とは会話ができなくなり、空と会話するようになった青年の話。ついでに予知能力も身につけ、想い人が死んだと同時に自分も死ぬ。IQが極端に違うと会話ができないという話を思い出しました。狂人は頭が良すぎたのです。
紅い花/ガルシン 世界を救うため戦う男の話。舞台は精神病院。男は気が狂っている。なので、病院の庭に咲いた「紅い花」を世界の悪が集まっていると信じ、それを抹殺するため戦い、そして散りました。「ドン・キホーテ」みたいですね。「ドン・キホーテ」読んだことないけど。冒険譚です。


花 (百年文庫)
花/百年文庫67
薔薇くい姫/森茉莉 「薔薇くい姫」を自称する老女の話。主人公の名前は魔利(まりあ)。身内に「苑麻(えんま)」だの「滋安(ジャン)」だのがぽんぽこ現れる。このケッタイな名付けセンス。そうです。これらは皆、森鴎外の血を引く者達。つまり、主人公の「魔利」とは作者の「森茉莉」そのもの。なぜ作中で偽名を使っていたのかは謎です。内容は大人になれない老女の話でした。
ばらの花五つ/片山廣子 ばら園の主人を見て働こうと思い立つ話。無職が労働を決意する短い話でした。
つらつら椿/城夏子 自らの出自が気になるようで気にならない話。ちょっと登場人数やそれらの関わりが増えると、何が何やらわからなくなります。家系図の挿絵が欲しかったです。 


(068)白 (百年文庫)
白/百年文庫68
冬の蠅/梶井基次郎 冬の弱った蝿を見たり唐突に遠出したりする話。本当に唐突な遠出で意味がわかりませんでした。ふと思い立って乗合自動車に乗って、ふと思い立ってよくわからない場所で降りて温泉に行って港町に行って……そういう話。蝿は初めと終わりだけ。
春の絵巻/中谷孝雄 春の盛りの日に友人が自殺したけど自分は彼女ができてハッピーな話。春の桜の盛りの時期に自殺するのはなんだかロマンチックですね。それはそれとして、主人公には彼女ができて、主人公の友人にも彼女ができて、なんだかとってもハッピー! そんな話でした。
いのちの初夜/北条民雄 癩病院の話。主人公も癩病患者。なので、隔絶された病院に入院します。主人公は自殺したいのにできないタイプの人間でした。死にたい死にたいと思っている人ほど死ねないというやつです。癩病患者は「人間」ではなく「いのち」そのものと説く宿直員の癩病患者。そうして、なんだかんだと主人公は生きてみようと思うのでした。作者自身が癩病であったこともあり、これは作者自身の見たもの聞いたもの物語なんでしょう。そこそこノンフィクション。海坊主の知らない世界、面白かったです。