世にも奇妙な人体実験の歴史/トレヴァー・ノートン
地球の果ての温室で/キム・チョヨプ
いろいろな幽霊/ケヴィン・ブロックマイヤー
深い穴に落ちてしまった/イワン・レビラ
 


世にも奇妙な人体実験の歴史/トレヴァー・ノートン
 主にイギリスやアメリカなどで行われた人体実験についてブリティッシュジョークを交えての紹介。
 性病や麻酔、薬や病気といった医療系の話から漂流や深海などの冒険譚、果てはゲテモノ食やサメまで多様な項目があります。
 患者や貧困層を騙して行った人体実験はもちろん、医者や科学者自身が自らの意思で自らの身体を使って実験に挑む場合の話が多く収められています。巻末解説にて、そのような命知らずの勇者のことを「人体実験野郎」と呼んだりします。
 科学の発展には犠牲が付きもの。とはいえ、「犠牲」となるべきは貧困者や患者などの弱い立場の人間か、医者や科学者自身か、動物か。考えさせられます。囚人が実験に使われる場合もありますが、それはまぁ……。
 面白かったです。
 海坊主も実験に使ってほしいという気分に一瞬だけなりました。デメリットが大きすぎます。でも、科学の発展の礎になるのなら……?


地球の果ての温室で/キム・チョヨプ
「ダスト」と呼ばれる毒物の霧が蔓延し、人々は奪い合い殺し合い滅亡寸前に陥った地球。そこから復興を遂げて六十年。ダスト生態研究センターに勤めるアヨンはとある地域で異常繁殖している植物の調査を行うことになる。そこから判明していく復興の軌跡。
 物語は三つの視点で進行します。
「ダスト」から復興を遂げた世界で暮らす生態学者のアヨン。
「ダスト」が猛威を振るう時代、「ダスト」の耐性を持つ人々が逃れ隠れて暮らす村を探すナオミ。
「ダスト」が発生する前から復興後まで活動していた機械整備士のジス。
 厄災の中、人々はどのように暮らし、生き抜き、復興まで漕ぎつけたか。
 それはそれとして、ジスの物語から百合要素を感じ取りました。単純に「百合」と表現することで矮小化しているのはないかという恐れもありますが、では「レズビアン」を使うというのも恐れ多い。そのように感じました。そこで気付きましたが本作の主な登場人物のほとんど女性でした。男性も出ることは出ますが、名前付きモブのような存在だったり名無しのモブだったりとそこまで重要な役割での登場はありませんでした。このようなどうでもいいことに気付きました。
 それはそれとして、表紙絵である温室内で白衣を着た女キャラクターの機械腕を修理している女キャラクターという構図は物語中できちんと回収されます。表紙通りの場面があります。安心してください。


いろいろな幽霊/ケヴィン・ブロックマイヤー
 幽霊に関する二~三ページの掌編百話分。
「世にも奇妙な物語」を彷彿とさせるものから王道幽霊話、信仰に関する幽霊話や文学的な幽霊話など百話分の幽霊小話が楽しめます。
 巻末の解説にて「百物語」について触れられていました。日本のものは百話目を終えると何かが起こるとのことで最後の一話は披露しないものだそうです。本作は百話目まで存在します。それらを読み終えて、何が起こるのか。
 海坊主には何も起きませんでした。


深い穴に落ちてしまった/イワン・レビラ
 とある森の中、脱出困難な穴に落ちてしまった兄弟。二人きりの極限生活。心身ともに衰弱し狂っていく小さな弟。目的を持って体を鍛える兄。素数が各章に振られている意味や隠された暗号といった考察要素もあり。
 2時間ほどでサクッと気持ちよく読み終えることができます。
 巻末解説にて本作の謎に触れています。素数が章に使われているのは何故か。数字には意味がある。素数は終わりがない。らしいです。ピンと来ませんでしたが章の数字が経過日数を表している、という答えが載せられていたのは助かりました。そういうことでした。
 隠された暗号について。作中、弟が暗号を解くヒントとなるセリフを、後に暗号文を呟きます。暗号文の数字と各章の数字……と、何やら大変なことになりそうですが、親切なことに巻末に答えが載っています。ありがたいです。
 途中、失語症を患った弟が奇妙な言葉で話し出す場面があります。これはセリフ中の文字を入れ替えることで意味のある文章に組み替えることができるんですが、一部わからないものがありました。そもそも正解がない可能性もあります。組み替え方に法則がないので難しいです。前述の暗号よりも答えの掲載がない分、こちらのほうが解読難易度が高いかもしれない。
「てっぺんのないがらんどうのピラミッド」のような深い穴の底に落ちてしまった兄弟。遭難二日目にして昆虫食に挑み、抵抗も葛藤もなくそれを食し、以降は穴の中にいる虫を主食にする兄弟。昆虫食については重要ではありませんでした。
 この物語は復讐譚でもあります。
 最終章は暗喩と寓意に満ちた話となっているそうです。執筆された年代と作者の出身地から何かを察する能力が求められます。難しいです。
 この物語は復讐譚でもあります。