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2016年8月25日 (木)

皇位の男系継承論とアマテラス/天皇の歴史

天皇陛下の生前退位のお気持ちに対して、内閣法制局などが生前退位には改憲が必要と言っているという。
理由としては「憲法第1条で天皇の地位は日本国民の総意に基づくと定めていて、天皇の意思で退位することはこれに抵触する」ということのようだ。
日本国憲法を見てみよう。

第一章 天皇 
第一条   天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第二条   皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

内閣法制局の読解は疑問である。
「日本国民の総意に基く」に掛かるのは、「この地位は」であり、それは「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」という地位のこととしか読みようがない。
皇位継承については「皇室典範の定めるところにより」とあり、憲法とは関係がない。
皇室典範では第4条に「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」とあるのみで、天皇の「生前退位」を明文的には禁じているわけでもない。
敢えて言えば、「想定外」ということだろう。

しかし内閣法制局「など」は以上のような指摘を行った上に「生前退位を今の天皇陛下にだけに限定するのであれば、特例法の制定で対応が可能」とも説明。しかし、どうして「生前退位を将来にわたって可能にするため」には改憲が必要で、今上天皇に限れば特別法の制定のみで対応できるのかの説明もされていません。
皇室典範は憲法と違って扱いは普通の法律と同等であるため、衆参両院で過半数を取っている与党がその気になれば次の国会でも十分に生前退位の条項を追加することは可能です。その最も簡単であり、今上天皇の大御心にも沿った選択をせず、敢えて無理筋な改憲を口にしたり特別法という道を選ぼうとするのはなぜなのでしょうか?そして従来の政府見解とも異なるこうした指摘を行ったのはいったいどこの誰なのでしょうか?
またも「お気持ち」の政治利用、内閣法制局「など」が天皇陛下の生前退位に改憲が必要とミスリード

皇位継承問題は、小泉内閣時に検討された。
皇室典範の第一章は、「皇位継承」であり、次のように規定している。

第一条 皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。

つまり、男系&男子が条件である。
女性天皇については、古代史で馴染み深い推古天皇や持統天皇が存在する。
推古天皇の場合は、父親が欽明天皇であり、持統天皇の場合は、父親が天智天皇であるから、男系の女性天皇である。

男系男子に限定すべき論拠は、神武天皇のY染色体を保持することが重要だという。
ヒトのY染色体というのは、男性のみが持つ染色体だから、Y染色体は、男性の系譜を通じて伝えられることになる。
だから、神武天皇のY染色体を維持するためには、現在の皇室典範が規定するように、男系の男子でなければならない、という主張である。
⇒2008年4月25日 (金):天皇家のルーツ

いかにも遺伝学を踏まえた議論であるかのようであるが、もちろん神武天皇の実在さえも疑わしい神話の中の話であって、Y染色体など議論すること自体がおかしい。
記紀神話における系譜は以下のようである。
Photo_7
天照大神-Wikipedia

記紀神話のハイライトは天孫降臨であろうが、天孫とは「天(あま)つ神の子孫。特に、天照大神(あまてらすおおみかみ)の孫、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)」のことである。
特に、以下は、「天」をアマテラス、「孫」をニニギノミコトに限定していると言えよう。
⇒2012年12月25日 (火):天孫降臨と藤原不比等のプロジェクト/やまとの謎(73)
記紀神話がことさらに男系を意識しているようにも思えないのだが。

小泉内閣時の「皇室典範に関する有識者会議」は、2005年11月24日に以下のような内容の報告書を提出した。
・女性天皇及び女系天皇を認める
・皇位継承順位は、男女を問わず第1子を優先する
・女性天皇及び女性の皇族の配偶者も皇族とする(女性宮家の設立を認める)
・永世皇族制を維持する
・女性天皇の配偶者の敬称は、「陛下」とする
・内親王の自由意志による皇籍離脱は認めない
女性天皇及び女系天皇を認めるということで、現行の皇室典範を大きく変更しようとするものであったが、秋篠宮妃の懐妊が報告されると、男児誕生の場合には、第3位の皇位継承資格を有することになる。
⇒2007年12月23日 (日):血脈…③万世一系
無事悠仁親王が誕生されたわけであるが、問題の本質は解決されていないままである。

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コメント

天皇陛下は、象徴とは何か?象徴はどうあるべきか?をご自身の生涯を通して追求なされ、自らのご高齢化に際し、国民に対してこの課題を国民に投げかけられました。象徴とは何かといういわば哲学的な課題を考える場合、憲法にまで遡って考えるのは当然のことなのではないでしょうか?皇室典範という制度論の次元ではないと思いますよ、天皇陛下が投げかけられた問いは。

投稿: | 2016年8月26日 (金) 07時03分

護憲とフェミニズム。ネタ切れで思考停止したリベラリストの大好物。子供が飛びつく「ハンバーグとナポリタン」、まさにお子様ランチのような抱き合わせ商法。

投稿: | 2016年8月26日 (金) 07時53分

象徴としての天皇を論じるには勉強が付け焼き刃過ぎるな。このブログの執筆者。

投稿: | 2016年8月26日 (金) 20時15分

かく言うこの人も男の子が生まれた時に案外喜んでたりして(笑)自分に嘘つくなよって感じだよね〜

投稿: | 2016年8月26日 (金) 20時23分

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